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切られても無限に生えてくるタイプの触手です

 分身の記憶が流れ込んでくる。


 まずは、新たな狩場を見つけたこと。

 次に、蛾の魔物と戦い勝利したこと。

 そして最後に、黒いホブゴブリンに倒されたこと。


 すべてが自分の経験として脳裏に刻まれる。

 同時に、分身が得た生命力が俺の体に満ちた。


 進化ゲージを確認すると、先ほど進化したばかりだというのに既に76%まで溜まっている。

 あと何匹か蛾の魔物を狩れば100%に到達しそうだ。


 ……問題は、あの黒いホブゴブリンか。

 いくら分身は一定ダメージで消えるとはいえ、あのホブゴブリンに一撃で倒されてしまった。


 これじゃ分身が少しの衝撃で消えるのか、それとも敵の攻撃が大ダメージを受けるほど強力なのか、まったく判断がつかない。


 ――でも、このまま引き下がってたらダメだよな。


 これまで黒いホブゴブリンと遭遇しなかったのはただ運が良かっただけ。これからもこの森で生きていくなら、何かのタイミングで遭遇する可能性がある。

 そうなった時に少しでも抵抗できるよう、進化を重ねておく必要がある。


 リスクを取ってでも、ここは自分の成長を優先するべきだ。

 覚悟を決めて、分身が見つけた狩場へと移動を開始した。


 ◇


 蛾の魔物がいるエリアには一時間程で着いた。


 歪に成長した木々が日の光を遮っており、全体的に薄暗い。

 視界も足場も悪く、好き好んで入りたいとは思わせないような不気味な静けさが満ちている。

 ……事前に分身から得た情報そのままの森が、そこにあった。


 ここに、蛾の魔物と黒いホブゴブリンがいる。

 やることは単純だ。

 ホブゴブリンに見つかる前に蛾の魔物を狩って進化すれば良い。


 できるだけ長居(ながい)はしたくない。

【ドッペルゲンガー】を発動し、分身を呼び出す。

 そのまま二手に別れ森に入った。


 (本体)はホブゴブリンと遭遇した場所とは反対方向に、もう一人(分身)はその間のエリアに、それぞれ移動し狩りを行う。

 事前に分身は三匹狩ったら戻ってくるように決めている。たぶんそのくらい狩れば進化できるだろうからな。


 蛾の魔物は、特に苦戦することなく倒すことができた。

 なんなら鱗粉を撒き散らすだけなので、普通のゴブリンより楽なくらいだった。


 そうやって俺が四匹目も倒したタイミングで、ドッペルゲンガーが解除された。


 三匹分の生命力が入ってくる。多少減衰してるかもしれないが進化ゲージをためるには十分な量だ。

 そして――。


 ――ピコン!


 ――進化ゲージが100%に到達しました。これより進化を開始します。


 俺の体が光に包まれる。

 触手がさらに数を増やし、その一本一本が力強く生まれ変わる。

 

 全身が熱を持ち、触手の色が濁った緑色から血のような赤黒い色へと変化していった。


 ――ピコン!


 ――ブラッディローパーへと進化しました。


 ――スキル【超再生】を習得いたしました。


 無事に進化終わったな。

 さっそくステータスを確認する。


 ーーー

 名前:タノウエ

 種族:ブラッディローパー

 進化ゲージ:0%

 固有スキル:魂を啜るもの

 所持スキル(5/8):痛覚無効、ハイパーブースト、麻痺針、ドッペルゲンガー、超再生

 ーーー

【超再生】

 生命力を消費し傷を高速で治す。

 ーーー


 所持スキルの枠が増えてる!?

 たしか前まで5個だったはずだが、今回の進化で8個へと成長していた。

 元々、スキル取得の早さに対して枠の残りが少なかったからこれは嬉しい誤算だ。


 そして、新しく手に入れたスキルの【超再生】。

 これまた説明が簡素ではあるが効果はイメージしやすい。

 これで仮に黒いホブゴブリンと戦闘になっても、すぐに倒されることはなくなっただろう。


 ――ビュン!


