エピローグ02 この世界に戻りて(2)
翌日俺は数か月ぶりに学校に向かった。
とは言え“向こうの世界”に行く前は入学して間もないうちに不登校になったから、何だか新鮮な感じだ。
「アスカが通ってた学校か楽しみだなー。」
それに“今日からは”アルフレッドが一緒だ。
「んー、俺の学校ってこの辺じゃ有数の馬鹿学校だから楽しいもんじゃないかもだよ?」
「でもでも! 僕、まともな学校って行ったことなかったから!」
ナチュラルに目をキラキラされたら非常に困る。
学校に近付くとざわ・・・ざわ・・・というのを感じる。
それはそうだ。
学校でも札付きの不良と赤髪の外国人の女の子が並んで歩いているのだ。
「うーん、学校の皆はアルフレッドになった俺を俺だと認識できてるみたいだな。」
俺は少し周りを見た。
「それが魔法だからね。」
「魔法? どういう事…?」
「僕はこっちで目覚める前…、力を奪われてすぐ死んだわけじゃなくてさ。」
「え、そうなの!?」
「うん。それでね、アスカが国王陛下を倒した時、僕も姫様に会ったんだ。」
「アルエットに…?」
「うん。でね、あの時…」
アルフレッドが話し始めた。
ここは…? 真っ白な…
「フフフ、久しぶりだね。アルフレッド。」
この声は、姫様? でも視界がぼやけて良く見えない。
「久しぶりって変な話だよね。アスカを通していつも会ってたのにね。」
そうですね。僕達はいつも一緒でした。
「でも、いつも一緒だったのはアスカだったけど…ね。」
何か姫様のため息が聞こえた気がした。
「お別れだね、アルフレッド。」
そうですね。僕はもう、ダメみたいです。
「そうじゃないわ。貴方は生まれ変わるだけ。」
生まれ変わる? どういうことですか?
「私の魔力で…ね。」
姫様の魔力…でですか?
「そう。貴方をあの子に渡すのはちょっと癪だけど、その代わり私の希望を入れさせてもらうわ。」
姫様の希望…? なんか嫌な予感がしますね。
「ふふふ、冗談よ。あの子と幸せになってね!」
・・・
「という訳なんだ。」
アルフレッドが少し空を見上げた。
「えーつまりその、アルフレッドがアルエットの体で生まれ変わったのも、俺がアルフレッドで生まれ変わったのもアルエットの魔法でってこと?」
「たぶんね。僕はこっちの世界には元々いない人間だけど、この存在というか設定?も魔法でどうにかしたみたいだよ。」
「せ、設定とか…」
俺は目を丸くした。
何でもありかよ、と思ったが何でもありなのかもしれない。
そうこうしているうちに自分のクラスの教室までやってきた。
「ふ、藤村君おはよう…」
同級生がぎこちなく声を掛けて来た。
「あ、ああ。おはよう。」
俺も同じようにそれに答えた。
まぁ仕方ないよね。
自分が蒔いた種なのだから。
「おはようございます!」
耳元で元気な声が聞こえた。
「お、おわ! アルフレッド!」
俺は思わず片耳に手を当てて振り向いた。
「え、あ、お、おはよう!?」
同級生があっけにとられたような表情になった。
「ダメだよ、アスカ。朝の挨拶は元気良くしないと!」
「それはそうだけど、耳元で大きな声出さないでよ…」
「は~い。」
アルフレッドはにこっと笑った。
「ん、んぐ!」
可愛い。
元々女子力の塊だったアルフレッドだが、アルエットの見た目でそんな表情をされると猶更だ。
んー、俺がアルエットだった時はあんなだったのかな?
腕を組んで考えていると、教室の隅にいた数名の同級生が声を掛けて来た。
「藤村、その女だれだよ? 知り合いか?」
そいつらは俺が昔つるんでいた奴等だ。
「あ、ああ。そうだよ。」
「はー? あの藤村が女連れかよ!」
「・・・」
かつては俺にヘコヘコしてついてきた連中だったが、俺がいない間は大きな顔をしていたようだ。
奴等は俺を小馬鹿にするような視線を送って来た。
昔の俺だったらぶん殴ってやるものだが…。
「…ダメだよ、アスカ。」
アルフレッドが俺の制服の袖を掴んだ。
「ああ、分かってるよ。」
俺は小さく頷くと自分の席についた。
奴等の顔をチラッと見ると拍子抜けした表情を浮かべていた。
数分後、教室に担任の先生がやってきた。
「おや、アルエットさんはもう教室にいたのか。ちょっと前に来なさい。」
先生がアルエットを黒板の前に呼んだ。
「えー、今日からうちのクラスに来た、留学生のアルエット・エール・フランクールさんだ。アルエットさん、自己紹介を。」
「はい!」
アルフレッドが返事をしてクラスメイト達を一瞥した。
「アルエット・エール・フランクールです。アルエットはフランス語で、日本語だと雲雀と言う意味です。よろしくお願いします。」
アルフレッドはそこまで言うと一度ペコっと頭を下げた。
「それと、日本語は勉強したのでだいぶ話せます。皆さんと仲良くなりたいのでたくさん話し掛けてくださいね。あ、でも…!」
アルフレッドが俺をじっと見た。
「僕はアスカの彼女なので、誘惑しても無駄だからね。アスカを誘惑してもダメだよ!」
「な、何を言ってるんだよ。アルフレッド…」
俺は顔を赤くして縮こまった。
先生は目を丸くし、同級生には冷やかすような声を上げるものもいた。
その日の内に、札付きの不良が赤髪の女の子と付き合っているという噂が学校中を駆け巡った。
実にやりにくい事であったが、俺は学校をさぼるようなことも無くなった。
他人を傷つけたり、悪事を働くことも無くなった。
クラスメイトともうまくやっている。
これはおそらく、いや絶対にアルフレッドのお陰と言っていいだろう。
社交的なアルフレッドは色々な世話を焼いてくれるし(それを冷やかされることもあるが)、屈託のない笑顔を見てると悪い事なんかする気も無くなってしまう。
“向こうの世界”での体験は俺の人生に大きなものを残してくれた。
あれが無ければ俺はどんどん駄目な人間になるだけだったはずだ。
「どうしたの…? 次は移動教室だよ!」
アルフレッドが俺の肩を叩いてきた。
「ん、ああ、何でもないよ。」
「じゃあ、僕、先行くよ?」
「ああ、すぐに行くから。」
俺は笑いながら答えた。
俺はもう間違えない。
いや、“こっちの世界”でも悩むことはあるだろう。
でもこいつさえいれば大丈夫なはずだ。
駆けていくアルフレッドの後姿を見ながら俺はそう考えた。




