ルルルフ ▶︎実地研修1
「んじゃ、早速行くにゃー。今日行くお宅は、通いの家政カーチェが、急病でお休みになっているところにゃー」
アネイゴとルルルフは、総合カーチェギルドを出て、街へ向かう。
「何か持っていく物とかはないのニャ?」
「家政カーチェギルドの刺繍が入ったエプロンだけにゃーよ。それはあたいが持っているから、他はないにゃー」
アネイゴはトートバッグを肩にかけている。その中にエプロンが入ってるようだ。そして言葉を続ける。
「通いのカーチェがいるって事は、道具は揃ってるって事にゃーし、家政カーチェを雇えるお家は、いわゆるお金持ちにゃー。人間のお手伝いさんより、カーチェの方がお安く雇えるのは間違いにゃーけど、それでも庶民はカーチェを雇うことは、しにゃーのよ」
家政カーチェを、ギルドを通して派遣する事は、ちょっと割高であることも教えてもらったルルルフ。
割高の中身は、ギルドの維持費などを稼がないといけない分も含まれている。
頼む者はそれを理解した上で頼む。
そして契約した家政カーチェになっても、通い・住み込みでもお給料は変わる。契約次第という事も教えてもらった。
「だから、納得した上でお仕事決めるために、いくつか体験してもらうのにゃーよ」
「そうニャのかぁ……。ルルルフお金がよくわかってニャいから、勉強しニャいと……」
「そうなのよにゃー。村はお金がにゃーから、苦労するんにゃーよね」
村にいた時はお買い物といっても、物々交換であるし、ルルルフは仔カーチェなうえに、面倒見のいいカーチェたちは、いつも多く交換してくれる。
そして、レアアイテムを採取してくる影の稼ぎ屋だったので、そういった面もふまえて、ルルルフが差し出す物品以上の物と交換してくれていたのだ。
アネイゴもそれは知っていたので、村で交換している物と、街にあるものは、同じ価値ではない事も教えておいた。
「ニャ……。きのことお肉が交換できたりしないのニャね……」
「そういうことにゃー。お金と欲しい物を交換するシステムにゃーよ」
商店街を抜けると、お家がたくさん見えてくる。
アネイゴはルルルフの手を引いて、住宅街を迷いなく進んでいく。
「1軒目はここにゃーよ」
「でっかいお家ニャ……」
「ニンゲンの家だから、尚更大きく見えるのにゃーよ」
平均的なカーチェのサイズは、人間の3分の1から2分の1。たまに人間よりも大きなカーチェがいたりするけれど、カーチェといえば1メートル未満。そんな認識である。
アネイゴは80センチほど、仔カーチェなルルルフは50センチほどである。
アネイゴはドアの横にぶら下がっているロープを掴んで上下に揺らすと、ガランゴロンと音が鳴る。
「ニャッ!?」
ルルルフは突如鳴った音に、全身の毛をブワッと立てて音をした方向へ目を向け、瞳孔を丸々と開かせて警戒を見せる。
「これはドアベルっていう物にゃー。お家にお訪ねする時には、ノックをするにゃーよね?」
「す、するニャ」
「それの、大きい音が鳴るやつにゃー。大きなお家だと、タシタシとノックをした程度だと、お家にいても聞こえない場合だってあるんにゃー」
「す、すごいのがあるのニャね」
そして、待っていると「はーい」と声が聞こえてきた。
「家政カーチェギルドですにゃー」
「あー、はいはい、開けますねー」
扉が開いて出て来たのはニンゲン。
「ごめんなさいね、急遽の依頼になってしまって」
「大丈夫ですにゃー。今、新人研修中でして、このコも一緒でいいですかにゃー?」
「もちろんよ、さ、上がって」
「ありがとうございますにゃー、失礼しますにゃー」
「失礼しますニャ」
そして、台所に案内されると、そこには食器の山。
部屋はそれなりに荒れている。
「部屋の片付けと、食事で大丈夫ですかにゃー?」
アネイゴは慣れているのか、サクサクお訊ねする。
家の人も頷いている。
「そんじゃあ、ルルルフには台所の片付けをお願いするにゃーよ。洗う道具は台所にあるし、そこの洗いカゴに洗ったものを置いておくのにゃー」
そう言って、アネイゴはエプロンを渡すと、ルルルフは受け取り装着した。
「わかりましたニャ」
台所のサイズはカーチェ向きになっている。元々カーチェを雇うことを想定して家を作ったようだ。
それでもちょっと高い位置にあるが、アネイゴは慣れたように台所にあるレバーを倒す。床から踏み台が出てきた。
「踏み台あれば、やりやすいにゃー」
「あ、ありがとございますニャ」
ルルルフはテキパキと洗い物を片付けていく。
アネイゴは部屋の散らかっているものを、捨てる・片付ける・洗濯など、よりわけて、部屋の掃除を始める。
「あ、アネゴ……先輩! 欠けている食器がありますニャ、どうしますニャ?」
洗う前から欠けている場合は、元々なのか、シンクへ置いた時なのかもしれないが、ルルルフが壊したと思われるのは怖いので、先にアネイゴへお伝えする。
「皿洗い中断して、ちょっと待っててにゃー。お家の方に聞いてくるにゃー」
アネイゴは目的の場所に向かう途中途中でも、ゴミを拾ったり、洗濯物を拾ったりと掃除しながら動いていて、ルルルフは大きく頷いた。
「もともと欠けていた物らしいにゃー。ちょっと欠けていても柄が気に入っているので、使い続けるそうにゃー」
「わかりましたニャ。慎重に扱いますニャ」
勝手に慣れないうちは、こういった確認が多くなるだろうと、アネイゴは教えてくれる。
けれど、自分のせいにされないようひとつひとつ確認を取るとか、報告をすることが大事だと教えてくれる。
掃除をして、台所を片付けて、食材庫にある材料で、本日の晩ご飯と明日の朝ごはんの下準備をする。
今日のお昼分を作り、ダイニングテーブルに並べれば、出張家政のお仕事は終わりだ。
「助かったわ、ありがとうね。いつもより早いのね」
依頼主がびっくりしている。
アネイゴは頷いて、ルルルフを紹介する。
「今研修中のコがおりますにゃー。そのため分担で出来ましたにゃーよ。本日は能力測定の研修も兼ねているので、1匹分のお代は頂きませんにゃー」
「あら、それはダメよ」
家主が首を緩く振った。
「研修中といっても、失敗は何もしていないし、時間がかかったわけでもないのよ。ちゃんと2匹分の代金を払うわ」
家主は、カーチェや家政業を軽く見ている人ではないようで、ルルルフの働きも評価してくれたようだ。
「お気持ちありがたく頂戴致しますにゃー。とはいえ、まだ研修中の身ですにゃー。1.5倍でご請求させていただきますにゃー」
「本当はちゃんと2匹分払いたいけど、こっちが強く言うわけにもいかないわね。ギルドとの兼ね合いもあるし」
「ご理解、感謝申し上げますにゃー」
そのやり取りを聞いていて、ルルルフは深くぺこりと頭を下げる。
「ご評価くださり、ありがとうございますニャ」
「いえいえ、うちを綺麗にしてくれてありがとうね」
そして、アネイゴ1匹で予定していた時間よりは、大幅に早く仕事を終えた。