 肩ならしに触手を素振りする。

 ……力がだいぶ向上してるな。それに触手を操る精度もこれまで以上に向上している。

 今の俺なら、スキルを使わない触手のなぎ払いでもゴブリンを倒せそうだ。


 ただここまで強くなっても、黒いホブゴブリンを倒せるかはわからない。

 奴の攻撃手段すらわかっていない状況だ。


 分身の記憶を思い出す。

 ホブゴブリンが分身を消滅させたとき、奴は何も持っていない腕をこちらに突きだしてきた。

 あそこから何らかの遠距離攻撃を仕掛けてきたのだろう。


 一番可能性として高いのは、魔法か。

 スキルやらステータスやらがある世界だ。魔法だけ無いとは考えにくい。

 もしくは何らかのスキルという可能性もある。


 ……今考えるだけ無駄か。

 どうせ考えても答えは出ない。目的であった進化は達成したし、ここは一度避難するか。


 【ドッペルゲンガー】を再度発動し、先行させる。

 これで万が一ホブゴブリンと遭遇しそうになっても分身が事前に察知するだろう。


 そのまま静かに帰路につく。

 道中で蛾の魔物を倒しながら戻っていると、ふいに分身から記憶が送られてきた。




 黒いホブゴブリン、あいつの記憶だ。


 奴は(分身)の姿を見るなりすぐに右腕を突き出したかと思うと、そこから不可視の斬撃を繰り出してきた。


 周りの木々を浅く切りながら進むそれは、分身の触手を数本切り落とす。

 だが、今度の分身は一撃で消えていない。

 そのまま反撃で触手を伸ばすが、連射された斬撃により今度こそ分身が消滅した。




 ――なるほどな。


 飛ぶ斬撃。風魔法かスキルかは置いといて、俺の触手を切り飛ばす威力と連射可能な点は脅威だ。

 だがそれでも一度に消し飛ばせるのは数本だけ。分身は倒されたが百本近い触手を持つ本体()なら一方的に倒されることは無いだろう。


 戦ってみるか?

 これまでの俺なら逃げてただろうが、進化して強くなった今の俺なら十分勝ち目がある。

 無理に戦う必要も無いが、あいつはおそらくレア個体。倒せたら飛ぶ斬撃のスキルが手に入る可能性が高い。


 ……。


 一度だけ、戦ってみるか。


 無理そうならすぐ逃げよう。


 木の陰に身を隠しながら、先ほど分身が交戦した地点へと進む。


 そして、見つけた。


 黒いホブゴブリンは、分身の消えたあたりを詳しく調べているようだった。

 地面に手をついて手がかりを探すその姿からは確かな知性を感じるが、致命的なまでに無防備だ。


 良し。いける!


 焦る気持ちを抑え、静かに近付き背後から飛びかかる。

 俺の体から生える無数の赤黒い触手が、黒いホブゴブリンの四肢や首元に巻き付く。


 【魂を啜るもの】の効果で生命力が流れ込んでくる。

 ……この濃度、棚ぼたで倒せた白銀の狼とも遜色がない。間違いなくレア個体だ。


 ホブゴブリンが激しく抵抗する。

 俺はトドメを刺そうと大口を開けて近付くが――あと一歩のところで敵の攻撃が間に合った。


 風が渦巻き、ホブゴブリンを拘束していた触手が次々と断ち切られていく。

 慌てて離れるも、十本以上の触手が切り飛ばされた。


 その触手の断面が蠢き、新たな触手が生えてくる。

 【超再生】の力が自動で発動し、元通りの姿に戻った。失った生命力はホブゴブリンから吸い取った量と同じくらいか。


 対するホブゴブリンも、肩で息をしながらゆっくりと振り返った。

 その冷静な光を灯した双眸と視線が交わる。


 そして、俺の触手人生で過去一番長い戦いが始まった。

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