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触手とホブゴブリン、どちらが格上か白黒つけようか

 俺とホブゴブリンが戦い始めて、どれくらい経っただろう。


 戦況はすでに泥沼の消耗戦へと移行していた。


 ホブゴブリンが腕を振って飛ぶ斬撃……おそらく魔法による風の刃を繰り出してくる。その切断力は凄まじく、俺の触手が数本根元から切り飛ばされた。


 が、それがどうした。


 俺は進化して手に入れた【超再生】のスキルを使い、切断されたそばから触手を復活させてホブゴブリンに襲いかかる。回復時に消費する生命力も【魂を啜るもの】でホブゴブリンから削り取って賄っていた。


 本来なら、俺はノーダメージでホブゴブリンだけが一方的に消耗していくはずなのだが……ホブゴブリンの方も回復手段を持ってやがったせいで計算が狂った。


 ホブゴブリンの体が光に包まれる。

 次の瞬間にはあいつの動きがキレを取り戻した。


 おそらく回復魔法……それも外傷だけじゃなくて生命力も回復するタイプのやつ。

 この魔法のせいで、【魂を啜るもの】で奪ったそばから生命力を回復されている。


 魔法も無限ではないはず……そう思うも、何十回も回復魔法や風魔法を使われると無尽蔵の魔力でも持ってるんじゃないかと疑いたくなる。


 この膠着状態を脱するには、俺が直接ホブゴブリンに噛みつき、威力を高めた【魂を啜るもの】で削り切るしかない。


 だが、あいつに近づきすぎると風魔法で頭を切り落とされるリスクがあった。

 今は距離を取って触手でチマチマ攻撃しているから問題ないが、不用意に近づくと致命傷を負いかねない。そうなった時に【超再生】で回復できるかは正直賭けだ。


 かと言って、逃げるのも難しい。

 攻め手を緩めた瞬間、【魂を啜るもの】による生命力の回復が無くなり、ホブゴブリンから押し切られる危険があった。


 俺の持っているスキルは、痛覚無効、ハイパーブースト、麻痺針、ドッペルゲンガー、超再生、の5つ。

 この内、麻痺針とドッペルゲンガーは試し済みだが、麻痺針は効かず、ドッペルゲンガーはすぐに蹴散らされ意味が無かった。

 痛覚無効と超再生は常時発動しているので考慮から外すとして……。

 残るハイパーブーストはこの状況を打ち崩す秘策になり得るが、だからこそ使い時を見極める必要があった。


 何度目かの攻防の末、ホブゴブリンの動きが鈍くなる。

 俺が追撃しようとしたところ、風魔法を四方に放出し距離を空けようとしてきた。続いて相手の体が光に包まれる――今だ!


 ――【ハイパーブースト】!


