弁当と魔物
どん、と二階から何かが転げるような音がした。
「あ、そうだ。コウヨウちゃんの様子を見てきますであります」
「ああ、頼む」
清蓮がそう言うと、桜飛湖は二階に上がって行った。
「屋根の楓の木のことか?」
「ん、まぁ」
「ん?」
「で?」
「ああ、依頼の話な」
清蓮邸には屋根に楓が生えているのだが、直志はまだ、直接その木を見たことがない。
直志は、今回の依頼について話し始めた。
❖ ❖
それは外側は黒く内側は赤い、四角い器だった。
飴色に煮込んだ大根に、胡麻をふった紅白交互に詰められた俵型飯。
肉団子やシュウマイや。
飾り切りのうえに甘く煮た人参や、豆や椎茸とか。
エビを揚げたのがそっていて。
ほかに何が・・・ああ、そうだったそうだった、厚焼き卵とまぼこも入っていた。
それから、ほかにも、何があったんだっけか。
「お前、今、なんの話をしている?」
あ、すまんすまん。
その時、幕の内弁当を食べていたんだ。
「知らん」
そうだ、知っているはずがない。
「早く、本題に入れ」
ああ、うんうん。
このオレンジケーキ美味しいな。
「そうだな」
それでなぁ、なんだったか・・・
ああ、うんうん、そうだった。
幕の内弁当を食べていて、第一幕っていうのか、一章っていうのか。
「『藤大樹』を見に行ったんだな?」
そうそう。
あ、それ、あらすじとかは、パンフレットに書いてるよ。
「見た」
うんうん、それでな?
『藤大樹』にはさざんか、と書いて「やさか」、やさかひこっていう人物が出てくる。
「なんとなく聞き知っている」
うんうん、名脇役だ。
その山茶花彦役の役者が、突如狐憑きにあったとかで、代役がたてられたのだ。
「ほぉう・・・狐・・・」
それがだなぁ、その代役が神がかりにあって、舞台中に口を借りられた。
「ん?」
舞台の・・・魔物、らしいんだ。
「・・・すごんで言ってみても、口の周りにケーキがついてるぞ」
・・・かわいいか?
ははは。
おい、無視するな、無視してケーキ食べ始めるな。
「お前・・・・」
なんだ?
「舞台中に、幕の内弁当食べていたのか?」
・・・なんで?
「いや、別に」
うんうん、あ、ここか、口周りふいたし、話を続けるか。
その舞台の魔物を名乗る者は、こう言ったんだ。
『 遊んでくれなきゃいやだ 』
・・・と。
「ふぅん・・・」
で、だ。
「なんだ?」
菊子嬢と秀春兄さんも一緒だったんだが、秀春兄さんがお前のことを話してしまって。
俺は別の日にこっそり見に行ったのだが、やっぱり代役が神がかりで、途中中止。
それで、兄さんに文が届いて、俺から、お前に相談をしている~・・・と。




