ルルルフ ▶︎ネコウチャ
「それにしても、このパン……美味いニャッチな……」
「ルルルフの故郷のネコ麦で、寮にいる見習いコックさんに作ってもらいましたニャ。やっぱ、コックさん目指してる方が作ると、とっても美味しいですニャよねー」
持ってきた荷物の中にあったネコ麦。
自分の手元に置いてあっても、台所のない寮の部屋だし、そのうち傷んでしまう。なので、コックを目指している寮のカーチェにあげた。
故郷の村のネコ麦は、ちょっとお高級なパン用の小麦であるため、香りが良くて食べやすい。
「ニャッチ?! イドパン!!?」
知らない言葉が出てきて、ルルルフは首をこてんと傾ける。
「ルルルフの故郷、イーディン村のネコ麦はイド麦と呼ばれていて、そのネコ麦で作るパンは、イドパンと呼ばれているニャッチ」
イドサンド、イドクロワッサン、イドベーグル――など、イド麦使用のパンには、パンの名前の前にイドがつく。
イーディン村の良質な小麦や、他の地域の小麦も良質なものにはその村や町の名前を表す名称などが、小麦につけられ、ブランド小麦として扱われているそうだ。
「あー、ルルルフはまだパン屋さん、行ったことないニャッチな」
「ないですニャ! お給料入ったら、パン屋さんやカフェに行こうと思っていたんですニャ。けど……」
寮にいるカーチェは、寮が大好きすぎるのでオススメお出かけ先情報は、あまり持っていなかった。
家政業先でオススメを聞いても、今のところ3件オススメなお店情報を頂いたが、人気度合いが一緒で、どこから行こうか迷っているうちに、つい後回しにしてしまい、未だ未実行らしい。
「そんじゃ、街に戻って素材を売ったら、そのままカフェデビューしてみようニャッチか」
「! ハイですニャ!」
ふんす、と鼻息を吐いて、ルルルフは期待に胸を寄せた。
=・ω・=; 'ㅅ'=;º꒳º=??
何軒かの買取屋に行き、驚かれてばかりのルルルフ。
淡々と買取手続きを進めるパイセーン。
「1,000ゼニゼニ? プロの目利きとは思えんニャッチな!」
「あそこの森で採れたんだろ? ならこんなモンだろ」
「あんたんトコには売らないニャッチ。他をあたるニャッチ」
買い叩いてくる奴も世の中にはいて、安く買い取って高く売ろうとする者もいる事を、パイセーンは教えてくれる。
「モノによっては、とっても高額で売れる事もある事を考えると、何軒か買取屋を廻り、どのくらいで買い取ってもらえるか、比べておいた方がいい場合もあるニャッチ」
「ルルルフ、お値段よくわからニャいんです……」
お金で物の価値を決めているこの街は、パンとキノコの価値はまるで違う。
そういった、街での生活の当たり前をまだ知らないので、パイセーンがゆっくり覚えるよう、ひとつひとつ教えてくれた。
「買取で、ギルドを通した方が、お金になる場合もあるニャッチ」
「そうニャんですか?」
「その素材を納品して欲しい依頼が来ていたら、店に売るより高い場合が多いニャッチ」
そもそも店に売っていたら、ギルドに素材が欲しいという依頼は入らない。
そういった慣れた者には当たり前に思う事柄も、ルルルフは慣れていない者ゆえ、ひとつひとつ覚えていく。
「いろんニャ方法で、採取した物をお金に変えるとか、欲しい人にお渡しする方法があるんですニャね」
「そうニャッチ」
村にいた頃は、オトナに渡せばいいだけだった。
増えていく学ぶこと。きちんと覚えないと、お金を扱う場所に住む上で困ることになる。
自分にちゃんと覚えられるだろうか、と少し耳がしょぼくれる。
「ルルルフ、今回採取の換金で得た金は、家政カーチェギルドに預けるニャッチ。給料と一緒に受け取るように」
「はーいですニャ」
お給料を受け取る前に、採取で稼いだお金を渡すと、金額的には、どう頑張っても採取のお金の方が多い。
ルルルフは家政カーチェより、採取の方が稼げる気がしてしまうが、そこは黙っておく。
アネイゴに相談した方がいいと思い、お金は一旦ギルドに預けて、預かり証を発行してもらった。
――ナナヤとは違った規格外ニャッチ……。イーディン村のカーチェって、どうなってるんニャッチか……。
そして、採取ピクニックの後始末は終わり、採取かごを寮に戻って片付けてきたルルルフは、カフェデビューをする。
「ルルルフは、ネコーヒーとネココアとネコウチャ、どれが好きニャッチか?」
「……ニャ? ネコウチャってニャんですか?」
村にはネコーヒーとネココアしかなかったし、こどもにはネココアを与えがちなカーチェギルド。
まだ、紅茶を飲んだことがなかったようだ。
「香りのいいお茶ニャッチ。ミルクが入っていたり、レモンを入れてスッキリした味わいにしてあったり、他フルーツの香りをつけているものも沢山、スパイスを入れてピリッとした味わいを持たせているものもあるニャッチ」
「ニャッ!! そんニャに、たくさんあるんですかニャ!」
「あぁ、ひとつのネコウチャが苦手でも、他の種類の茶葉を試すこともできるし、自分好みの飲み物を探すのも楽しいニャッチ」
「ネコウチャ、飲んでみたいですニャ!」
ネコウチャを多く取り扱うカフェに向かうふたり。
「人間の飲む紅茶は、お腹を壊しやすいからやめた方がいいニャッチ。ネコウチャにしておくニャッチよ」
「はーいですニャ」
そして、ネコウチャ専門店にやってきた。
ネコウチャは人間でも飲めるので、人間の客もいる事を教えてもらう。
お店に入り、席に案内されふかふかのソファに各々の腰を下ろす。
そして、メニューを眺めつつパイセーンに色々質問して、注文するものが決まった。
「ニャんかお上品な香りがしますニャ〜〜」
ルルルフが選んだのは、ニャールグレイ。香りが評判のネコウチャだ。
パイセーンはニャッサム。いい香りと共にコクがある。
「ネコウチャ自体にも、種類がたくさんあるニャッチ。ニャルギリとか、ニャージリンとかも今度試してみるといい」
「奥が深そうですニャ〜」
楽しみ方は千差万別で、正解はないのがネコウチャの世界。
ネコウチャ愛飲家たちは、それぞれのおすすめ飲み方を持っていて、互いに尊重しあっているらしい。
紅茶のお供として出された、ふわふわのシフォンケーキにも、ネコウチャが使われている。
面白い世界を教えてもらい、ルルルフから笑顔が途切れることはなかった。




