EP〜藍色の竜編〜 第十一話 盗賊団を殲滅せよ
「アレがアジトか?」
「そうだ。古い坑道を根城にしているんだ」
「……面倒だな」
ゴッソとヨハネは東にある鉱山へ来ていた。
すでに掘り尽くされて破棄されたそこは、盗賊団のみならず魔物がうろついている。
二人は魔物を退けながら進み、大きな岩の裏に隠れて坑道の入口を眺めていた。
見張りが二人。
短剣を腰に据えて辺りを警戒している。
「で? 正面から行くか?」
ゴッソはアレコレと考えるのが煩わしくなり、正面から斬り伏せようと暗に提案する。
しかし、ヨハネは首を左右に振った。
「いや、坑道の出口が他にもある。正面から攻めれば……あんたの実力なら難しいことじゃない。逃げ道がなければな」
「逃すと面倒だな」
「ああ。報復がな。俺たちは平気だが……」
ひとりになったモーネはそうもいかない。
ヨハネは濁した言葉にその意味を込めた。
「夜を待とう。そして、別の入口から二手に別れて挟み撃ちする」
「それ以外なさそうだなぁ」
「暗殺は得意分野だろ?」
「そりゃそうだ」
よっ、と声を出しながら立ち上がり、ヨハネは明後日の方向を向いた。
「じゃあ、俺は鉱山の南から行く。あんたはこっちからな」
「わかった。出入口は二つだけだな?」
「ああ。事前に下見は済ませておいたさ」
片手をあげて軽く振り、ヨハネは姿を消す。
やがて日が沈み、月が高々と昇ったころ、闇に紛れてゴッソは動き出した。
見張りは大きな欠伸をしている。
悟られないように足音を殺し、背後に回って口を塞いだゴッソは、力任せに首を捻った。
ごきん、と鈍い音がして、見張りのひとりは力を失う。
「ん?」
反対側に立っていたもうひとりが、その音を聞いて短剣を抜き、ゴッソの方へ静かに歩み寄る。
「…………!」
ゴッソは倒した見張りの短剣を抜いて、もうひとりの口を押さえながら壁に押しつけ胸を刺した。
噴き出てくる血液が、戦場にいたころを思い出させる。
「……帰ったら風呂だな」
ゴッソは短剣を投げ捨て、袖についた血の臭いを嗅いだ。
そして、長剣を抜き坑道の中へ足を踏み入れる。
壁伝いに歩き、やがて開けた場所から光が差し込んできた。
身を屈めて中を覗くと、盗賊たちが酒を飲んでいる。
掘削道具をおくための広場は、それほど広くない。
とはいえ、散り散りになれば逃してしまう恐れがある。
広場を抜けた先の通路は明るい。
まだ奥がありそうだ。
「仕方ないか」
ゴッソは長剣をしまい、マントにくるんで床に置いた。
そして、広場へ堂々と姿を現して叫ぶ。
「侵入者だー! 侵入者があっちにいるぞー!」
その言葉に反応して、酒を手放した盗賊たちは、かわりに武器を手に取った。
「なにぃ!? って、お前見ない顔だな」
「俺は新入りだ。見張りをしていた」
「そうだったか……ん? いや、あれ? そうだっけ?」
酒が回っているせいで正常な判断が出来ず、盗賊たちは顔を見合わせて困惑している。
十五人がゴッソを取り囲んだ。
見渡してみると、その場にいた全員で間違いなさそうだ。
「いや、お前らが忘れるのも仕方ないさ。思い出さなくていい」
「んー?」
「……お前らはここで死ぬからな」
「…………グアァァッ!?」
ゴッソは手近にいた男のショートソードを奪い取り、一番近くにいた相手の首を斬りつける。
「な、なんだ!?」
ゴッソは近い者から次々に足を斬っていった。
腱や筋肉を断たれ、盗賊たちは痛みでのたうちまわる。
これで逃げようにも逃げられない。
ゴッソは首を斬り落とし、あるいは心臓を貫き、盗賊たちの命を奪って行った。
「あまり斬れ味はよくないな」
血と脂に塗れた剣をすて、自身の得物とマントを拾い上げて奥に進むと、坑夫たちが休む寝床があった。
騒ぎを聞きつけて戦闘の用意をしている。
「誰だっ!?」
ゴッソの気配に気づき、盗賊のひとりが入口を見て叫んだ。
「…………」
長剣を低く構え、ゴッソは部屋に飛び込む。
ベッドごと斬り裂いて、力と技に任せて部屋にいる十人を始末した。
一人を残して。
「親玉はどこにいる?」
「ひぃっ……お、教えるから命だけは……」
「言え」
「こ、坑道の奥にある仕分け場所だ……そこ……グハッ!!」
「ありがとよ」
ゴッソは容赦なく斬って捨て、坑道の奥へ駆け出した。
これだけの騒ぎだ。
勘づいて逃げ出していてもおかしくはない。
「……あいつか」
長髪と短髪の女をそれぞれつれて、箱を手に持って走っている男を見つける。
身なりはこれまでの盗賊に比べると、上質な服を着ていた。
「ひっ……」
女の一人が振り返るより早く、ゴッソは懐へ飛び込んで剣を水平に薙いだ。
上下に絶たれた体が、地面に落ちて水溜りを作る。
ぱしゃり、とゴッソが足を踏みだし、盗賊団の頭は腰を抜かした。
「だ、誰だテメェ!」
「答える義理はない」
「わ、私は関係ないからっ!」
短髪の女が非難の声をあげ、男を置いて反対側へ走っていく。
「ギャアッ……」
しかし、身近い悲鳴をあげて崩れ落ち、その影からゆらりとヨハネが姿を現した。
日本のショートソードには血がついている。
逃げ出したものを斬り伏せてきたのだろう。
「さて、残るはお前だけだな」
「諦めろよ」
前と後ろから、ゴッソとヨハネが近づいてくる。
盗賊の頭は箱を前に差し出し、あらん限りの声で叫んだ。
「これをやる! だから見逃してくれ!!」
「いらん」
「グアァァッ! て、手が……手がぁぁぁっ!」
ごとり、と箱と二本のモノが地面へ落ちた。
ヨハネはショートソードを振り上げ、悶絶している男の首へ向けた。
「じゃあな」
「ぐぞっ……」
箱の横へ並ぶように、目を見開いたそれが転がっていく。
ゴッソは箱の中身を覗き込んだ。
「これが奪われたものか?」
その中には、翼の生えた金色の馬の像と、いくつかの宝石があった。
「ああ。この馬のやつが高いものらしいぜ」
「よくわからんな……ん?」
宝石の下に、藍色の何かを見つけて手に取ったゴッソは、それをしげしげと眺める。
「あの時と同じ……」
泉で見つけた藍色の鱗が数十枚も敷き詰められている。
「まさか……」
ゴッソは藍色の竜を思い出し、鱗を摘んでいる指先に力を込めた。
その背中には、怒りがありありと滲んでいた。




