第98話 黄昏の玉座
俺達はその扉を開けた。
重い扉の先には…。
「ククク…。これはこれは兄上、お久しゅうございますな。」
玉座には足を組んだレオポルドが座っていた。
「そうだな、レオポルドよ。」
ギュスターヴが応じた。
「血塗られた兄弟の再会ですな。兄上。アルエットも連れて来て頂いて、感謝致しますよ。」
レオポルドはチラッと俺の方を見た。
「妹の従者もいるようだが、然したることはありますまい。」
レオポルドが漸く腰を上げた。
すると玉座の左右から近衛兵の一団が姿を現した。
「兄上の反撃は目覚ましいものでした。まさかこんなに早く王都に迫るとは思いもよりませんでした。」
「フム。その割には追い詰められている様には見えぬな?」
「フフフ、その通りです。あれをご覧ください。」
レオポルドが手を上げると、玉座の後ろの幕が開いた。
「な、なにあれ…?!」
俺は思わず声を上げた。
そこには鎖に繋がれた人物がいた。
いや、ヒトでは無いだろう。
頭には角が見え、背中には羽が生えていた。
何らかの封印がされているのか意識が無く首を垂れている状態だ。
「それは魔族だな。しかも上位の者か。」
「その通り。そこで繋がれているのはかつて初代ヘンドリクセンが討伐し、封印した上級魔族です。討伐されるまで、この大陸の住まう者全ての脅威となっていたものです。」
レオポルドは繋がれた魔族を見た。
「ククク…。俺はこいつを復活させる。そうすれば形勢など簡単にひっくり返せるだろう。」
「ば、馬鹿な! お兄様何て恐ろしいことを!?」
俺が叫ぶとレオポルドがこちらを見てニヤリと笑った。
「復活させるにはアルエット。お前の魔力が必要だ。」
「フン。だが復活させて何とする? 初代が討伐したほどの“モノ”であるならどのように御するつもりなのだ…?」
「クク、兄上。俺はその術を持っているのだよ。…俺を依り代にして復活させるのだ。俺は城の地下でこいつを見つけた頃から長年研究してきた。この近衛兵共はその副産物にすぎぬ。」
レオポルドがニヤリと笑った。
「それでも貴様を殺るには十分な力を持っている。さて兄上。そろそろ死んでいただきましょうか。俺にはアルエットの魔力さえあれば良い。…やれ!」
レオポルドがギュスターヴの方に手を翳した。
「フフフ、ハハハ…!」
突然、ギュスターヴが笑い始めた。
「何がおかしい!?」
「心意気は良し。だが、そのような輩で俺を殺せると思わないことだ。」
ギュスターヴが右手を上に掲げた。
「地獄の業火!!」
ギュスターヴの掌から黒く激しい炎が迸った。
近衛兵達が漆黒の劫火に焼かれていく。
「馬鹿な! 魔闘兵の兄上が魔法を使っただと…!? しかもこれは…」
レオポルドは魔法障壁で辛うじて防いでいるようだ。
俺とアルフレッドは身を低くして凌いでいた。
「アスカ、まだ体を上げないで。あの炎は普通のものじゃない…!」
「う、うん…」
俺は身を震わせた。
兄ギュスターヴがまさかこのような魔法を使うなんて。
「フム、これを防ぐか。流石だなレオポルドよ。」
ギュスターヴがニヤリと笑った。
「く…。兄上、何故それを使える!? 答えろ!」
レオポルドが叫んだ。
「さて何故だろうな…?」
「それは優れた魔導士であった俺の母上の家系の者しか使えぬ極大魔法…。その血を引く俺でさえ習得できなかったというのに!?」
「そうだな。儂としてはあのような政略的なものは好かんかったが、あの女は良い魔法を儂に残してくれたものだ…。」
「何…!?」
レオポルドが表情を変えた。
その顔には明らかな動揺が見られた。
「まさか…、貴様は…!?」
「気付いたか? その辺は褒めて進ぜよう。」
「クク、なんて事だ!? まさか、これはお前の思い通りなのか?」
「そう思うか? “我が息子よ”」
兄達は一体何を言っているんだ…?
「お兄様、一体これは…?」
俺は恐る恐る口を開いた。
「ククク、アルエットよ。お前はとんでもない人物とここに来たものだ。」
レオポルドが苦渋に満ちた笑いを浮かべながら答えた。
「そこにいるのは兄ギュスターヴではない。父上だ。」
「えっ!?」
その言葉に俺が体をビクッとさせた。
ギュスターヴ、いや、レオポルドに父と呼ばれた人が気味の悪い笑いを浮かべた。
「その通りだ。いや、儂はギュスターヴでもあるのも間違いではない。」
「…簒奪能力か。まさかそのような能力を持つ人物が実在しようとは…」
「知っておるか。流石は理を司るものよ。」
何なんだ?
目まぐるしい展開にとてもついていけない…。
「アルエット、我が愛する娘よ。何が起こっているか分かっておらぬようだな。説明してやろう…」
“父”が語り始めた。




