女神の祝福 ▶︎時忘れ草
「この世界には、色々なものに女神の祝福が掛けられていて、それをハンターは受ける機会が多いんだ」
ゴルーダが説明してくれるので、ルルルフは姿勢を正し、聞く体勢を整える。が、その両手には木のコップがしっかりおさまっているので、美味しいジュースを飲みながら聞くようだ。
「炉の女神ってのがいてな、鍛冶屋が作ったものは、着用者の体に合わせて自動調整されるとか」
「お洋服のように、体の大きさを測って、それに合わせて作るんじゃニャいんだ……」
なぜかはわからないけど、女神の祝福ってことで済ませている。わからないから、わかるものを当てはめているというだけらしいが。
「それがアイテムボックスも同じで、女神の祝福を受けていて、各街のハンターギルドに置いてある、自分の持ち物をどこでも出し入れできる箱なんだ」
「アイテムボックスは、炉の女神の祝福を受けた武器防具と、薬の女神が授けた祝福をもつ薬師が作ったお薬、魔物素材と、祝福を受けるアイテムになる素材しか入らミャーのよ」
ナナヤもしっかりお勉強しているので、ゴルーダの説明に補足ができる。
「えー、じゃあお掃除道具とか無理ニャの?」
「無理ミャ。ナナヤも気になったから、テイクアウトしたご飯をアイテムボックスに入れてみようとしたミャ」
「ど、どうニャったの?」
ドキドキ顔を出すルルルフに対して、ナナヤは至って普通な真顔で口を開く。
「箱って、フチがあるミャん?」
「うん」
「フチから下に入らミャーの」
「なぜか浮く」
モクレンも試したらしい。というか、ハンターたちは全員試すそうだ。
「しかも、その状態だとアイテムボックスのフタ閉めれねぇの! 他のハンターの迷惑にもなるし、先輩にスッゲェ怒られた」
駆け出しハンターの頃、ゴルーダもやっていたようだ。
女神のお話は、家政仕事では聞けなかったので、とても不思議な気持ちになったルルルフ。
「そんで、壊れた武器は祝福が切れちまうから、アイテムボックスに入らなくなるから、家に置いといたんだ」
「お持ち帰りしミャーで、鍛冶屋に持ってけミャ」
武器を壊すな、ではないのか。とルルルフは疑問顔を浮かべていた。
「無理」
その顔にモクレンが答えた。
「こいつら、他のハンターより基礎能力が高いんミャ。その能力に合わせた武器を作るには、古の獣っていう、異常個体を遥かに超えた強いやつを狩らミャーといかん上に、そんなのポンポン現れるわけもミャーから、頑丈な武器はあんまり作れてないんミャ。こいつらの武器は雑巾より消耗頻度高いミャ」
「間違いない」
ナナヤの補足でルルルフは理解した。
「強いハンターさんも、大変だニャ……」
モンスターと戦えないルルルフの感想はそれであるが、ゴルーダ・モクレン・ナナヤは首をゆるりと振った。
「ルルルフ。ナナヤもそうミャけど、こいつらも同じだからお伝えするミャ」
「ニャ?」
「異常個体狩るより、ボタンつけする方が無理ミャ!!!!!」
「……ニャんて?」
ルルルフにとっては朝飯前な裁縫作業『ボタンつけ』だが、3ゴリトリオは無理と言い放つ。
「無理無理無理、裁縫とかマジで無理。裁縫やるくらいなら異常個体と言わず、古の獣を狩る方がマシだ!!」
「針より槍」
「古はナナヤ無理だから、異常個体狩るミャ」
得手不得手はそれぞれにあるのは知っているが、こいつらの振り切り方がおかしい……。とナナヤは思ってしまった。
=・ω・=・ω・=・ω・=
夕方、お祝いという名の飲食会は解散となる。
「それじゃ、明後日から週2回通うニャ」
「おう、待ってるぞ」
ルルルフは、家政カーチェギルドの職員として、まず3ヶ月通いのカーチェで契約をした。
お掃除、買い物などの家政仕事を受け持ち、3ヶ月後は更新するか、ゴルーダたちの家の専属になるか、その時に改めて考える。ということらしい。
「ナナヤは、単発お連れカーチェで狩猫ライフしておくミャ」
「近場で面白そうなの湧いたら誘うからな!」
「わかったミャ」
面白そうなの、と言っているが、異常個体などのことである。が、その真意がわからないルルルフは、面白い狩りに行けるかもしれないナナヤを、ちょっとだけ羨ましく思ってしまった。
俗称ゴリハウスを出て寮へ帰る途中、ルルルフとナナヤの横を、カーチェサロンで働いているホルスが横切った。
「お忙しそうミャね」
「すごい顔してたニャ」
必死の形相で走っていたので、邪魔しないように。と声はかけず帰ろうと足を進めると、横切ったホルスが戻ってきた。
「あ、ナナヤ! あ、明日、その、狩猫での予約入っている?」
「うんミャ。フリー猫ミャ。テキトーにクエストでも行こうかと思ったミャ」
「あの、これ!」
ホルスが手に持っていた紙を広げると、そこには葉っぱの絵が描いてあった。
「なんかヘニャヘニャで、美味しそうには見えない野菜ミャね」
「これ、時忘れ草ニャ」
「ボケた野菜ってことミャ?」
「違うニャ。お薬の劣化を抑えられる草ニャ。村にいた頃、お友達の薬師カーチェがよく欲しがっていた草ニャ」
「あ、ルルルフ君は知っているんだね、これ」
「故郷の森によく生えていましたニャ」
この草は、この辺りでの採取情報は今まで無かったらしいが、持ち帰ってきたハンターがいて、採取情報が手に入った。
薬師でもあるホルスは、ぜひとも欲しい草であるため、明日以降採取に行きたくて、ハンターギルドへ護衛を頼もうと急いでいた。
そして、気心知れたナナヤがいてくれると安心と思っていたので、ちょうど会えたため予約を本猫へ確認もしてしまおうと、話をしてくれたそうだ。
「ホルスさん、この草の実物知ってますニャ?」
「ううん、手に入った時は、乾燥して砕いた後だったから……」
「この草、多分慣れてニャいと、見つけづらいと思うんですニャ」
「えっ……」
ルルルフ曰く、匂いで見つける草らしい。そして群生はしていない。草むらの中にポツンと生えているため、嗅覚に自信がないと見つけられないそうだ。




