トリミング ▶︎毛パック
「さ、ここからが本番ですよ」
トリマーのホルスはちょっとだけイタズラっぽい笑みを浮かべ、取り出したのは荒歯のクシ。
1本1本の歯が太く、隙間も大きいタイプで、そのクシをナナヤに当てて滑らせる。
滑り終わったクシには、もっさりとナナヤの毛がついていた。
「すごいニャ!!」
「ミャ??」
梳かしたのはナナヤの背中なので、ナナヤには見えていなかった。
ホルスはひと撫でしたクシをナナヤに見せると、ナナヤも驚いた顔をする。
「ナナナナ……、ナナヤの毛が!!」
「すでに切ってある毛だから大丈ですよ」
トリミング初心者カーチェあるあるなのか、ホルスは落ち着いて答えている。
クシをかけ終わると、床には更に毛が落ちていた。
荒歯のクシをかけ終わると、中歯のクシに変え、また梳いていく。
「ナナヤ、すごい毛がいっぱいあるミャ……こんだけ落ちてるのに、ふつーにナナヤには生えてるミャ……」
「ほんとニャね……ルルルフがこのくらいの毛を落としたら、毛がなくなりそうニャ」
集めたら、半分サイズのナナヤができそうな毛の量に、ルルルフは自分の腕の毛を眺めてポツリと言う。
「ルルルフくんは、毛を伸ばしたいの?」
ホルスが訊ねると、ルルルフは「ニャー」と考えた後、ナナヤを見る。
「このままがいいですニャ……。毛のカットとか大変そうニャ」
「ナナヤもこんな風にしミャーといけないってのは、知らなかったミャ」
ある程度、クシで梳かし終わると、ホルスはナナヤとルルルフから見える位置に座って、ひとつの道具を見せる。
「こういう、クシとカミソリが一体になった道具を使って梳かすと、毛を刈りながら梳かすことができたりして、長毛だけど短いのが好きなカーチェは使っているんですけど……」
クシの持ち手にあるボタンをスライドさせると、クシの歯と歯の間から、カミソリが出てくるアイテム、コームシェーバーなどとも呼ばれるものを見せてあげると、ルルルフとナナヤは飛び上がって驚いた。
「ギャニャー!!!」
「凶悪なクシすぎミャー!!」
予想通りの反応に、ホルスは眉を下げつつ、クシをすぐしまう。
「ね、怖いでしょ、これ」
「怖過ぎミャ」
「あ、でもルルルフは、大きニャモンスターの牙や爪の方が怖いニャ」
「あんミャのぶっ飛ばせばいいミャ」
大型モンスターにも物怖じしないナナヤだが、コームシェーバーはダメなようだ。
「え、ナナヤさんは、モンスターが怖くないんですか?」
ホルスはそこに驚いてしまったし、ルルルフもモンスターは怖い。
「ナナヤ、狩猫ミャ!」
「すごいですね!!」
自分より遥かに小さい、しかも仔カーチェであるナナヤだが、モンスターを怖がることはない姿に、ホルスは感嘆の声を上げる。
だが、ここには客としてきてもらっているため、話を色々聞いてみたいと思ったけれど、ホルスは手を止めずに、仕事を続ける。
「もう一度シャンプーをして、毛の中に残っている切った毛を洗い落としますね」
「ミャ!」
カットとシャンプーが終わり、更にスッキリサッパリを体感するナナヤ。
2回目のシャンプーでもそれなりに毛が流れ出て、ルルルフと共に目を丸くしていた。
「さ、次は毛パックですね。ルルルフくんお待たせしました」
「いえいえですニャ。カットの様子を見れて楽しかったですニャ」
ナナヤはタオルの上に座って、ルルルフを眺めている。
毛パックのために、表面の汚れを落とす。軽いシャンプーをしているようだ。
「ルルルフには説明しミャーのね」
「ルルルフくん、毛パック常連さんなんですよ」
「おしゃれカーチェすぎミャ」
「ナナヤも毛パックしてみたら、わかるニャ」
そして、毛をタオルドライした後、奥へ行くと、フチがついたベッドのようなものがあり、ルルルフは台を使って登り、中に入り座る。
ナナヤも同じように、フチありベッドの中に入った。
「毛パックしますねー」
「ミャ」
泥のような粘土の、白いクリームが顔の周り、耳の後ろ、腕やお腹、足やしっぽ……目と鼻と耳と口を避けて、全身に塗られた。
ルルルフも同じように塗られた。そして、ルルルフは寝転がった。
ベッドのようなものなので、頭を乗せる台があって、そこを枕のようにして横になる。
「はい、流し入れますねー」
「はいですニャ!」
ルルルフがいるベッドに、塗られた泥と同じようなものが流し入れられる。
ナナヤも同じように、泥風呂ベッド状態になる。
「ミャ……泥の重みがお布団やお風呂と違っていて、不思議ミャ」
「この泥、ちょっとあったかいニャん」
「ほんとミャ! 感触に驚いてて気づかなかったミャ」
ポカポカな泥に包まれているうちに、ウトウトし始めたルルルフとナナヤは、5分後には眠ってしまった。
=-ω-=-ω・=・ω・=
わしわしと体を揉まれる感覚が伝わり、ルルルフは目を開ける。
ホルスの手により、マッサージがされている。
「至福ですニャー」
「最近、ルルルフくんに家具修理してもらってる分、しっかりほぐさないと」
「それは、お仕事ですニャーよ」
ほのぼの、わきあいあい。そんな言葉が似合う空間である。
ルルルフもホルスもニコニコして、穏やかな時間が流れる。
「マッサージ気持ちいいですニャ〜〜あぁ〜」
「うらやミャ」
ナナヤが瞳孔をまるまると開いて、ガン見していた。




