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絵描きのモーネと傭兵ゴッソ  作者: おしお


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EP〜藍色の竜編〜 第九話 もう何度も一緒に寝ましたよね


「さっそく使いますね!」


 モーネは鞄から鞄へ物を移していく。


「あれ? なんだろうこれ……」

「ん?」

「頭の中に物の一覧が浮かんでくるんですよ」

「ああ。そういう術式が組まれているらしいな。魔力を介して伝えるらしいが、原理は知らん」

「凄いですねぇ」


 取り出したい物を頭に浮かべ、鞄から取り出すことができる。

以前、藍色の竜が使っていた魔法に近い術式なのだろうか、初めて触ったが違和感を感じなかった。


 すでに夕方の手前に差し掛かっていて、二人は今晩の宿を求めて街をさまよう。


 宿も多く、外観は客の目を引くために派手な飾りをしている。


「どこにしますか?」

「うむ……どれでもいいんだが」


 できることならば綺麗な宿がいい。

それも風呂つきの。


 当然、値段もそれなりだろう。

しかし、幸いなことに懐はあたたかい。


 野営ばかりで疲れも溜まっているだろうし、モーネにはゆっくりと眠ってほしかった。


「おや……お兄さん。また会ったなー」

「……ヨハネ」


 ふと、背後から聞き覚えのある声がした。

微かに笑みを浮かべ、ヨハネは二人へ歩み寄る。


「あ、バターとワインをくれた……」

「そうそう。覚えててくれた?」

「はいっ」

「もしかして、宿を探してる?」

「ああ。風呂つきがいい」

「なら、俺が泊まっている宿はどうだい? 風呂つきで一泊、ひとり五千ゴルドだ」

「ほう。安いな」

「俺の知り合いでね。顔がきくのさ」


 胸を張ったヨハネへ、モーネは小さな拍手をおくる。


(あっちの関係者か……)


 面倒なことにならなければ良いが、とゴッソはそんな二人を見ながらため息をついた。


 案内されたのは、旅人の宿「フランシア」。


 受付ではスキンヘッドの男が仁王立ちしていて、店名からは想像もつかないギャップを生み出している。


「あらーん。ヨハネちゃん」

「おう。アズール。知り合いが泊まりたいってさ」

「あらー……じゃあ、お安くしとくわね」

「あ、ああ。ありがとう」

「いいのよ。お礼なんて。あなた男前だし」


 ゴッソは舐めるようなアズールの視線で、背筋が粟立つのを感じた。


「ふ、二人だが。二部屋用意できるか?」

「残念ねぇ。一部屋しか空いてないの」

「私は一緒でいいですよ」

「だが……」

「もう何度も一緒に寝たじゃないですか」

「ーーっ!?」


 ヨハネ、アズール、それに周囲にいた人々の視線がゴッソへ向けられる。


「……誤解されるようなことを言うな」

「へ? 誤解? なんで誤解するんですか?」

「まあ、いい。野営のことだよな。野営の」

「そうですけど……」


 つまらない、とでも言いたげに、たくさんのため息が聞こえる。

二人には一階の角部屋が与えられ、どんな部屋かと入ってみると、二つのベッドと大きなランプが出迎える。


「可愛いなぁ」


 部屋の中央にあるランプは花の形を模していて、火を灯せばさぞ綺麗だろうと想像させた。


「先に入るといい。俺は後からでかまわない」

「じゃあ、お言葉に甘えて!」


 浴槽に湯を溜めて、モーネから風呂に入る。

厚手のワンピースはもうクタクタで、そろそろ新しいものが必要だと感じた。


「うーん……」


 裸になったモーネは、自分のお腹をつまんで表情を曇らせた。


 あんなに歩いていたのに、なぜか大きくなってしまったと。


 石鹸で頭を洗って、次に体を擦る。

しばらくぶりのせいか、流れていく水が汚れていた。


 足先から湯船へそっと浸かり、肩まで沈み込むと声がでた。


「あぁー……いい気持ち……」


 体を伸ばして、凝り固まった筋肉をほぐしていくと、ずっと浸かっていたくなる。


 長湯をしていたせいで、だんだんとお湯は冷めてしまい、モーネは着替えている間にお湯を張り替えた。


「おまたせしました」

「ああ。気にするな」


 寝巻き用のシャツと短パン姿で髪を拭きながら現れたモーネから、ゴッソは反射的に目を逸らした。


 特に女性として意識していないが、あまり見るものでもないなと気を使う。


 入れ替わりでゴッソが風呂へいき、モーネは鞄から画用紙を取りだして、今日見たばかりの街の景色を絵描きはじめた。


 まるでそこにあるかのような、写実的な絵。


 鉛筆だけで描きあげたとは思えないほど、陰影をきかせた完成度の高いもの。


「ふぅ……」


 風呂から出たゴッソは、真剣な表情をしているモーネを見て微笑む。


 ベッド脇に置いていた長剣を磨きながら、絵が完成するのをのんびりと待った。


「……よし」

「できたか?」

「あれ? もうこんな時間ですか……」

「いや、気にするな。こんな日もそう多くはないからな」


 宿に泊まってゆっくりと休む。

そんな機会は今までなかった。


「はいっ」


 二人はベッドへ横になり、出会ってからの出来事を思い出して、夜遅くまで語り合った。


 眠りについた街の路地裏で鳴く猫の声。

酒に酔った誰かの笑い声。


 閑静な街に、ひとつまみの色を載せる。

モーネが眠りについたころ、街の色はひっそりと消えていた。

 

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