予定通りミャ ▶︎初耳ニャ
「ニャ……ニャーーーーー!!!!!」
モクレンの手の中にあるのは、記憶にある自分のしっぽ。
灰色の先細りな、さほど長くないしっぽは、間違いなく自分のしっぽだ。
ルルルフは驚きで飛び上がり、慌ててしっぽが生えているであろう場所を触る。
ゴルーダやモクレンなら、自分のしっぽと似たようなおもちゃを買ってくるなどのイタズラだってやりかねない。
そんな思いもありつつ手を伸ばす。が、ルルルフの手は宙を切るばかり。
「ニャ? ニャ? ニャニャ??」
今日は服を着ていないので、おズボンで隠れているわけでもないし、いくら自分のしっぽが短いとはいえ、きちんと手で触れるのだ。
が、ない。どこにもしっぽがない。しっぽを動かそうと意識しても、そこには何もない。
そして、しっぽがないのでバランスも取れないし、ワタワタして普段と違う動きもしていた状態で、とうとうコテンと倒れてしまった。
「仕方ない」
モクレンがしっぽを振り振りしながら言う。
「しっぽが無くニャるって、ルルルフ病気にニャったー!!」
「病気じゃねーよ。成長の証だ」
ゴルーダは平然と言い放つ。そして、転がったルルルフを起こして膝に乗せる。
「面白そうな仕事無くて、ちょうど良かったな」
「うん、今でよかった」
「ルルルフのしっぽ取れるのが良かったって、酷いニャー!!」
ビックリと訳がわからずの状態だ。
痛みはないけれどバランスは取れないので、うまく歩くことも出来なかった。
何が起きているのか、きちんと説明するからと、一旦ルルルフをなだめたゴルーダは、すぐ戻ると言い家を飛び出して行った。
ルルルフはソファで寝転がり、首を傾げつつ、出て行ったばかりのゴルーダを待つ。
モクレンは、ルルルフのしっぽを棚にしまった。
=・ω・=・ω・=・ω・=
「あ、ホントだミャ。ナナヤのしっぽ落ちたミャ」
ナナヤは振り返ってしっぽを拾おうと屈むと、そのままコテリと転がってしまった。
コロコロっと回って仰向け・大の字になる。
「おうちで落ちて良かったミャ」
「ホントだね」
ホルスはナナヤを抱き上げ、ハンモックソファに乗せて、しっぽを拾った。
「2日くらい前からしっぽの感覚、鈍くなってたミャ。ホルスの言った通りだったミャ!」
「ね。特にナナヤのようにしっぽが長いと、感覚がなくなるの顕著に感じちゃうって聞くよ」
ナナヤは事前に、ホルスからしっぽについて聞いていた事もあり、こういうことか、と自分に起きた事をしっかり受け止めていた。
「カーチェのトリマーしてただけあって、ホント詳しいミャね」
「まぁね。でもこれでナナヤも。……ね!」
「ミャー! 楽しみミャー!!」
そして、まったりするという予定は、そのまま続行。ナナヤはお昼寝に入った。
=・ω・=・ω・=・ω・=
「緊急で家政仕事が入るにゃーんて、にゃーにごとかと思ったにゃーよ」
ゴリハウスにやってきたのは、アネイゴ。
「すまない、本当にこれ緊急で……」
「ま、ほんとに緊急にゃーね」
ゴルーダは申し訳なさそうに、頭を掻き謝った。
家政カーチェギルドから、アネイゴを連れて帰ってきた事に、家政仕事は自分がやるのに、どうしたんだろうと、首を傾げる角度は深まるばかり。
アネイゴへお茶を出そうと思ったルルルフは、ソファから降りると、ころりと前転で転んだ。
「しっぽない、あぶない」
モクレンがルルルフをソファへ戻す。
「あにゃー……村の連中、やっぱり説明してにゃーかったのね」
「ニャにを?」
「成猫になる前に、カーチェはしっぽが取れるにゃーよ」
「……ニャ??」
その言葉を聞いたが、アネイゴにはしっぽが生えているので、ルルルフのつぶらな瞳は訝しむ目を向ける。
「取れたしっぽが完全に生えるのが、成猫の証にゃーよ」
アネイゴが教えてくれた事で、納得したルルルフ。
ゴルーダとモクレンも頷いている。
「アネゴさんを呼ばニャくとも、ゴルーダやモクレンが説明してくれれば、よかったんじゃニャーの?」
ルルルフの抱く疑問に、ゴルーダは首を振る。
「人間がカーチェの事を伝えるより、カーチェがカーチェに伝えた方が、経験者の言葉だからスッと入ってくるだろ」
「そーゆー事にゃーよ。下手すりゃルルルフは、ゴリと小ゴリのイタズラかと思ったり、しっぽが消えちゃう病気とか思ってしまいそーにゃーよ」
「ゴリじゃねぇ!」
「小ゴリ断固拒否」
確かに、アネイゴは経験者であり同郷で同族。人間に言われるよりは、しっかり納得できるとルルルフは頷いた。
ゴルーダやモクレンがそれを察して、アネイゴを連れてきた気遣い・優しさもきちんと感じ取り、ルルルフはお礼を言った。
「ふニャー……ありがとニャ。ところで、しっぽはいつになったら生え終わるニャ?」
「どんなに早くても4週間にゃーよ。そんで、カーチェごとに生え終わりの時期は違ってて、正確な日にちはわからにゃーのよ」
親のカーチェの生え替わり期間が5週間だったから、そのこどもならば同じくらい……などと、生え替わりを予想してみるも、全く違っている事などザラである。
きょうだい同士でも異なるそうで、これの解明は学者も未だに出来ていないと教えてくれた。
自分の種族ながら、わからないこともあるのだなぁと、ルルルフは不思議な気持ちになりながらも、おそるおそる次の質問を飛ばす。
「ちニャみに……最長だったカーチェは、どのくらい掛かったニャ?」
「これはアテにできにゃーパターンにゃーけど、あたいが生まれるちょっと前の話にゃー。しっぽが生え替わる頃、運悪く骨折したコがいたらしいにゃーよ」
「痛そうニャ……」
ルルルフは村にいた頃、骨折なんてのは知らないで育った。周りの仔カーチェや、成猫カーチェも、骨折してる者はいなかったのだ。
なので、した事のないとても大変な怪我という認識だけ持っている。
「今までの経験から、折れ方を見る感じ、早い段階で適切な処置もできたし、2ヶ月くらいで治りそうって思ってたにゃーよ」
「それでも2ヶ月も掛かるんニャー……」
「そんで、しっぽ生え替わりの時期がかぶってしまって、骨折もしっぽも半年掛けてようやく、って感じだったにゃーよ」
他の村でも、運悪く同じようなパターンが起きた事あったのを、家政仲間からアネイゴは聞いたそうだ。
何故か骨折している者だけは、しっぽが再び生えてくる期間がとても長い上に、骨折が治るのも遅いため、骨がなにかしら影響している気がするらしい。程度に話が出ているレベルだ。
なので、カーチェや人間は、しっぽが落ちたコらを、無理しないようにしっかり見守るのだと教えてあげた。
「じゃあ、下手に歩き回ろうとして、バランス崩した転び方して……骨折なんてのも?」
ゴルーダが恐る恐る訊ねると、アネイゴは頷く。
「そうにゃーのよ。だから、生え替わり時期に、骨折だけは、絶対に、させにゃーいように、しにゃーと、いけにゃーのよ」
力強く言われた事で、ゴルーダとモクレンはさらに気を引き締めた。




