エピローグ03 意志
轟音が鳴り響いた。
それに続いて地面の揺れ、空気を震わせる膨大な魔力の流れが感じられる。
あれはアスカ達が向かった玉座の間の方だ。
「一体何が起きたの…?」
リディが思わずカールにしがみついた。
「ふむ、これはまずい流れになりましたね。」
上空ではブレーズが軽く舌打ちした。
(この膨大な魔力は…姫様のものだ。それが“爆発”したということは…)
レオポルドが負けたという事だ。
しかしそれはギュスターヴが勝利したことを意味するのか?
この魔力の爆発は破壊的なものだ。
勝者はいないのかもしれない。
「グハハハハ!! 力が漲る…!」
イアサントが大きな声を上げた。
その表情は普通ではない。
目は怪しく光り、顔の血管が盛り上がっていた。
「ち、浸食か!?」
ブレーズが表情を変え、イアサントに掌を向けた。
「静まるのだイアサント。貴様の役目は敵を滅ぼすものにあらず!!」
「グォォワァァァ、喧しいわ!」
イアサントが斧を振り回した。
物凄い風圧だ。
その風圧は障壁を破りブレーズを吹き飛ばした。
ドォ!
ブレーズの体が地面に墜落した。
「ク…」
ブレーズが起き上がろうとした。
「動くな。」
アレクサンドルが剣を突き付けた。
「今はそんなことをしている余裕はないと思いますけどね…!」
ブレーズは顔をしかめながら答えた。
「質問に答えろ。あれは何だ? 何が起こっている!?」
「あれですか…」
ブレーズが一呼吸置いた。
「あれは、イアサントは私が改造したのです。あの改造近衛兵のプロトタイプなのですよ。」
クックックと笑った。
「イアサントや近衛兵共には初代ヘンドリクセンが倒した悪魔の血肉を移植しました。だがその制御が難しい。特にイアサントの力は強大過ぎる。その力は徐々に彼の意識を侵食し始めていたのです。」
「・・・!」
アレクサンドルの手が微かに震えた。
「制御するために私は彼に様々が策を施しましたが、浸食を止めることは出来ませんでした。先程の強大な魔力の流れが…イアサントの意識を完全に押し潰した結果があれでしょう。」
「止めることは出来ないのか…!?」
「意識が完全に浸食された結果、彼に宿った魔の力が解放されました。これは一筋縄では行かぬでしょうね。」
ギン!
ブレーズがアレクサンドルの剣を押しのけた。
「ち、動くなと言った筈だ!」
アレクサンドルが再び剣を突き付けようとした。
ブレーズがその動きを手で制した。
「確かに君は腕が良いようです。だが君では無理でしょうね。」
「何だと…!」
「ガァァァァ!」
その時、咆哮が響いた。
「な、何だ!?」
「始まりましたか…」
イアサントの巨体が震え、そして肩から背中にかけての筋肉が盛り上がり始めた。
「何が始まったんだ!?」
「初代ヘンドリクセン王が倒した悪魔はその強大な力を持つが消費も激しい。それ故失った力を取り戻す為に多くの魂を喰らったそうです。」
ブレーズがそう言った時、イアサントから数本の触手のようなものが放たれた。
「ぐああああ!」
魔闘兵や近衛兵が数名触手に捕らわれた。
グジュグジュ!
捕らわれた者達が喰らわれていく。
「また来るぞ!」
今度はアレクサンドルやカールがいる方に触手が迫って来た。
「避けろ!」
ドガァァ!
「あああああ!」
叫び声が聞こえた。
アレクサンドルは声がした方を振り向むと、言葉を失った。
リディの右腕が喰われていたのだ。
傍らでは必死に抱きしめるカールがいた。
「くっ…! おい貴様! 何とかあれを倒す方法は無いのか!?」
アレクサンドルがブレーズの胸倉を掴んだ。
「言ったでしょう、貴方の力では無理です。いくら剣技に秀でていても、やつには致命傷を与えられますまい。」
「し、しかし…!」
「無論、私は今からイアサントを止めに掛かります。私とてあのような化け物を作り出した責任を感じていますからね。ですが、私だけでは時間稼ぎにしかならぬでしょうがね。」
「な、ならば俺が貴様の援護をすれば…!」
「無駄だと言った。貴方では足手纏いにしかなりません。ですが、そこの獣人の子ならばあるいは…」
ブレーズがチラッとカールを見た。
「もしその子が“完全な獣化”を使いこなせるならば、あるいはイアサントを止めることが出来るかも知れぬ。」
その言葉にカールが反応した。
「ボ、ボクは…」
カールは拳を握りしめた。
「駄目だ! カールはまだ子供なんだぞ! 確かに俺は未熟かも知れんが、これ以上子供達を危険な目に遭わせるわけには…!」
「やるよ、アレクサンドルのお兄ちゃん。」
「カ、カール!?」
「“完全な獣化”だよね? 1回だけなら…出来るよ。」
カールがブレーズの方を向いた。
「このままじゃ皆やられちゃう。それにリディを早く手当してあげないと…」
「カール…」
「それはアレクサンドルお兄ちゃんの役目だよ。早くリディを手当て出来るところに連れていってあげて…」
カールがアレクサンドルを押し退け、ブレーズに近寄った。
「待て、カール…!」
アレクサンドルがカールを止めようとした。
「早く行って!リディをお願い!」
カールが叫んだ。
確かにこのままではリディの容体が悪化してしまうだろう。
「分かった…。リディは俺が責任を持って連れていく。」
アレクサンドルが苦渋に満ちた表情で頷くと、リディに止血帯を巻き付け担ぎ上げた。
「だが、必ず迎えにくるからな!」
そう言うとアレクサンドルがその場を離れていった。
「1回だけの完全な獣化…ですか。すると貴方は半獣半人ですね。貴方はその意味が分かっていますか?」
「うん。例えあの人を倒せたとしても、ボクは命を落とすかもしれない。でも…」
カールがイアサントに鋭い視線を向けた。
「でもそれは必要な事だ。ボクはボクの大切な人を守りたい。あなたはそうじゃないかもしれないけど…」
「強い意志を持つことが重要なのです。それが良いか悪いか…は別な話でしてね。」
「今だけはあなたが敵だってことは忘れてあげるよ。」
「よろしい。それで構いませんよ。」
「うん。」
カールが頷いた。
そして全身に力を漲らせていく。
「ウグググ、グァァァァ!」
カールが咆哮した。
それは彼が見せた強い意志。
その意志は決して負けることは無いだろう。




