使えるもんはなんでも使う主義
ステータスを眺めて気付いたこと、それは単純な戦闘力でジュンペイを倒すことは不可能だということだった。
俺の最大火力は【魔力炉】による無制限の魔法攻撃にある。
だが、その攻撃ですらジュンペイに傷を負わせるのが精一杯で倒し切る前に反撃を受けてしまった。
次また攻撃を受けて耐えられるかどうかは正直賭けだ。
じゃあ魔力を限界まで注ぎ込んで一気に攻撃するのはどうか。
一見良さそうなアイデアだが、ジュンペイには【危機察知】というスキルがある。一点集中した高威力の魔法であっても、避けられてしまえば何の意味もない。
そしてそれだけの威力の魔法を使えば、余波で培養槽の中の人達を巻き込んでしまう危険があった。
では視点を変えて、ジュンペイを無視してエレノアを殺すという選択肢。
だがこれも、エレノアだけ不意打ちで殺すことは可能かもしれないが、その隙に、ジュンペイに殺されてしまうという理由で却下となった。
【魔に堕とすもの】が俺を経由して最終的にジュンペイに移ったところで、今の異世界人を取り巻く状況が変わるとは思えないからな。
だから、正攻法で倒すのは無理だ。
でも、だからって勝ち目がゼロというわけではない。
今の状況、俺のスキル、ジュンペイの様子、それらを良く観察して、俺は一つの突破口を思いついた。
後は実行するだけだが……この思い付いた案もまた、不確定要素を多く含んでいる。
正直言って、失敗したら死ぬ場面で試すのは怖い。
だが、敵はそんな悠長に待ってはくれなかった。
「私は先に河上さんを国に送ろうと思います」
「ん? でもその子触れなくないか?」
「まぁ今の段階ではそうですね。でもやりようはあります」
そう言うと、エレノアは黄色い魔法陣を作り出した。
直後、河上さんの周りの地面が隆起し、土のドームが彼女を包み込む。
「この状態で持っていきます」
機械がどこからともなく現れ、周囲の土ごと河上さんを持ち上げた。
「その土のドームの中にさっきの子が入ってるのか」
「えぇ。殺す場合はこのまま地中でも海中でも埋めれば終わりです。もっとも今回は国に送り次第解除しますけどね」
エレノアとジュンペイが呑気に会話する。
このまま行かせたらまずい。
俺は覚悟を決めて立ち上がった。
◇◇◇
今回も私の任務は完璧だった。
元人間の魔物達相手に『最初に出会う人間』としてコンタクトを取る。野生の魔物と見分けるのは体色の識別管理のおかげで簡単だ。
善良な羊の仮面を被り、間抜けな異世界人に食事を振る舞う。島で孤独なサバイバルをした奴らにはこの罠が良く通る。
そのまま何も気付かず国に送ることができれば、使い魔登録と称し隷属魔法をかけて終わり。
解毒剤も飲ませるし、反抗しない限りは兵器として丁重に扱うが……戦線から逃げ出せば苦痛を与えて立場をわからせる。隷属魔法による精神的苦痛と薬剤による肉体的苦痛を与えれば後は思うがままだ。
今回のように送る前に気付かれた場合も同じ。
薬剤による苦痛で前後不覚の間に国に送れば良い。
ローパーなど痛覚を感じないレアケースも、複数の固有スキルを有しこちらに協力的な駒――ジュンペイのような協力者に倒して貰えば良い。
……それにしても、今回の異世界人は両方当たりだったな。
タノウエの方は魔法の威力もさることながら、その回数が異常だ。十中八九魔力量に影響する固有スキル持ち。軍の戦略兵器として申し分ない活躍が期待できる。
他にも、本来トレントが覚えるはずの擬態を使っているあたりスキルを模倣するような能力も持っているに違いない。
本体がローパーであることも、死ににくいという面で見ればプラス材料だ。
まさに掘り出し物と言えるだろう。
河上の方も悪くない。
人型の魔物ということはそれだけ進化を重ねていることの証拠でもあるし、見目も良い。
薬剤で無効化していたからこそ楽に捕獲できたが、本来であれば防御系統の固有スキルを持つ相手を倒すのは至難の技だ。
河上を捉えた土の球体が、機材により運び出される。
……タノウエが救出に来るとしたら今だろう。
他人のために自分の未来を閉ざすような愚者だ。
仲間が連れ去られようとして黙って見ているはずがない。
その私の考えを肯定するように、どこからともなく飛来した風の刃が機材のケーブルを切断した。
◇◇◇
風魔法が機材にあたり、河上さんが落下する。
さて、とっさに魔法を放ったは良いがここからが本番だ。
エレノアは相変わらず後方で腕を組んだまま。
