トリミング ▶︎換毛期
「そ、そ、そ、そんミャ……。お風呂ちゃんと入ってたミャ……よ……」
2日くらい野宿したとしても、桶の中にあるような色を、お風呂で見たことはなかった。
なので、昨日お風呂に入って今日街に戻ってきたナナヤは、そこまで汚れているとは思っておらず、ワナワナと震えが止まらない。
「ナナヤさんは、毛が絡まっている中にも汚れが溜まっていたし、毛が長い分皮膚の汚れも残りがちでしたよ」
トリマーさんが笑顔でブッ刺してくる。
しかし、仔カーチェという経験不十分かつズボラなナナヤ。お風呂に入れる時にちゃんと入っていただけで及第点と言える。
街に居ながらでも、もっとすごいお客カーチェもくることがある為、トリマーさんは全く気にしていないようだ。
汚れを視認させてから、桶の栓を抜く。
そしてさらに、シャワーで毛についた泡を丁寧に落としていってくれた。
「なんかスッキリしたミャ! 毛は重いけど」
「一緒に旅をしていた人に、たまにゴシゴシ擦ってもらうだけでも、実は相当違っていたんですけどね……」
丁寧なブラッシングでなくとも、たまに人間のような長い指で、皮膚を洗うことを意識して洗ってもらっていたら、もう少し汚れはたまらなかっただろうと、トリマーさんは教えてくれる。
お風呂に入っていても、汚れが溜まっていた事はショックだったものの、きちんと次から気をつければいいとナナヤは気持ちを切り替える。
「そうだったミャね、知らなかったミャ。でも、あいつらにそれをお願いするのもなんか嫌だミャ。毛がなくなりそうミャ」
「そんなにガサツなのニャ?」
「ナナヤより酷いミャ」
「それ、生活できるのニャ?」
なかなか酷い言われようだが、ナナヤより酷いというのは汚部屋製造猫と呼ばれていた頃のものの事を指し、ルルルフもナナヤも、それをわかっていての会話である。
「酷かったミャよ。あいつら強すぎるから、武器がついていけてミャいんよ。ナナヤ何度も武器が壊れていくのを見たミャ」
「それ、人間なのニャ??」
「もう、ゴリと小ゴリミャんね」
武器がついていけないというワードがピンと来ないながらも、ルルルフは力の強い人が思いっきり掃除をすると、デッキブラシを破壊してしまうような状態を想像して、それは丈夫なブラシが欲しくなると思ってしまった。
タオルで全身を拭いたあとは、椅子に座ってもらい、毛のカットに入る。
「どのくらいにカットしますか?」
「ミャー……ナナヤ、キチンとそういうの意識した事ないんミャよね……よくわからんミャ」
「村のおとなたちは、今の毛の3分の1くらいの長さに切って、半分くらいの状態になっていたら、また切っていたニャ」
「そうミャんか……知らなかったミャ」
ルルルフから聞いて、トリマーさんは頷いた。
おそらく、いつもの倍まで伸びているのだろう。傷んでいる毛もあるため、そこもカット、長さも半分ちょっとにカット。
「もうすぐ、冬が来るから少し長めに残しましょうか」
「ミャ……冬?? 早くミャいか??」
「ナナヤ、半年いなかったニャよ。季節は2つ過ぎたニャ」
シャキ シャキ と、小気味よく一定のリズムでハサミが踊る音がする。
シャキ シャキ シャキ シャキ シャキ
「……ナナヤさん、毛が多いですね」
「そうなんミャ???」
「これだけ多いなら、もうちょっと短くしても大丈夫そうですね」
「ミャー」
「ニャー」
ナナヤとルルルフは、よくわかっていないようだ。
「ルルルフは毛のカットしたことニャいから、よくわかんニャい」
「そうミャんよね。ルルルフは毛の長さが止まるミャよね」
一応、冬になると伸びはするものの、他の長毛カーチェの方が目立つため、ルルルフの毛は伸びていないと思われがちであった。
「そうか、そろそろ換毛ブラッシングの季節かぁ」
「ニャ?」
「ミャ?」
トリマーさんの言葉に、首を傾げるルルルフとナナヤ。
「カーチェって、普段の毛は人間の髪の毛より抜けにくくてね、換毛期でもあまり抜けないんだけど、ブラッシングしてあげると、冬毛への促進をできるんだよ」
村にいたときは、そんなことは聞いたことがなかったのもあり、どういうことかわからないふたり。
「冬毛って、ニャんですか??」
「冬になると、カーチェは夏より毛が伸びるよね」
「少しだけ伸びますニャ」
「秋の換毛期できちんとブラッシングをすると、より長めの綺麗な冬毛になるんだ」
動物の猫とは違う換毛期であることも、教えてもらう。
人間の街で暮らしたカーチェが知る項目であり、カーチェのみが暮らしている村などでは、伝わっていない事も教えてくれた。
「やっぱ、カーチェのお手入れなお店で働く人は、物知りミャんねー」
「ホルスさんは、色々物知りなのニャ!」
「ほるす?」
「トリマーさんの事ニャ」
ルルルフの馴染みの客であるホルス。
ホルスにとっても、ルルルフは馴染みの客でもある。
「シャキシャキな音が止まったミャ……」
「わっ、スッキリしてるニャ」
毛が湿っている状態であってもわかる、ナナヤのスッキリ具合。
毛だるまから、毛の長めなカーチェへ戻れたようだ。
「ゴリじゃねぇ!!」
「小ゴリ、異議あり」




