タオルケットぎゅっ ▶︎ファルーチェ
「それにしても、急だな……」
スパーンと進路を決めたナナヤに、ゴルーダは驚きが収まらない。
「ナナヤだし」
モクレンにとっては、驚く事でもないようだ。
「だってよ、まだ仔カーチェだろ。庇護を受けつつ成猫になると思ってたけどなぁ」
「ナナヤだよ」
「まぁ、そうだよなぁ……」
急な話で、餞別すら用意できない歯痒さがあるゴルーダ。
モクレンは餞別がわりに地図を渡せたものの、もっとちゃんとしたものを渡したい気持ちはあった。
ナナヤだってルルルフ同様に、この街で過ごしていくと思い込んでいたから、少なからずショックはあるし、寂しさもある。
「いっときの別れ」
「だな……。サヨナラって言われてないし、また会えるか……」
「寝よ」
「あぁ。起こしてやらないとな」
おそらくナナヤが乗るのは、それなりに早朝な時間から出発するドド車のはず。
まだ普段なら起きている時間だが、起こすのと見送りとため、ゴルーダ、モクレンも寝床に入る事を決めた。
=˘꒳˘=˘꒳ ॑=˘꒳˘=
「起きろー!」
ゴルーダが軽快に布団を剥ぎ取ったら、剥ぎ取った先のベッドには、ルルルフしかいなかった。
「……おはようニャ……ふニャ……」
いつもより早い時間なので、スッキリとは目が覚めていないルルルフ。
しかし、くっついて寝ていたナナヤがいなかったので、一気に目が覚めた。
「ナナヤどこだ?」
「ナナヤどこニャ??」
ルルルフのそばには凹みがあり、おそらくナナヤが寝ていたであろうものだ。
触ってみるとまだ温もりがあり、ついさっきまでそこに寝ていたような温かさである。
「掛け布団」
部屋の入り口立っていたモクレンが、ポツリと発する言葉。
ゴルーダとルルルフの目線は、ゴルーダが剥ぎ取った布団に向けられると、そこにはナナヤが張り付いて寝ていた。
「このお布団、触り心地いいから、気持ちはわかるニャ」
寮にあった布団より、肌触りも良くて寝心地のいい布団である。
新築なゴリハウスには、さまざまな新しい家具・生活アイテムが導入されているので、布団も新品だ。
寮にある受け継がれてきた、くたくた布団とは違うため、つい眠りを選びがちになる。
「ナナヤの荷物に、タオルケット1枚入れてやるか」
「それがいいニャね」
ふかふわな肌触りは正義であると、ルルルフは頷いた。
なんとかナナヤも起きて、朝の支度をする。
何も告げていなかったのだが、コックのカーチェは早起きしてお弁当を作ってくれていた。
「あ、ありがとミャ!」
ゴリハウスの食材は妥協せず購入しているものが多いため、おにぎりもサンドイッチも寮のものより格段に美味しいのだ。
今日食べる分と、おやつを作って渡してくれた。
「いってらっしゃいにゃす。ここもあんたの帰ってくるお家にゃすよ」
「! 行ってきますミャ!」
コックのカーチェはにっこり笑って、ナナヤを撫でる。
そして、見送られてナナヤはゴリハウスを出た。
「俺らは街の門まで見送りだ」
「ありがとミャ」
ルルルフはモクレンが抱っこ、ゴルーダに肩車してもらうナナヤ。ナナヤの荷物はゴルーダが持ってくれている。
少し歩くと、大きな荷物を抱えてゆっくり歩いているホルスの後ろ姿が見えた。
早朝に大声で呼ぶのは、ご近所へ迷惑になりよろしくないので、ゴルーダとモクレンはその足を早めてくれて、ホルスのそばまで来た。
「あ、え?」
いきなりデカくてゴツい男が視界に入ってきて、ホルスはびっくりしたものの、デカくてゴツい男その1の頭の上からはナナヤの顔が、その2の腕の中にはルルルフがいた。
「おはようミャ」
「おはようございますニャ」
「おはよう」
カーチェたちの挨拶を受けて、ホルスも挨拶を返す。
「いきなりごめんな。俺らナナヤの友達でさ、見送りをしたくてさ」
「いえいえ、大丈夫です。ゴルーダさんとモクレンさんですよね、初めまして」
トップハンターということで、こいつらは割と有名人だ。知らない人が自分らの名前を知っているのは良くあるため、動揺もせず挨拶を返す。
「ドド車んとこ行くんだろ?」
「あ、はい。そうです」
「荷物、持つよ」
モクレンはルルルフを下ろして、ホルスの手にあった荷物を持った。
「ルルルフ、お願い」
「すみません、ありがとうございます」
ホルスがルルルフを抱っこして、ドド車乗り場まで歩き出した。
=・ω・=・ω・=・ω・=
ドド車乗り場までやってくると、まだオープン前のようで、扉は閉まっているものの、中には人の気配がありオープン準備中といったところだ。
「ありがとうございます、助かりました」
「ううん」
モクレンは荷物をホルスの足元へ置く。
ナナヤもゴルーダから降りて荷物を受け取ると、お礼を言う。
「ニャー……ナナヤが遠くへ行っちゃうのニャ〜……」
寂しさがあり耳が下がるけれど、ナナヤが道を決めたのだ。笑顔で見送らねばならないだろうと顔を上げたら、ナナヤとモクレンはゴルーダを見ていた。
「遠くへ行くけどミャ、ナナヤ予告なしでこいつらに遠くまで、半年ほど連れて行かれたミャ」
「……そういえばそうニャったね」
そして、ホルスは故郷で薬を作って、普及すればまた王都に戻ってくるつもりのようだ。もしかしたら何かが起きて故郷に留まる可能性はあるにせよ、今のところはそのような予定だという。
「王都が1番情報は入ってくるし、薬の素材が手に入りやすいんだよね。北部は雪に覆われている分、薬の材料はあまりないし、取りに行けるハンターたちの絶対数も少なくてね」
知らない地域のことを教えてもらい、ルルルフはワクワクだ。実際に自分は行くことはないけれど、それでも楽しく聞いている。
「それに北の地域だと海を渡る分、情報が遅いんだよなぁ」
ゴルーダの言葉に、ホルスはにこりと笑う。
「私は、というより実家には『ファルーチェ』がいるから、情報伝達だけは早いんです」
「おぉ、すげぇな! え、野生じゃなくて家ファルーチェか?」
「そうなんです」
「あ、堅苦しく話さなくていいぞ。ナナヤの友達なら俺らも友達ってことで」
元々フランクなゴルーダは、堅苦しく話してもらうのは苦手であるので、よくこうやって気さくに気楽に話してもらうようお願いしている。
「トップハンターさんに、そんな……」
「気楽が大事」
焦るホルスに掛けられる短い言葉。
2人とも気にしていない事を、むしろ気楽に接してほしい事を伝えてもらい、ホルスは堅苦しく話す事をやめた。




