轍―WADACHI― 前編
❖ ❖
舞台の上に、黒子数人。
そして、舞台の魔物に憑りつかれた菊子。
くるりと振り向いた菊子はやはり、にぃ、と笑った。
「このこたちゃあ、昔からのお付さぁ」
黒子達にも、舞台の魔物のお付が憑りついているらしい。
「何が目的なんだっ。菊子さんたちから、出て行けっ」
「そうだそうだっ」
舞台にあがる直志と秀春。
花道に立った清蓮が低い声で言った。
「何が目的だ」
「遊んでほしいんだよう」
その時、紅茶一座の者達がどやどやと舞台会場へ入ってきた。
「あの、様子を・・・」
菊子こと舞台の魔物は、舞台装置である藤の造花を、手を振るだけで解いて空中に。
空中に遊ぶようにしゅるりしゅるりと長く一本になる紐が、直志と秀春を縛る。
驚いたふたりがぶつかり、ぐるぐる巻きになった状態で崩れ落ち、転んだ。
「くっ・・・」
「菊子・・・」
菊子が自分の白い歯をぺろりと舐めた。
「あそんでほしいいんだよう」
「よかろう」
清蓮が言った。
「わたしが、ここまでだ、と言う時までだ」
紅茶一座が言った。
「「「協力させて下さいっ」」」
そう言ったあと、黒子たちが指をさすかのように何かの術を一座にかけた。
黒御簾に移動した一座達が、楽器の音をたしかめてている。
「いくようぅ」
曲が鳴り始めと、黒子たちが言った。
「『わだち』か」
「人質は喋れないようにしておかないとねぇ」
舞台上の数人の黒子達が、等間隔に並ぶ。
舞台の魔物が閉じた扇のその先を、おもむろに、清蓮へと向ける。
「結界を張っておいたよう」
ふぁん、という衝撃波で結界が揺れる音がした。
太鼓、笛、三味線、琴・・・
黒子達が歌い踊り出す。
それは長い長い道のりから 発展しだした先人が原点
世代に問うこの太鼓の打音を感じてみるか
菊子の身体が、清蓮へと走っていく。
かまえる清蓮。
横目で客席を見る。
一度目の攻撃、扇を払うと飛びすさりよけ、清蓮はうしろにそってバク転。
ほう、と、惚れ惚れと舞台の魔物が嬉しそうにする。
清蓮はむずかしそうな顔をしている。
秀春は気絶している。
直志は喋れなくなったことに気づき、「縛」という術のかかった紐から逃れようとする。
清蓮は自分の持っている扇を取り出し、ばっと広げて自分をあおいで見せた。
口角を上げる舞台の魔物。
くるりと周り、しなつくる。
さぁ いま火を灯せ 心照らせ なんびとも集い歌い歌え
止まない雨など無いんだぜ とこしえに願おう繋いだ手
もがく直志。
清蓮と舞台の魔物は扇を交える。
ぱんぱん、と音がするほど激しく。
パンパン、パンパンッ。
互角の攻防。
黒御簾役がなんのことか、ふと笑った。




