怒り
流血・微暴力表現があります。
お気をつけください。
今回はわざと、いつもと文体を変えてます。
黒が私の視界を遮る。
上から聞こえる、痛みを堪える声。
見上げると、見慣れた顔。
「アレク、さん…?」
「良かった…つ……きか……」
顔色が悪いのに微笑んだかと思えば、私の方へと倒れる。
受け止めきれなかったが、私は彼を支えてその場に尻餅をついた。
背中を見ると斬られた、深い傷があってそこから鮮血が溢れている。
私のドレスを、血が染めていく。
アレクさん、何でここにいるんですか?
アレクさん、何で鎧を着てないんですか?
アレクさん、何で騎士としての鎧じゃない方の正装なんですか?
アレクさん、何でこんな傷があるんですか?
アレクさん、何で私を守ったんですか?
アレクさんの血が、床に溜まる。
それを呆然と眺める私の耳に、信じられない言葉が入ってきた。
「何だこいつ、邪魔だな。勝手に入ってくんじゃねぇよ、その女はフィアンマータが召喚したのだから触りもすんなよ」
フリッツ王子が私の上にいるアレクさんを蹴ろうとする。
やめろ。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。
アレクさんは私の大切な“存在”だ。
彼を傷つけるな。
……殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
血が熱くなるのを感じる。
血が騒ぐのを理解してる。
彼を守れと。
彼を癒せと。
敵を殺せと。
敵を壊せと。
「やめろ」
白銀の何かがフリッツ王子を吹き飛ばす。
フリッツ王子は料理の乗ったテーブルに突っ込んでしまう。
皿が割れて音が響く。
周囲が悲鳴を上げる。
誰かがミコと言った。
確かに私は巫女だ。
けれど一人の人間だ。
誰のものでもない。
「アレクさん…アレクさぁん…」
涙が頬を伝う。
その涙はアレクさんにかかった。
魔力が暴走しそうだ……。
「落ち着け、憤怒の娘」
甘い香りがして、私の意識が落ちた。




