ナナヤ ▶︎銅ランク+
ナナヤはパイセーンと森の奥深くまで来ていた。
街のそばと違って、木は好き放題伸びて、昼間だがあまり光も入らず、不気味な鳴き声が時折耳に届く。
そんな木々の枝を、飛び移り移動するカーチェ2匹。
「ナナヤ……お前ホントに仔カーチェニャッチか?」
「そうミャ! でも、村一番の力持ちだったミャ!」
パイセーンは長い肢体をしなやかに使い、木々を飛び移っているが、ナナヤはパワーで飛んでいる。
そして、ナナヤは次に移った木の枝で止まる。
「ん、どうしたニャッチ?」
「ここで、アイツが通り過ぎるのを待つミャ。アイツに見つかるとしつこいミャ」
ナナヤは、少し先に僅かに見える、地上を這う岩のような魔物を指し示す。
「ほう、アイツの特性も知ってるニャッチか」
ナナヤは頷いた。村では狩りをしていたため、多くのモンスターについて知っている。
村のおとなも手を出さないやつは、自分も手を出さない。
狩猫を目指すならそうも言ってられないかもしれないが、今のナナヤは見習いで、突っ走って周りへ迷惑はかけないよう自制している。
「アイツは、ターゲットを決めたら、唾をぺっぺっと吐き出してつけてくるばっちぃヤツミャ。そんで唾の匂いを辿って執拗に追い回すから、視界に入っちゃダメミャ」
「おぉ、よく分かっているニャッチな」
「名前は覚えてミャーけど」
そして、しつこい魔物はやり過ごして、目的地へ再出発だ。
「いたミャ」
だいぶ離れた位置でナナヤが止まるので、パイセーンは首を傾げる。
ナナヤは目をカッと見開いて、遠くを見つめている。
「ターゲットのフィフィヨッラ、怪我してるミャん」
「この位置で、そこまで見えるニャッチか……」
今回のターゲットは、フィフィヨッラと呼ばれる魔物。鳥型の魔物だが、ナナヤの目には片翼と尾がちぎれているのが見える。
野生のモンスター、ケガくらいしていてもおかしくないし、実際ハンターたちも、そういう場面には遭遇することもある。
いまのナナヤは、全身の毛がブワッと立っている。
狩りに慣れている身体能力が高いカーチェ、という評価をパイセーンはしているので、ナナヤの変化は恐怖からのものではなさそうに思えてしまう。
「んミャ?? 変な臭いもほ〜〜んのりするミャね??」
「ん、どれどれ」
ナナヤの言葉に、パイセーンも辺りの匂いを嗅ぎ出す。
鼻をヒクヒク動かすわけではなく、舌を出し入れしている。ナナヤの舌と違い、細長く先は2又に分かれている。
ヒトヘビ族らしい動きであるが、ナナヤはその行動が何をしているのか、よくわかっていない。
「変な臭い……これは……! ナナヤ急いで戻るニャッチ!!」
「理由を教えてほしいミャ。ナナヤは狩りをして能力を見てもらうのが今日のお仕事ミャ。それができなくて狩猫になれミャいのは困るミャ」
パイセーンは慌てて戻ろうとしたが、ナナヤが何故かを訊ねる。
「おそらく、臭いからしてフィフィヨッラの近くにいる魔物は、特殊個体だ。お前さんが相手にしたサイブロスより、2倍の大きさはあるはずニャッチ」
「臭いで大きさわかるミャか!?」
ナナヤは特殊個体よりも、大きさを測ったことに驚いた。
「ナーチェは臭いと一緒に温度も嗅ぎ取るニャッチ。その温度を感じ取れる範囲がとても大きいニャッチ」
「ミャああ、すごいミャ……」
「おそらく、あのフィフィヨッラを狩りに行こうとしたら、謎の特殊個体にオイたちはやられて終わりニャッチ」
そして、特殊個体がいることは、すぐ知らせないといけないため、今日は中止になるがこれまでの動き方などで測った能力は報告するので、今日のテストがまるまる無駄になるわけではないことを、ナナヤに教えてあげるパイセーン。
ナナヤは納得して、パイセーンと戻ることを決めた。
「特殊個体、どんなのか見に行くことも危険ミャんか? どんなのかわかれば、ハンターギルドも嬉しいと思うミャが」
「偵察は専門のハンターがした方が、安全ニャッチ。偵察についての学びをしていないオイたちが行って、怪我でもしたら大変ニャッチ」
「専門さんがいるミャんね、わかったミャ!」
村では狩猫全員が偵察員である。そのため、専門者がいることをナナヤは知らなかったが、人間のハンターとも協力する世界はいろんな知らないことがたくさんで、外に出て良かったと思えた。
「それにしても、お前聞き分けいいニャッチな。狩猫希望のやつは、何がなんでも狩りの実力を見せたいっていうやつが多いニャッチ」
「パイセーンは、ちゃんと理由を説明してくれたミャ」
なんでと訊いたら、慌てている時はこども相手では「いいから!」と理由を説明されない時だってあるが、ちゃんと教えてくれたため、戻ると判断したパイセーンに従うことを決めた。
ナナヤはただの狩猫希望の仔カーチェとは、一味違う。そんな面を見つけて、パイセーンは少し嬉しくなった。
「それにしても、お前力強すぎじゃないニャッチか? たまに木の枝がひしゃげてるニャッチよ」
「ミャっ?! 木さん、ごめんミャん!!!!」
ナナヤはこれまで通ってきた道を振り返って、咄嗟に謝罪の言葉を出す。
ふーっと息を吐き肩の力を抜いて、ナナヤは軽快な足取りへ動きを変える。
あっけらかんとしてそうなナナヤも、それなりに緊張していたようで、試験を受ける年相応な仔カーチェらしい面もあり、パイセーンは心の中で安堵の息を吐く。




