客観的に見る俺の姿バケモノすぎるんだが
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【ドッペルゲンガー】
自分の分身を一体作り出すスキル。
分身の能力と記憶は本体と同一であり、【ドッペルゲンガー】以外のスキルも再現する。
分身は一定ダメージを受けるか、本体と接触することで消滅する。
消滅する際に得た経験を本体にフィードバックする。
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以上が新たに手に入れた【ドッペルゲンガー】の能力だったが……一つ言わせて欲しい。
狼、チートやんけ!
まじで危ねぇ……まともに戦ってたら殺されてたぞ。
後で検証が必要だが、自分と同じ強さを持った分身を無条件で作り出すなんて反則級の能力だ。
さっき、まともに戦ったら苦戦か敗北のどちらかになると予想したが、このスキルを考慮に入れれば敗北する未来以外が想像できない。
それに経験のフィードバックも優秀だ。純粋に斥候としても活躍するだろうし、スキルの訓練も倍の速さで習熟できる。
さらに後から判明したことであるが、この経験のフィードバックには進化ゲージも含まれていた。さすがに丸々ゲージが溜まるということはなく、多少減衰した状態でゲージが溜まるようであったが……それでも十分チートだと言えよう。
それだけのレアスキルを所持し、本体も強そうなこの狼を無傷で倒せるなんて……まさに宝くじに当たるような幸運だろう。
その幸運に感謝しつつ、さっそくスキルを発動してみる。
――【ドッペルゲンガー】。
そう心の中で唱えると、俺の影が伸びてそこから触手のバケモノが現れた。
その姿は異形の一言に尽きた。
全身から伸びるドブのような深い緑色の触手。
体は湿り気をおび、白濁した粘液を纏わりつかせている。
赤と黄色で充血した目はぎょろぎょろと周囲を見渡し、大きく空いた口からのぞく乱杭歯は、ゴブリンの血痕やうさぎの抜け毛で薄汚れていた。
うん。
ちょっと覚悟はしてたけど、俺本当にバケモノになったんだな。
想像以上のキモさに心が折れそうになる。
俺が肩を落とす――代わりに触手を萎えさせると、鏡写しのように目の前の分身も同じ動作をした。
……そういえばこいつ記憶まで俺と一緒なのか。
同じ思考回路ならリアクションが被るのも納得だ。
せっかく分身を作ったのだし、なにか意思疎通でも試してみるか。
そう思い声をかけたところ――。
「「ゴォォォ」」
まったく同じタイミングで二つの重低音が響いた。
ちなみに相手が何を言ってるのかはまるで理解できない。
わかっちゃいたが、この触手の体でコミュニケーションをとるのは絶望的だった。
それでもそこは同一人物。
身振り手振りでなんとか意思疎通し、それぞれ別方向に移動する。
後はもう一人の俺が頃合いを見てスキルを解除し経験のフィードバックをしてくるだろう。
……してくるよな? 消えることできずに放浪し続けたらこのスキル意味なくなるぞ?
そう思った瞬間、【ドッペルゲンガー】が解除された。
まったく同じ思考内容が流れ込んでくるが、特に負荷なく受け取れる。
――結果として、どうやら分身側で自力解除できるようだ、ということが新たにわかった。
気を取り直して、再度【ドッペルゲンガー】を発動し別行動を取る。
この付近にはゴブリンやうさぎなどの弱い魔物しかいない。だからさらなる進化のため狩場を探す必要があった。
二手に別れて探索を行う。
移動をはじめてすぐに、遠目に茶色い毛並みの狼を複数匹見つけたが、こちらを一瞥すると文字通り尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
そうして、歩くことしばし。
急に森がひらけ、目の前に海が広がった。
空は青く、水面は日の光を反射して輝いている。
どこまでも続く水平線の先には、島や陸地の影が一切見えなかった。
左右を確認すると、砂浜がどこまでも続いている。
――狩場を探してたんだが、行き止まりに来ちまったな。
とりあえず海の方には進めないので砂浜沿いに移動を開始する。
触手に砂が纏わりつき、水分が奪われる。
喉が渇き、少しずつ疲労か溜まっていく。
これまで森の中で過ごしてたから気付かなかったけど、この触手の体は太陽の下を歩くのに適してないのかもしれない。
とはいえ、ここまで来て引き返すのも負けた気がする。
気分転換に、何か収穫がないかと漂着物を物色しながら進むことにする。
漂着物は、海藻や流木などの自然界のゴミがほとんどだったが、たまに破れた網や服の一部が流れ着いていた。
こういう人工物があるってことは、少なくとも人間かそれに準ずる知的生命体はいるってことの証拠だ。
さすがに魔物だけの世界じゃつまらない。何かしらの文明ある方が楽しいに決まっているので、嬉しい発見だった。
まぁ、今のバケモノボディじゃ人里見つけても近付けないけどな。
進化を重ねた先で人間に見えるような姿になれれば良いんだが……。
そう考えながら進んでいたところ、ふいに分身の記憶が流れ込んできた。
◇◇◇
俺は本体に別れを告げ、気持ち悪い触手の体を引きずって森の探索を開始した。
道中うさぎやゴブリンを狩りつつ森の奥へと向かう。そうして数十分ほど進んだところで、ふいに森の雰囲気がガラリと変わった。
木の背丈が高くなり、足元の根っこがうねるように露出する。
触手が木の根に引っかかって歩きにくい。視界も悪く何度も転びそうになる。
明らかに今までの森とは違う。
正直元の道に戻りたいが……こういう所こそ何かあるのがお約束だ。
その予想通り、新たな魔物を発見した。
そいつは、茶色い蛾の魔物だった。
大きさは人間程度。
下腹部は黒く膨らんでおり、顔の部分にはオレンジ色の複眼と小さな牙が付いている。
広げた羽は枯れ葉のような茶色で、羽ばたくたびに黄色い粉をまき散らしていた。
――どのくらいの強さかわからないけど、とりあえず正面から戦ってみるか。
まずは小手調べに触手を伸ばすが、蛾の魔物は空へと逃れ鱗粉を振りかけてくる。
その黄色い鱗粉が触手を染め上げた。
……特になんも起こらねぇな。
気を取り直し再度触手を伸ばすと、虚を突かれたのかあっさりと蛾の魔物は拘束された。
そのままいつもの噛みつきと【魂を啜るもの】のコンボでトドメを刺しにいく。
敵はその間一心不乱に黄色い鱗粉を飛ばしてきたが……痛くも痒くもなかった。
なんだか不憫な気持ちになりつつ、最後まで生命力を吸い尽くす。
俺は分身だから進化ゲージ見れないが、体感的にゴブリンの数倍のエネルギーを感じた。
こりゃ楽に経験値稼ぎができそうだ。
もう少し探索をしたら本体にもこの場所のことを伝えよう。
その後も二匹、蛾の魔物を倒した。
どいつもこいつも黄色い鱗粉を振りかけるだけで他に攻撃らしい攻撃は無い。
もしかしたら鱗粉に毒でもあるのかもしれないが、あいにく俺には効果が無かったようだ。
そのまま上機嫌で探索を続けていると、一匹のゴブリンを見つけた。
ただし、普通のゴブリンとは違うレアゴブリンだ。
そいつは、他のゴブリンとは違い黒い皮膚をしていた。
体の大きさもゴブリンの倍以上はあるし、筋骨隆々だ。
……もしかしたらホブゴブリンなどの上位種族かもしれない。
そっと近付き飛びかかろうとする、その直前。
ゴブリンが勢いよく振り返り、右腕を突き出してきた。
それが、俺の見た最後の景色だった。




