東の森をぬけて ▶石の塊
森を抜けると、少し開けた草原と荒地の間くらいな景色が広がる。
ここで今日は野宿だ。
「東の森を抜けたの初めてニャー」
「ナナヤもだミャ」
村の西側から北側にかけて、山も荒野も草原もある。南側から東側にかけては広い森ばかり。
夜の森は、いくら夜目がきくカーチェといえども、夜に活発さを増すモンスターもいて危ないため、村にいるカーチェは森を越える事は無い。
「ドドで日が出ている間に進んで、ようやく森を抜けるのニャね」
ドドの見た目は愛らしいウサギだが、牛のようにデカい。大きい分1歩の歩幅も大きく、カーチェが歩くより早く移動出来る。
なので、カーチェ単体では、日が昇っている間に森を抜ける事は出来ないのだと理解する。
「村では教えてくれなかったミャ」
さっそく新しい発見をするも、学校で教えてもらってないとナナヤは頬を膨らませる。
「そこは仕方ニャーよ。さっき商猫さんが、人間さんの街には、スイドーっていう物があるって言ってたけど、ルルルフはそのスイドーがさっぱりわからニャーよ」
「ナナヤもだミャ!」
家にあるという謎アイテム、スイドーを早く知りたいが、街まであと2日は掛かる。
ヤキモキするが、スイドーは家にあるなら逃げないだろう。逸る気持ちはいったん置いといて、旅の足手纏いにならないよう、しっかり休む。
日が昇るだろう、空が白みかけたあたりで、ドド車が動き出す。
「昨日のハンターさんっぽいゴリラは通らなかったミャー」
「ニャッ?! ゴリラがいたのニャ?!」
「あ、違ったミャ。ゴリラっぽいハンターさんだったミャ」
入れ替えてしまうと、人間とゴリラが逆転していまう言い間違えだ。
「あー、多分そいつは街では有名なやつにゃっぷ」
「って事は強いミャーか!」
「強いなんてもんじゃないにゃっぷ」
強いハンターと聞いて、ナナヤは目を輝かせる。
やはり、狩猫としてハンターの存在は気になるようだ。
ルルルフは家政カーチェ志望なので、お家にあると言われているスイドーが気になってしまう。
カーチェギルドに登録の際、聞けそうだったら聞くしか無いと、メモしておいた。
「それにしても、おまえさんはよく鼻が効くんニャフな?」
護衛カーチェが、ルルルフに話しかけてきた。
ルルルフは休憩のたび、水分補給や甘味になる木の実を見つけ、ナナヤに採ってもらっていた。
その見つける手腕に、関心を示したようだ。
「ルルルフは、村では採取してましたニャ。だから、木の実とか色々見つけれるんですニャ」
「ほーぉ、採取の才能があるんニャフか」
「いいえ、ルルルフは沢山失敗して学んだんですニャ。ナナヤのように狩猫の才能はまったくニャいので、出来ることが採取でしたニャ」
本を読んだら忘れないとか、お薬を作れるとか、狩りにでれば成果をあげるなどの、突出したものが無いので、ひたすら繰り返し繰り返し採取して、失敗もたくさんした上で覚える事しか出来なかった。と本猫は力無く笑う。
「失敗したって事は、沢山採取したから学んだんだニャフ。努力できるってのも、才能ニャフよ」
「ありがとうございますニャ」
それでも一芸に秀でていたり、才能があり自信を持っているカーチェには敵わないので、ルルルフは自信を持てずに過ごしてきたが、頑張ったことを認めてくれる言葉がしっかり染み込んだようで、心が温かくなった。
その後の道中は、これといったトラブルは特に起きず、順調な旅路となり、3日かけて進んだ先には――
「ボウズたちー! 見えてきたにゃっぷよ!」
商猫の声掛けに、顔をあげるナナヤとルルルフ。
御者台の方へ近づくと、遠くに大きな灰色の石がそびえ立っているのが見える。
「ニンゲンの街って、石ミャんか?」
「あれは、魔物から街を守るために建てられた、大きな大きな壁だにゃっぷ。村を囲っている柵の、頑丈版にゃっぷよ」
「……ルルルフが縦にたくさん並んでも、届かなさそうニャ……」
遠くにある事はわかるけれど、それでも大きく見えるのだ。近くだと、とんでもない大きさなのだろう。
ルルルフはポカーンと口を開けたまま、視線は壁に向き固まっている。
「あれ、石の塊が囲っているから、街に入れニャい?」
「壁登るミャ?」
「ちゃんと入り口があるにゃっぷ」
初めて見る大きな石の壁。近づくにつれ、ひとつの石ではなく、レンガのような大きさの石が、沢山積まれているのが見えてきた。
「すごいニャー!! すごいニャー!!」
「あ、道の先に扉があるミャ!! 扉もデカいミャ!」
初めて見るものに大興奮のルルルフとナナヤ。
そんな彼らを見て、懐かしい気持ちになる商猫。
「中に入ったら、もっと驚くにゃっぷよ」
シシシッと笑い、口角がきゅっと上がってしまう。
商猫にとっては見慣れた光景だが、初めて見るニンゲンの街は、仔カーチェにとっては建物も市場も、道ゆく者たちも、全てが新鮮に映るはずだ。
ちょっと怖いのか毛がほんのり逆立っているルルルフと、尻尾をゆらゆらさせているナナヤ。
壁にくっついている扉に近づくにつれ、自然と2匹は手を繋ぐ。
「イーディンから戻ったにゃっぷ」
「おぉ、戻ってきたか! おかえり」
門番と気さくにやり取りをする商猫。
門番ももちろん商猫の出身は知っているが、言わないといけない決まりなので、商猫は毎度伝えている。
聞き慣れない言葉に、ルルルフとナナヤは首を傾げる。
「……イーディンて何ミャ?」
「ニャー……聞いた事ニャい」
そろって同じ方向へ、こてーんと首を倒すナナヤとルルルフ。
「村の名前ニャフよ」
護衛カーチェが教えてくれる。
「「村に名前あったニャ?!」ミャ?!」
目を見開いて、ナナヤとルルルフは飛び上がる。
村の中で、村の名前は必要無いため、口にする事が無かったが、他の街にいけば、カーチェの村はいくつかあるため、村の名前を告げる事を教えてもらう。




