ムキムキ物 ▶無機物
「……初めて知ったニャ」
「だーれもオトナは教えてくれてミャい……」
ルルルフとナナヤのリアクションに、護衛カーチェはププッと笑う。
「村から出たことのないカーチェは、村の名前知らんヤツばっかニャフよ。村長と外に行く者以外は、村の名前呼ぶ必要無いニャフ」
「まぁ、村にいたらそうだミャ〜。村に帰る、で済むミャもん」
「お外に出るカーチェには、教えてくれてもいいと思うニャ……」
初めての出立は、商猫隊にくっついて、人間の街に行くので、村の名前がわからなくて困る事はないし、今まで何とかなっていたのもあり、いつもこんな状態だと護衛は笑う。
そして、ドド車は進む。
「ニャあぁあぁ?!」
「んミャあぁああおあえぁああぅえびぎゃっ」
石造りの道、石造りの高い建物、たくさんの人間。
見たことのない物、スケールが全然違う。そんな街に驚いてひっくり返るルルルフ。
もう、びっくりし過ぎて、口の中を噛んでしまったナナヤ。
「ニャ、ニャ、ニャあぁぁぁ」
「落ち着くミャ、あれはムキムキ物って勉強したミャ、だから、襲ってくるわけじゃミャー」
「……それ、きっと、無機物のことニャ」
ナナヤの言い間違いで、我に返ったルルルフはむくりと起き上がり、改めて周りを眺める。
「そーいやナナヤたちは、どこ行けばいいミャ?」
「カーチェギルドまで送ってやるにゃっぷから、安心しろにゃっぷ」
街で働くカーチェたちを、取りまとめるギルドがあるので、まずそこへ行って住民登録をするそうだ。
そうしないと、仕事も定住もできない。
登録しなくていいのは、街から町へ渡り歩く者のみで、滞在日数2日未満のものだけらしい。
村では教えてもらっていない、ニンゲンの街にあるルールを教えてもらい、総合カーチェギルドまで送ってもらった。
商猫が中のカウンターまで連れてきて、受付に話をすると、受付のカーチェはこくこくと頷いてカウンターから出てきた。
「あとは、ギルドのお話よーく聞いて、頑張って働くにゃっぷよ」
「ありがとうございますニャ」
「おっちゃん、ありがとミャ!」
ルルルフは深くお辞儀をして、ナナヤは片手を上げてお礼を言う。
そして、商猫は本来の目的に戻るので、お別れをした。
「イーディン村のルルルフとナナヤですね」
受付嬢が紙を見ながら質問すると、ルルルフはピシッと背中を伸ばして返事をして、ナナヤは頷いた。
「説明をするので、こちらへ――」
ぐぎゅううぅぅぅ
ナナヤの目にたたずむ瞳孔が、ぐりんと丸くなる。
「ご、ごめんミャ……お昼まだミャから……」
「も、もうちょっと我慢してニャ」
流石に申し訳なかったのか、ナナヤの耳がペタンと折れた。
受付嬢がクスクス笑いながら、先に食堂へ行こうと連れて行ってくれる。
「あ、ルルルフたち、まだお金ないですニャ」
ルルルフは換金などしてないので、手持ちのお金は何もない。
そもそも、餞別の中にお金はないのだ。
村ではお金は使わないし、商猫も村の物を売って得たお金は、街の品を買って村に持って行ってるため、村にお金自体やってくる事はない。
「あぁ、カーチェギルドの寮で暮らすから大丈夫ですよ。その辺りもお話ししますね」
カーチェ用に、高さは低めのテーブルと椅子が沢山ある食堂。
だが、大きなテーブルと椅子も置いてある。
「めちゃくちゃデカいカーチェでもいるのミャ? テーブルやイスがすごくおっきいのあるミャ」
ナナヤが知らないだけで、よその村のカーチェは背が高いのかもしれないと思って訊ねると、受付嬢が人間用だと教えてくれる。
「カーチェギルドに人間も来るミャ?」
「来ますし働いていますよー。人間のおうちで家政カーチェをする子や、人間のハンターのお連れカーチェになる子がいますからねぇ。そういったところで関わりもありますし、カーチェと働くのが好きな人もいます」
そして、受付嬢がウェイターのカーチェに、お水とメニューを頼むが、ルルルフとナナヤは、よくわかっていないので、黙って座っている。
「あー、イーディン村には食堂がないんだっけか……」
「しょくどー……」
「しょくどー……?」
ルルルフとナナヤは首をこてーーーんと傾ける。
「えーとね……」
受付嬢から、お金を払ってご飯を食べることができる施設と説明を受けて、やはり首を傾げる。
村ではご飯の支度が、狩りや採取で出来なかったら、そこらのオトナが家に招いてくれて食べさせてくれたり、作ってくれたご飯を分けてくれたりしたのだ。
「あー……」
カーチェの村は、大抵そんな感じなのである。
受付嬢もそういった村から出てきたので、どうやって覚えたかを思い出して、ゆっくりと説明をした。
「んじゃ、ナナヤたちは、ごはん食べちゃダメミャね。お金持ってないミャ」
「えーとね、カーチェギルドが持っている、スタッフ用のお家に住むのよ。その印を出せば食べられるんだけど、まだ持ってないから、ここはあたしがご馳走するわ」
ギルド員の手続きをしておらず、お金を持っていないのに連れてきてしまった自分の落ち度だ、と伝えていたら、ルルルフとナナヤは首を振った。
「干し肉あるからいいですニャ」
「だミャ」
「待ちなさい。ご飯を食べるところで、ご飯の持ち込みはだめなのよ。だから、食堂のごはんを食べて」
飲食店を知らないカーチェがやりがちな、ご飯持参。
それを阻止して食堂のご飯を食べさせようと、受付嬢は説得する。
「……ニャ」
「ミャ〜……」
村のカーチェに言われたのなら安心できただろうが、よそのカーチェに言われると、少し不安になってしまい、ルルルフとナナヤは耳をペタンと折ってしまった。




