通常カーチェ ▶︎筋肉カーチェ
ルルルフとナナヤのしっぽが落ちてから6日後。
——ガランガラン
ゴリハウスのドアベルが鳴る。
「はいはーい」
エプロン姿のアネイゴが扉を開けると、そこにはアネイゴより1.5倍くらいの大きさのあるワシが座っていた。
「ファファ、おてがみ、もってきた!」
「ありがとにゃー。お昼食べてってにゃー」
「ファファも、ありがとー!」
事前にファルーチェのことは聞いていたので、アネイゴは初めて見たけれど、特に驚いて騒ぐこともなく、知り合いのコのように接する。むしろ、ルルルフの友達扱いである。
ファルーチェのファファが持ってきた手紙は、ゴルーダに渡し、アネイゴはコックのカーチェへ、1羽分お昼ごはんの追加をお願いする。そして各部屋の掃除へ戻っていった。
ルルルフの移動は4つ足で、柔らかいカーペットの上が多い。
「4つ足でも歩きづらいニャ……」
「そんなに?」
モクレンはソファでくつろぎながら、武器の手入れをしつつ、ルルルフの様子に気を配っている。
「ふっと力が抜けちゃったりするニャ。不思議ニャ」
「顔面着地、注意」
ゴルーダは受け取った手紙を、モクレンに渡しておく。
「読まないの?」
「帳簿終わらせねーと、さらなる地獄が待ってるんだよ……!」
そう言って半泣きのゴルーダは、執務室(年間入室率5%未満)へ向かっていった。
「ってか、チームハウス運営してるにゃーら、人雇えばいいのに」
「無理」
モクレンの単語を、さほど理解出来てないアネイゴは、次の言葉が欲しいと思ってしまう。
「ニャんか、雇う人雇う人、お金の持ち逃げ多いらしいニャ」
「確かに、こいつらの稼ぎは多いけど、その分武器代とかの出費だって、すごいはずにゃーしょ?」
「そうニャの。でも、大きニャお金に目がくらんで、ニャーニャーニャー」
「全部捕縛」
「全員もれにゃーく捕まっているのに、後を絶たにゃーってすごいにゃーね」
台所でおやつをもらっていたファファが、リビングにやってきた。
「あ、ファファ。おはよーニャ」
「おはよ、ルル」
そして、ファファは羽を伸ばしてルルルフを掬い上げると、背中に乗せた。
「ファファおさんぽ、ルルといってくる」
「わかったにゃーよ」
アネイゴは玄関のドアを開けて見送った。ついでに買い物も頼んでおく。
ファファの言うおさんぽは、街の中を歩き回ること。
珍しい種族ながらも、王都の人々に存在は知られているファルーチェ。
最近ではファファが街を歩き回る事もあり、珍しさが大きく減った。
しかし、そこらのハンターたちは、本来のファルーチェの用心深さなどをきちんと伝えており、ファファが割と特殊なコであることも、街の人らの周知事項となっている。
「ルルルフ、とうとうしっぽが、もげたかー」
お散歩の途中で、しっぽのないルルルフを見た八百屋さんが、声をかけてくれる。
しっぽがないカーチェは、成猫手前というのを知っている人が多い。
「こんにちはですニャ。上手に歩けニャいから、赤ちゃんみたいニャ気分ですニャ」
「この時期は仕方ないわよ。きちんと食べてしっかり寝ることが大事よ」
八百屋のおかみさんも、ルルルフを撫でて励ましてくれた。
街の人みんなで、ルルルフの成長を見守っている状態である。
=・ω・=・ω・=・ω・=
「ホルス〜! 家に突撃してきそうだったボイノーがいて、狩っちゃったから、解体してミャー」
「はいはーい」
相変わらず解体の腕は壊滅的なナナヤ。ホルスと分業状態で、できない面はきちんと頼る。
魔物の内臓は薬になるものがあるので、ホルスにとって解体はお手のもの。
「それにしても、この時期の仔カーチェとは思えないね」
「筋肉でなんとかなるミャ」
カーチェは運動能力が全般的に高く、個体差はあれど人間と比べると筋肉が多い。
ルルルフでさえ筋肉量はそこそこ多くて、運動能力は高めではあるのだが、国1番のハンターたちがいる場所に住んでいるため、そこでのルルルフの身体能力は、いちばん低いものとなっていた。
が、そこらのハンターを含む普通の人間と比べると、一般カーチェであるルルルフの身体能力は、それなりに高い。
そんなカーチェでさえ、しっぽがなくなると体のバランスを取りづらくなり、おとなしくせざるを得ないのがいまの時期である。
が、例外はいたようだ。
「この時期にまともに動けてるコを見るのは、ナナヤが初めてかな」
「いつもよりは動きづらいミャ。でもちょいモンなら問題なく狩れそうミャ」
小型モンスターに分類される種別を、ちょいモンと名付けているナナヤ。
ちょいモンを狩ると、肉のほか、換金できたり薬の材料になる素材なども手に入るため、日々の生活には困っていない。
「動けミャーのは、お金稼げないから困るミャーと思ったけど、動けるもんミャね」
「多分、ナナヤだけだよ」
しっぽが取れた日を含めて、3日はまともに動けなかったが、4日目で4つ足ならスタコラ歩けるようになり、外で単身お散歩をしだす。
5日目はお散歩ついでに、狩りもするくらいに動けるようになった。
6日目の今日は、いつも通りに動けている。
しかし、しっぽが生え始めた気配はない。
「3週間はしっぽが生えずにいるコが多いから、そこから先ジワジワしっぽが生えてきて、動けるようになるのが、よくあるパターンだよ」
気合いと根性と筋肉で動くカーチェは、今まで居なかった。
個体差あれど、ナナヤの身体能力はずば抜けているため、ホルスは半分くらいは納得してしまう。
この間出したお手紙は、まだナナヤのしっぽが取れて2日目だった。
通常通り動けない状態である事を書いたため、訂正の手紙は早めに出そうかな、と思いつつもまだファファが帰ってこない。
帰ってきてすぐに手紙を運ばせるわけにも行かないし、ととりあえずナナヤ観察日記状態で、3日目以降のことを認めておこうと、ペンを手に取った。




