ゴリチキン ▶︎就職
——季節はいくつか巡り……
「壊れた武器、散らかすんニャから、持ち込ませニャいよ!!」
ルルルフは、ゴルーダやモクレンへの遠慮が、ほぼほぼ消えていた。
俗称ゴリハウスには、住み込みのコックカーチェも居るので、家でご飯を食べる事が増えたゴルーダとモクレン。
狩りが終わると、まっすぐ帰ってくる事が多い。
が、片付け力は相変わらず低いまま。お家を極力散らかされないよう、壊れた武器を持って帰ってきた時は、お家に入れずに鍛冶屋に向かわせたりと、日々奮闘している。
「疲れた」
「大変な狩りクエストお疲れ様ニャ。でもルルルフは、そんニャデカい壊れた武器は持てニャいの! お家に持ち込まれたら困るニャ!」
「鍛冶屋……」
「うん、行ってきてニャ」
相変わらず通いのカーチェをしているけれど、しっかり生活指導もしている。
モクレンの単語を理解できるようになっていた自分を、たまに自画自賛するルルルフ。
すっかり家政カーチェとしては、一猫前となっている。
「何度言われたら気が済むんミャね、あいつら」
たまにお連れカーチェとして、ナナヤの指名がゴルーダたちから入る。
ナナヤは観念して銀ランクのハンターとなり、今や金ランク目前だ。
まだ仔カーチェではあるものの、強さは並みのカーチェ、ハンター以上である。
武器を壊す戦い方をしないナナヤは、呆れ顔で見ていた。
「むしろ、お家帰ってくる前に、鍛冶屋に引きずっていって欲しいニャ」
「それもそうミャね。気が利かミャーナナヤでごめんミャ!」
ぷんぷん、なんてオノマトペが似合う膨れっ面で言葉を落とすルルルフへ謝るものの、ナナヤのごめんはテヘペロレベルの軽い感じである。
「ゴリが、うちで飯食ってけーミャんて言ってたけど、大丈夫ミャ?」
「コックさんに訊いてくるニャ」
ルルルフの後をついていくナナヤ。
その後ろ姿は、ルルルフをすっかり隠してしまうほど背が伸びていた。横幅は手入れがおざなりなボサボサ毛で隠れている状態だが。
「ナナヤもメシ食うって? 問題にゃすよ」
カーチェは基本的に面倒見が良いので、結構ふたつ返事をしがちだ。
「食材大丈夫ニャ?」
「あ、ちょっと買い足して欲しいにゃす」
「行ってくるニャ。欲しいの教えてニャ」
「ナナヤも荷物持ちで行くミャ!」
まだ明るい時間なので、お店である程度買い揃えられそうだし、運が良ければ夕市がやっているかもしれないので、ルルルフとナナヤはゴリハウスを飛び出して行った。
=・ω・=・ω・=・ω・=
食材を買い足して、コックカーチェが腕を振るう。鍛冶屋から帰ってきたゴルーダとモクレンも揃い、夕飯の時間だ。
「なぁ、ルルルフー。そろそろウチ専属になってくれよー」
「ニャんで?」
度々ゴルーダから専属の交渉が来るものの、ルルルフはまだ学ぶことが色々ありそうなので、さまざまな仕事をしたいと断っていたが、最近はスカウト回数が多い。
理由を訊いてみると、ゴルーダは目を逸らしながら答えた。
「カーチェギルドに金払いに行くの、大変なんだよ。何ヶ月間分って渡そうとしたら断られるし」
ルルルフはカーチェギルド所属なので、請求書が来たら払いに行く。が毎月のことで、長期間狩りに行く時でさえ、先払いを許してもらえない。
そこで、ルルルフにカーチェギルドへ納品してもらう品として、お金を渡してお使いの仕事を頼んだのだが、後からしこたま怒られた。
「だーかーらー、ハンターギルドに金預けろって言ったろミャ! まだやってミャかったんか!」
以前ナナヤから教えてもらったタグ払い。
カーチェギルドでの支払いも、タグ払いで可能なのだ。が、ゴルーダはめんどくさがってやっていなかった。
「実行済み」
モクレンはハンタータグの裏を見せると、ゼニゼニのマークが記されている。
「雇用主はゴリミャから、モクレンがやっていても、ルルルフのお給料は支払われないミャ!」
「ゴリじゃねぇ!」
豪胆な男ではあるものの、新しいことに手を出すには慎重だったりする。
チームハウスの新設も、色々な人にガンガン言われて、ようやくようやく、と言ったところで手を出したのだ。
まだタグ払いをする心の準備は、できていないらしい。
「ゴルーダはチキンニャのよね、変ニャとこで」
遠慮のない言葉はバンバン放たれる。
「ゴリチキン」
「美味しくミャさそ」
「ゴリじゃねぇ!」
何がそんなに彼を億劫な思いにさせているかわからないし、ある日突然目覚めるタイプなため、無理矢理やらせるなんてことは誰もしない。むしろ怪我をするからやらない。
「ルルルフ、専属になってくれよぉ……」
ゴルーダは弱々しい交渉をまだ続けるようだ。
「いいニャよ」
あっさり許諾。
モクレンとナナヤが目を見開いた。
「ルルルフ、ほんとに大丈夫ミャんか?! 専属って、カーチェギルド辞める事になるんミャよ」
「大丈夫ニャ。衣食住の保証をしてもらえれば、お小遣いもらう程度でいいのニャ」
専属カーチェ(住み込み)の場合、給金をもらって住み込み料金を支払うタイプと、養ってもらい家事をするパターンがある。ルルルフは後者を選ぶ。
ルルルフは、もしお金に困ったら採取に行って、パイセーンと一緒に収集したものを売ればいいので、給金のことは気にしないようだ。このことは、パイセーンがこっそり教えてくれた。
パイセーンは、ルルルフの採取運のことを本猫へは言わずに、売るときは信用できるオトナがそばにいればいいだろうと、それっぽい言葉でルルルフを納得させておく事も抜かりなく。
「ルルルフ、ウチのコ」
「よーし、そうと決まれば……!」
「今月は契約期間内だから、来月からニャよ」
きちんとカーチェギルドにも話をしないといけないので、スパッと専属切り替え、という訳にはいかず、ゴルーダはガックリ肩を落とした。
「めでたいのかわからミャいけど、おめでとミャ」
「ありがとニャ」
ルルルフは固定の仕事先を、心に決めたようだ。
前のように、ルルルフはまだ覚えないといけない事がある。と、気を張って色々覚えようと、自分に自信を持てるよう焦りながら頑張っていたちょっと不安げな姿はなく、のんびり「ま、いっか」と言いたそうな顔のルルルフなので、ナナヤは心の中で安堵の息を吐きおろした。




