サロン ▶︎明日以降の予定。
その後、ナナヤもマッサージを受けて、至福の時を過ごした。
泥を洗い落として、タオルドライが終わると、ホルスはペダルと羽のついた器材を持ってきて、椅子に座りペダルを連続で踏む。
すると、器材についている羽が回転して、風を起こした。
不思議な道具にナナヤはポカーンと口を開け固まっているが、ルルルフは見慣れているようで、器材の前に立ち、腕を広げ、全身に風を受ける。
しばらく眺めてからナナヤは、やっとこ言葉を発する。
「……何してんのミャ?」
「毛に風を当てて、早く乾かすのニャ」
正面の毛がだいぶ乾いた気がしたので、ルルルフはくるりと後ろを向いて後頭部、背中などの背面に風を受け乾かす。
自己申告ながら乾いたことを伝えると、ホルスはペダルを踏む足を止めて、少しだけ息を整える。
「えーと、次、ナナヤさんなんだけど……」
「ミャ?」
「ナナヤさんは毛が長いから、こう自分でわしゃわしゃしてもらっていいですか?」
ホルスは腕や腹を、指を広げた手で掻き乱す動作をして、お手本を見せる。
風を毛に阻まれないよう受けてほしいという意味であるが、ナナヤは頷いた。
「ナナヤ、爪は立てちゃだめニャからね」
「わかったミャ」
そうして、ルルルフの倍くらいの時間をかけて、毛を乾かし終わると、ペダルを踏み続けたホルスは息が上がっていた。
「だ、大丈夫ミャ?」
「だ……いじょ……で……す」
どう見ても大丈夫に見えないながら、見守ることしかできない。
少しして、息をなんとか整えたホルスが、最後の仕上げにクリームを塗った手を、ルルルフ・ナナヤの全身に這わせたあと、クシを滑らせていく。
「ありがとうございますニャ」
「いえいえ」
「ありがとミャ!」
「いえいえ。おふたりとも、鏡見ました?」
壁にある鏡を示すホルス。
ルルルフはいつも通りの仕上がりになっているのがわかりつつも、ニコニコしながらナナヤを鏡の前に連れていく。
「ミャーーー!! なんか光ってるミャ!!」
毛艶がしっかり出ている。傷んだ毛を切り落とし、綺麗に洗い、保湿効果のあるパックをし、その後仕上げクリームもついた。
多少の油分はあるものの、しっかりとするするスベスベな毛になっていて、今まででいちばんツヤツヤしている自分を見て、ナナヤは驚いた。
ルルルフも、自分のみでやるお手入れでは出せないスベスベ感に大満足。
「至福のひとときでしたニャ」
「すごいミャ! スルスルしてるミャ!」
毛も軽いし、さらさらしてていい香りもする。
ルルルフが定期的に通う理由が、わかった気がするナナヤ。
ナナヤにとっては非日常な体験、ルルルフにとってはたまにのご褒美タイム。それぞれ堪能し、カーチェサロンを後にした。
=・ω・=・ω・=・ω・=
「ルルルフがおしゃれカーチェに目覚めたミャ」
「自分へのご褒美で、1、2ヶ月に1度くらいニャ」
「そうミャんか」
「毎週通うのは無理ニャ」
ツヤツヤ毛並みのカーチェたちは、寮へ帰って行った。
お部屋に入り、くつろいでいる。ボリーボリーベリーを食べながら。
「うミャ。相変わらずうミャー」
久しぶりのベリーを堪能するナナヤ。
ちょっと食べ飽きているため、お休み中のルルルフ。
「まだまだあるミャね」
「あんニャ、どデカい木箱で来たら、ちっとも減らニャいよ」
カーチェギルドにもあるのだが、好みが分かれるようで、あんまり減っていない。
ネコウチャを飲みながら、まったり過ごす。
「ルルルフは明日も仕事ミャん?」
「明日から3日、お休みニャよ」
「んじゃ、ゴリたちのとこ、一緒に遊びに行こうミャ!」
遊びに来いと言われ、社交辞令とは思わないナナヤ。もちろんゴルーダやモクレンも、そんな社交辞令はしない者たちなので、ナナヤは遊びに行くのは実行する事柄となっている。
「ナナヤ、狩猫のお仕事はいいのニャ?」
「思っていたよりクエスト沢山やっていたミャ。3日くらいはのんびりしても、問題ミャーよ」
明日は、街をぶらぶらして……というより、ルルルフに連れられて遊びに行くという予定になる。
明後日に、ギルドへ行き、ゴルーダたちの拠点を訊いて、遊びに行こうと、予定が決まった。
「いきニャり行っても、いニャい可能性もありそうニャよ?」
「いるミャ。あいつら絶対に1週間は、お家でゴロゴロするか飲み歩くはずミャ」
それなりに長い期間一緒にいたこともあり、遠慮のない言葉である。
ナナヤにそういう友達ができて、羨ましさと心配が半々だ。
「……あニャ?」
はたと気づいたルルルフ。つぶらな瞳をぱちぱち瞬きさせ、記憶を掘り起こす。
「ミャ?」
口いっぱいに含んだボリーボリーベリーで膨らんだ頬を揺らしながら、ナナヤがじーっと見つめる。
「ルルルフ、まだお友達できてニャい……」
仕事を覚えることに夢中になり、休みの日の楽しみ方は、ほぼおひとり様コース。
村にいた頃のように、友達と採取したり、畑の世話をしたり、遊んだりした記憶が、こちらに来てからは無かった。
「お友達が欲しいミャら、おならをすればいいって、モクレンが言ってたミャ!」
「…………?! 多分、それ『お習い事』の事だと思うニャ……」
「……惜しかったミャ!」
「省略しちゃいけニャーやつだニャ!!」
テヘヘと笑うナナヤに、思わず焦った声でツッコミを入れてしまうルルルフ。
駄弁って居るうちに、夕飯の時間になったので、食堂へトテトテと向かった。