彼女が参戦する前に勝負を決める必要がある。
……とはいえ難易度は高い。
失敗は許されないしチャンスは一回だ。
目の前のジュンペイは、浅黒い肌から蒸気を放っている。
明らかにスキルでバフを受けている状態、力も硬さも速さも何段階も上昇している。
でもやるしかない。
ジュンペイが駆け出す。
俺は水魔法の直後に火魔法を発動した。
ジュンペイはそのどちらも無視して進むが、途中で混ざりあった魔法の影響で大量の水蒸気が発生する。
休む間もなく今度は風魔法を発動する――ただしいつもの風の刃ではなく、後ろから吹く強風を選択した。
風がジュンペイの足をわずかに押し留め、霧がエレノアの視界を遮る。
風圧に耐えかねたジュンペイの目がわずかに細められた。
――今だ。
俺はここで初めて前に出た。
追い風で加速し一気に距離を詰める。
ジュンペイの棍棒も左腕の爪も間に合わない刹那の時間で、触手を使い彼の口をこじ開ける。
突然の動きに一瞬動きを止めたジュンペイだったが、すぐに気を取り直し左腕の爪を突き立てて来た。
鋭利な爪が俺の体の中心部分、脳髄を貫く。
だが、間に合った。
俺の乱杭歯だらけの口の中。
そこから小さな影が飛び出し、そのままジュンペイの口の中へと入り込んだ。
……完璧だ。
一発本番でこんな120点を叩き出せるなんて自分で自分が誇らしいぜ。
だから、後は頼んだぞ……俺。
◇◇◇
スキル【ドッペルゲンガー】による分体の記憶が流れ込んでくる。
分体は捨て身の特攻で十分仕事を果たしてくれた。
後は俺がやることをやるだけだ。
今の俺は、【擬態】でうさぎに化けている。あの巨体のすべてをこの小さい体に押し込めている状態だ。
まずは【ハイパーブースト】を発動し、足りない火力を補う。そのままこの体で使える唯一の攻撃手段である【角突】を発動した。
角のように硬質化した触手が、ジュンペイの口内に深い傷を何個も作っていく。
牙がかすめる度にこちらも傷が増えるが望むところだ。
……俺は何も、破れかぶれの特攻を仕掛けているつもりはない。
これが勝利への唯一の道だ。
そろそろ効果が出てきても良い頃だが――。
だが効果が出る前に口が開き、鋭利な爪が入ってきた。摘み出すつもりなのだろう。
……最後にダメ押ししておくか。
俺はハイパーブーストのバフがかかった状態で、ジュンペイの爪に自ら飛び込んだ。
うさぎの心臓にあたる部分を爪が貫通し、ドバっと体液が溢れ出す。
そのまま口から取り出され地面に投げ捨てられる。
落下の衝撃で擬態が解けても、胴体に風穴が空いたままだった。
「あんた生命力に満ち溢れてるな。悪くない味だったぜ」
ジュンペイが舌なめずりをする。
そうか。全部飲んでくれたのか。
俺の、感覚神経を強化する薬剤をたっぷり含んだ体液を。
「がっ!?」
ジュンペイが胸を押さえてうずくまる。
俺は痛覚無効の効果で何も感じなかったが、エレノア特製の痛みを増大させる薬剤はちゃんとジュンペイにも効いたようだ。
ジュンペイが地面を転がりまわる。
元々、ジュンペイの全身の傷口から俺の体液を通して薬剤は入っていた。それがさっきのダメ押しで許容量を超えて発現したのだろう。
後はこの隙にトドメを刺すだけだ。
移動を試みるが、受けたダメージが大きく体が思うように動かない。
急ぎ回復魔法を発動するが、胸に空いた風穴は中々塞がっていかなかった。
「どうしました!?」
その時、エレノアが霧の向こうから現れた。
「これは……薬剤の影響ですか。すぐに解毒薬を投与します」
まずい!
こんなに早くエレノアが来るなんて想定外だ。
ジュンペイの痛覚を治されたら勝ち目がなくなる。
「針が通らない。ジュンペイさん、スキルを解除してください」
エレノアが注射器片手にジュンペイに語りかけるが、当の本人は痛みでそれどころではなくのたうち回っている。
そして――。
「あっ」
ドゴッ――という音とともに、ジュンペイの振り回した腕がエレノアを弾き飛ばした。
エレノアは、機材の山に頭から突っ込み崩落に巻き込まれる。
とりあえず、チャンスだ。
万全に回復したのち、ジュンペイに近付き触手全体で巻き付く。
そのまま【生命を喰らうもの】の効果で少しずつ生命力を奪っていくことにした。
痛覚を強化する薬剤の効果が消えないよう、いつもの噛みつきは無しだ。
それから、今まで以上に長い時間をかけて生命力を食い尽くし――。
そしてついに、動かなくなった。




