清蓮と鬼火
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すっかり憑き物でも落ちたかのような顔をしている豆苗之進。
途中まで送りたい、という申し出を丁重に断り、清蓮は後日の報酬の受け取りを約束。
連なったホオズキの提灯を貸してもらい、直志と清蓮は暗闇を歩く。
「お前が契約中、明日の公演、豆苗之進君が、ぜひ、見てくれてっ」
「ほうほう、呼ばれよう。お前がチケット代出せ」
「何を言っている?菊子嬢と秀春兄さんと俺とお前、四人分無料だ。特等席だぞっ」
「なぜ、菊子嬢と秀春殿まで・・・」
「ん?まぁ、いいじゃないかっ」
橋の側に、柳の木が生えている。
風に揺れ、さわさわさわさわ、と葉の擦れる音であたりを奏でている。
清蓮が伏目がちになり、するとすぐに清蓮のまわりをくるくると鬼火が現れた。
橋の欄干に触れる清蓮。
踊る鬼火。
「ここが、豆苗之進が拾われた橋か・・・」
ふわ、っと、一陣の風が吹いて、直志は目を細めた。
かぶった前髪を直していると、清蓮がいつの間にやら欄干に立っているのを見つけた。
鉄色に光る長い黒髪が、風になびく。
憂う瞳は、どこを見ているのか。
「な、何をしている。清蓮っ、はやまるなっ」
刹那的にその姿になぜか見惚れた直志は、焦って駆け寄った。
清蓮はつぶやく。
「直志・・・」
「どうしたんだ?」
風を感じている清蓮。
鬼火が川の水面に、光として潤み映っている。
清蓮は、独り言かのようにつぶやいた。
「わたしはな・・・・・・・・・母上を、知らん・・・」
しばらくの間、直志はぽんやりとした。
瞬く。
答えに困った。
しがみついた足の主、清蓮を見上げる。
「それが、なんだと言うんだ?」
清蓮は直志の方を見て、さびしそうにそして少し嬉しそうに微笑した。
「いや、なんでもない」




