人魚の鱗
俺の名刺を渡してきた。
「やだ」
なにがだ?
「やだ」
やだ。
「やだ」
そのやだを、返す。
「お前を拒絶する」
やだ。
「い、いやだを返し続けられたいかっ。清蓮が「わかった受ける」って言うまでっ」
桜飛湖がいつの間にか席に座って、茶を片手に半ば喜んでいる。
「うるさい、いやだ」
やだ。
「いーやーだ」
やだ。
「いやだっ」
いやじゃっ。
「はぁっ?」
ほら、約束の時間までにはもうすぐ出んといけない。
ちょうどスーツを着ているし。
ほら、立てって。
「腕を、ひっぱるなっ」
歌舞伎御殿に行くぞっ。
「何を言っている?」
だから、今日清蓮を連れてくると約束したのだよ。
「貴様ぁーーーーっ」
「清蓮さま、こやつ、山犬神の姿に戻り、食ろうてもよろしいでしょうか?」
やめておけやめておけ。
死ぬぞ。
「なにっ?」
俺が。
「死んでしまえ・・・」
「え、僕は死んでほしくないです」
「我はよう、わからぬ」
黒丸、桜飛湖、白真珠百合王画の素のぼやき。
「まったく・・・」
それで、清蓮・・・
「潤んだ目で、懇願するなっ」
清蓮・・・・・・
頼む・・・
なぁ・・・たのむよう。
「清蓮、ここまで言っているのだから、少し様子見るだけでも行って来たらどうだ?」
百合、ありがとうっ。
「あ、清蓮さま、コウヨウちゃん、落ち着いてお昼寝はじめましたでございまする」
「はぁ・・・」
「清蓮さま、お仕事であれば、襟元用のバッジをば」
「ああ・・・そうだな」
清蓮は直志の腕を振り払い、椅子に座って足を組んだ。
「それで、報酬は?」
人魚の鱗、で、どうだ、と色が入った七種類。
清蓮は目を見開いた。
「コンタクトレンズのことかっ?」
うん?そうそう。日本のだ。
「ほうっ、よかろ。この話受けようじゃないか。黒丸、桜飛湖、出かけの準備を」
「「御意」」




