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俺・プリンセス  作者: 風鈴P
第10章 王都決戦編
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第100話 終焉、そして(1)


「ん・・・。」

俺は目覚めた。

ここは…どこだ?


辺りを見渡した。

辺りには何もない。真っ白な世界。

いや、向こうに何かある。

ぽつんと唯一つだけ。

俺はそれに向かって歩いた。


そこにあったのはバイゼル城で(アルエット)が眠っていたベッドだ。

そう、ここは(アルエット)の精神世界だろう。

俺はベッドの近くまで来た。

あれ、(アルエット)がいない。

依然リディの村の族長に連れてこられたときは確かにここにいたのに。


「来たわね。」

突然背後から声を掛けられた。

「え…!」

俺はビクッと体を震わせた。

振り返ると俺がそこにいた。

「お、お前はアルエット…?」

「そう、私はあなた(アルエット)よ。」

アルエットは微笑むと俺の前を通り、ベッドに腰掛けた。

「あなたも座りなさいよ。」

「う、うん…」

俺は誘われるまま、アルエットの隣に座った。

「な、なあ! 俺は死んだのか? 何で俺はここに…!?」

「落ち着きなさい。」

アルエットが手を翳した。

その先がポゥっと光り、先程まで俺がいた筈の玉座の間の様子が映された。

不気味な笑みを浮かべる“父”。

その近くに横たわる俺がいた。

「お父様は私達兄妹の力を奪い、稀代の魔導士・初代ヘンドリクセンに近付こうとしている。」

「それはお父様から聞いた。もうどうしようも無いのか…?」

俺はアルエットの肩を掴んだ。

「っ!」

アルエットが表情を歪めた。

きっと精神世界のアルエットは目覚めた時の(アルエット)と同じで体が弱いのだろう。

「あ、ご、ごめん…」

慌てて手を放した。

「だ、大丈夫…。あなたが動揺するのも分かるわ。」

「…お父様をこのままにしたらどうなるか。」

“父”は今まさに強大な力を得ようとしている。

“父”の野心はナイザール王国のみならず、大陸全土を再び戦禍に陥れるかも知れない。

一緒に城に来たカール達も殺されてしまうだろう。


俺は恐怖に体を震わせた。

そんな俺を見て、アルエットは俺の肩を抱いた。

「だから落ち着きなさい。私の話を聞いて。」

「え、あ、うん…」

「あのあたりを見て。」

アルエットがある方向を指さした。

「あそこ、徐々に黒っぽくなっているのが分かるでしょう?」

「うん。」

「あれは私達の精神世界が崩れ始めてるところなの。」

「もしかして、お父様に力を奪われたから…?」

「そうね。でも一気に崩れている訳じゃない。アスカ、何故だか分かる?」


確かに兄レオポルドの様に力を奪われてすぐに絶命したのなら、精神世界はすぐに崩れ落ちるだろう。

そうならないのは一体何故…?

「分からないよ…」

「それはね、まだ私達が死んで無いからなの。」

「え、それはどういう…?」

俺の問いに、アルエットが答えた。



「お父様は私達の力のすべてを奪うことは出来なかった。奪うことが出来たのは私達が持っていた魔力の一部だけ。元々私が持っていた固有スキルは無限魔力貯蔵、つまり魔力を貯蔵量の上限が無い、と言うものと魔力回復(大)のふたつ。常に強大な魔力を無限に出せるものじゃないの。」



「人にはそれぞれ魔力を貯蔵できる最大量が決まっている。どんなに鍛錬しても最大量以上の魔力を保有できないのよ。私は特殊で限界が無いけど、私の固有スキルを奪う為には“私の体自体を奪わなければならない”。」



なるほど。“父”は兄ギュスターヴの体をベースにして力を奪っていた。

スキルによってはそれでは奪えないものがある、と言う事なのか。



「それに加えてあなたが私として転生した時に、魔力増幅(極大)と言うスキルを保有したわ。それは持っている魔力を何倍にも増幅するというものなの。そのお陰であなたは短期間で強くなることが出来たわ。」



説明を終えたアルエットが立ち上がった。

「お父様を止める手立てはまだあるわ。それを出来るのはあなただけ…」

「俺…?」

「選ばせてあげる。これはあなたが元の世界に戻れるチャンスでもあるわけだから。」

「そ、それはどういうことだよ!?」

俺も立ち上がった。

「あなたがもし今すぐ元の世界に戻りたいのなら、あの闇に飛び込みなさい。」

アルエットが精神世界が崩れている先を指さした。

「でももしあなたがお父様を止めたいのなら、私を抱きしめなさい。私の最後の力であなたをあの玉座の間に戻してあげる。そしてお父様にある事を言いなさい。」

「な、何を言えばいいの?」

「それは私を抱きしめたら教えてあげる。」




俺はどうすればいいのだろう?

アルエット曰く、あの闇に飛び込めば元いた世界に帰れるらしい。

愛するアルフレッドは恐らく兄達のように死んだのだろう。

この世界に愛する人はもういない。

でもそれで良いのか…?

大切な仲間もいる。

カール、リディ、ケヴィン達。

まだ仲間になって日は浅いが、アレクサンドルも気の良い青年だ。

“父”をこのままにしたら多くの人が死ぬだろう。




「アルエット、決めたよ。」

俺はアルエットを見た。

「俺に力を貸してくれ。お父様を止める!」

俺はアルエットを強く抱きしめた。

「うん。ありがとう、アスカ。」

アルエットも俺を強く抱きしめた。

そして俺の耳元で囁いた。

話し終えると、強い光が輝き始めた。

そして俺は精神世界から消え失せた。



「ありがとう。これで私も精神世界(ここ)から解放される。」

アルエットは涙を流しながら微笑んだ。


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