その後のこと(第三者視点)
難しかった…
巫女は神狐へと姿を変えた。
その事実を受けてざわめきが起こる。
仕方がないこだろう。
巫女が人間の純血だと思っていた者達には、あまりにも衝撃的だ。
そして、その場には一人の男がいた。
短めの白銀の髪、血のように紅い瞳。
左眉の二センチ上から瞼を経由し、左の頬骨の真下までの刀傷の傷跡。
整った顔立ちをして口に煙管を咥えており、鬼灯の模様がある黒い着流しを着ている。
身長は185ほど。
咥えていた煙管を持ち、口から離して紫煙を吐き出す。
アレクが上に乗っていて、気絶してしまった月華をちらりと見る。
その色彩と狐としての特徴を持つ耳や尻尾。
そしてアレクの傷は、当たっていた涙によって消えていることこそ神狐の証だ。
だが、神狐の純血ではないとその身にある人間としての……けれど、どこか異質の魔力が教えてくれた。
「なるほど、この世界の神狐と異世界の人間のハーフか。自分がハーフだと知らないな、これじゃ」
そう言った男の言葉にざわめきが大きくなる。
それはあり得ないが、あり得るからだ。
矛盾しているが、真実である。
神狐は神だ。
神狐が異世界に行ける可能性だってある。
創造神が異世界から巫女を呼び出したように。
やっとダメージが回復したのか、フリッツが立ち上がる。
料理の並べられた皿へと吹っ飛ばされたからか、服などが悲惨なことになっている。
若干ふらついているだけなのは、月華が無意識に手加減して尻尾で叩きつけたからだろう。
本気ならば、骨折させてもおかしくない。
いや、吹っ飛ばした直後に怒りのままに痛めつけようとしたのかもしれない。
険しい表情なのを見て、月華に怒りを覚えているのは丸分かりだ。
「しかし…巫女としても神狐としても、貴様は認められていないのは明らかだな」
その意味に気づいて青ざめるのは国王や宰相、フィアンマータの上級貴族達。
巫女としてならば、まだ誤魔化せるかもしれない。
だが、神狐としては別だ。
神狐はたとえ同族だろうと、自分が認めた者ではないと伴侶にしない。
長い歴史の中に、神狐を無理矢理に伴侶にしようとした者は何人かいた。
その者達は全員、神狐によって殺されている。
「それがどうしたというんだ…」
「王子!」
そのことをフリッツは知らないらしい。
訝しげにしている。
彼の言葉を聞いて宥めようにカールが声をかける。
フリッツに呆れたのか男は煙管を再び咥え、アレクを俵担ぎにしてから月華を横抱きする。
それに喚こうとしたフリッツの口を氷属性魔法で閉ざさせる。
「んじゃ、こいつらはこいつらが住んでる場所に帰すか」
言った直後、三人の姿は消えた。




