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絵描きのモーネと傭兵ゴッソ  作者: おしお


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EP〜藍色の竜編〜 第七話 コーヒーは苦いんだもん

「どこか行きたいところはあるか?」


 教会を出発した翌日、街道脇の草むらに寝転びながらゴッソは隣で絵を描いているモーネへ問いかけた。


「…………」


 遠くに見える巨大な滝と、水しぶきが生み出した虹。

生え揃う新緑の葉、空を渡る鳥たち。


 それらは、モーネの心を掴んで離さなかった。


(……凄まじい集中力だな)


 見て、描いて、見て、描いて。


 モーネの顔は正面と画用紙を行き来していて、ゴッソの声が入り込む余地もない。


「ふぁ……」


 大きなあくびをしたあと、ゴッソは静かに目を閉じた。


 モーネが絵を描き終えた頃、空には月が登り始めていた。


 もうまもなく日が沈む。


「ゴッソさん。起きてください」


 珍しく深い眠りについているゴッソの体を揺らすと、何事かと飛び起きた。


「どうした!? 魔物か!?」

「いえ、お待たせしてしまってすみません」

「あー……そうだったな」


 ゴッソは後頭部を掻きながら、立ったついでにと薪を拾いに行く。


 モーネは夕食の準備をするために、フライパンと乾燥した麺、それにガーリックオイルを取り出す。


 燻製してあるウサギ肉を薄くスライスして、近くに生えている球根を食べられる植物を採取した。


 それを洗って細切れにし、ゴッソが火を起こしたらフライパンで炒めていく。


 ウサギ肉の脂が染み込み、独特のクセがある香りが引き立つ。


 水を注ぎ麺を入れ、水分が蒸発するまで火にかけた。


「できました! ウサギ肉と百合根のパスタです」

「パスタ……珍しいな」

「アオルさんから密かに貰ったんですよ。なんでも、南の方では主食だとか」

「知っている。食べるのは初めてだが」


 フォークでパスタを巻き、ゴッソはおそるおそる口へ運んだ。


 軽く残った芯が麺のコシのような歯応えがして、オイルや野趣溢れる風味とマッチしている。


 ワインでもあれば最高だろうな、と思いながら、教会で飲み干してしまったことを後悔した。


「うまい。初めて作ったんだろう?」

「はい。作り方はディアーさんに習っていたんですけどね。うん、美味しくできましたね!」


 満足そうにトロンとした表情で、モーネはパスタを口へ運ぶ。


 こういった料理が好きなのだろうか、いつもより食べるペースが早い。

 

 食事を終えると、モーネはいつもの紅茶ではなく、豆を煎じたものを取り出した。


 それを紙の上に置いて、下にはコップをおく。

上からお湯を注ぐと、黒い液体がコップへ溜まっていく。


「ほう……コーヒーまで」

「ふふふ。驚きました?」

「これは王都にも出回っていてな。朝はいつもコレだった」

「美味しいですか?」

「うまいぞ」


 二つのコップが満たされて、立ち上る湯気の香ばしさが鼻の奥をくすぐる。


「すごく良い香りですねぇ」

「ああ。うん、美味いな。このコーヒー」

「では私も……ぶえぇぇっ……に、苦い……」


 笑顔から一転。


 モーネはこの世のものではない液体だとでも言いたそうに、あからさまに渋い顔をした。


 普段の可愛らしい男性な顔立ちがこれでもかと歪んで、ゴッソは笑いを堪えきれなかった。


「ぷっ……くっくっくっ……はははっ! な、なんだ……その顔……くくっ!」

「だって苦いんだもん!!」


 モーネは顔を真っ赤にして、ゴッソへ怒りを露わにした。


「砂糖があっただろ? それを入れてみろ」

「騙されませんよ!」

「牛乳でもあれば良いんだけどな。とりあえず砂糖をたっぷりいれてみろ」

「……わかりました」


 モーネはスプーンへ山盛りに砂糖を乗せる。

コーヒーへ混ぜて舌先で警戒すると、先ほどの苦味は薄れていた。


「ちょっと苦いけど甘い……不思議です」

「それなら飲めるだろう?」

「はいっ」


 焚き火を囲んでコーヒーを飲む。

穏やかな時間が流れ、ゴッソは次の目的地について問いかけた。


「朝がた聞いたが、次はどこへ行くんだ?」

「えっ、聞きました?」

「絵に夢中で聞こえてなかったんだろう?」

「ごめんなさい……」

「で? どうする?」


 モーネは鞄から封筒を取りだし、ゴッソへ手渡した。


「読んでみてください」

「いいのか?」

「はい。私にはさっぱりで……」


  ゴッソが封筒から取り出した手紙は、一文だけが記されていた。


″神の声が聞こえたとき、また会おう″


「なんのことだ?」

「うーん……お父さんはよくソピカの絵を描いていましたから」

「絵の声? よくわからんな……」

「この近くで、たくさんの絵がある場所ってどこですか?」

「南東にあるスティーラだな。大きな街だ。美術館もある」

「では、そこへ行きましょう。なにか手掛かりがあるかもしれません」


 ゴッソはその街の名を口にしたあと、オークションの開催を思い出した。


 内心「しまった」と毒づいたが、これも流れかと頭を切り替える。


 誘導したようで良心の呵責があるが、忘れていたので許してほしいと胸の内でモーネに謝罪した。


 翌朝になり、二人は日が登ると同時に歩きだした。


 スティーラまで一週間ほど。


 道中、モーネは取り止めのない景色をスケッチしながら、いつか色をつけて完成させようと描き溜めていく。


 本当に絵が好きなんだな、と微笑ましく思いながら、ゴッソはモーネのペースにあわせて歩いた。


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