 スキルを発動すると、全身の力が跳ね上がった。そのまま、地面に突き刺した触手を縮めて一気に距離を詰める。

 この戦闘で始めての急加速にホブゴブリンの体が一瞬硬直した。


 慌てて回復を中断し風魔法を放ってくるが、いくら不可視の刃とはいえこれまでの戦闘で軌道は読めている。

 触手を盾にして頭だけは死守しつつ、最短距離で近づくと、そのまま大きく口を開いた。


 ぶつかる直前、至近距離から放たれた風の刃が俺の左半身をきり裂く。


 根元から数十本単位で触手が切断され、滝のように体液が流れ落ちる。


 体の半分が無くなりバランスが崩れる――が、必死に残りの触手をホブゴブリンへと伸ばし、奴の脇腹に牙を突き立てた。


 口の中に血の味が広がる。

 同時に、これまでとは比較にならない量の生命力が流れ込んでくる。


 濃密な生命力――甘味の中にどこかほろ苦さを感じさせる美酒が俺の喉を潤していく。

 例によって酩酊感に支配されながらも、目だけはホブゴブリンから離さずに注視する。


 ホブゴブリンは、顔を歪め苦悶の声を上げながらも必死に回復魔法を発動していた。


 俺が生命力をごくごくと飲み干す傍ら、ホブゴブリンの魔法で少しずつ生命力が補充される。

 その速度の差は歴然だが、ホブゴブリンは恐怖を顔に張り付かせて一心不乱に回復魔法を発動していた。


 正直、今風魔法でトドメを刺されたら危ないのだが、なぜか敵が判断を誤ってくれたおかげで助かった。


 ホブゴブリンが腰を抜かして地面を転がる。

 腕を使い俺を引き剥がそうとするが、食い込んだ牙が傷口を抉るとその力が弱まった。


 最後には魔法を使うことも忘れ、叫びと涙を流しながら暴れまわる。その剛腕が俺の頭にあたるが……あいにく俺は痛みを感じない。


 攻め手を緩めることなく、最後の一滴まで啜りとる。


 そして、ホブゴブリンの瞳から光が失われた。

 続いて、レア魔物を倒したとき特有の白い光の玉が飛び出す……が、今回は二つも一気に光の玉が出た。


 その二つの玉が、俺の体に吸い込まれる。


 ――ピコン!


 ――スキル【魔力炉】を獲得いたしました。


 ――スキル【血肉を貪るもの】を獲得いたしました。

 ――スキル【魂を啜るもの】と【血肉を貪るもの】が融合し、【生命を喰らうもの】へと変質いたしました。


 光の玉を吸い込んだ瞬間、自分の内側で何かが音を立てて広がった。

 同時に手に入れた二つの力――片方は【魂を啜るもの】と融合したみたいだが――その詳細を確認していく。

 まずは【魔力炉】の方から。


 ーーー

 【魔力炉】

 総魔力量を十倍に跳ね上げる。一秒ごとに総魔力量の一割を回復する。

 ーーー


 ……これがハイゴブリンが魔法使いまくってた絡繰りか。

 紛うことなきチート能力、実質無尽蔵の魔力を持っているようなものだ。


 そして、【魂を啜るもの】が変質した方のスキルを見る。


 ーーー

【生命を喰らうもの】

 相手のすべてを喰らい尽くすための能力。

 相手の生命力と魔力を吸収することができる。直接噛みついた方が吸収速度は速いが、体で触れるだけでも微量に吸い取ることが可能。

 また死体を捕食することで対象のスキルを一週間使えるようになる。

 進化ゲージの上昇率にプラスの補正がかかる。

 ーーー


 生命を喰らうもの、か。

 軽微な変化は生命力以外に魔力も吸収するようになったこと。


 だが、それ以上に大きく変化した点が一点。

 それがスキルの模倣だ。

 一週間という制限はあるがスキルを簡単に獲得できるのは破格だ。


 ……目の前に、ホブゴブリンの死体がある。

 検証のためにも残さず食べるべきだろう。


 大口を開け、死骸に齧り付く。

 血も肉も、骨も内臓も、その一切を咀嚼し飲み込んだ。

 そしてステータスを確認する。


 ーーー

 名前:タノウエ

 種族:ブラッディローパー

 進化ゲージ:38%

 固有スキル:生命を喰らうもの

 所持スキル(6/8):痛覚無効、ハイパーブースト、麻痺針、ドッペルゲンガー、超再生、魔力炉

 疑似スキル(残り7日):頑強、剛腕、闘争本能

 疑似スキル(残り5日):斬爪、加速、鱗粉、風魔法、擬態、回復魔法

 ーーー


 ……疑似スキル、というものが大量に増えている。

 残り日数が7日と5日に別れているのは、ホブゴブリンが元々持っていたスキルか、一時的に入手していたスキルかの違いだろうか?


 いずれにせよ、大幅に戦力アップしたのは間違いない。

 だが、これで満足するつもりも無かった。


 かつて見た物語の主人公達は、もっと進化を重ねて成り上がっていた。

 せっかく魔物に生まれ変わったのだ、俺ももっと高みを目指してみたい。


 次なる獲物を探すべく、俺は触手を蠢かせ森の奥へと進み始めた。

第5話までお読みいただきありがとうございます。

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明日は10:10と17:10に投稿しますので、ブックマーク登録してお待ちください。

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