ギフ・アンド・テイクのギブが思いつかない【カリン】
「とにかく、時間がないんです。だから、男性がイチコロになる閨のイロハを教えていただきたく…」
「ばか、そんなモンをよく知りもしない男に訊くんじゃねぇよ」
手を止めてテオがたじろいでいる。しかし、おでこパチンで空気を上手く壊してくれたテオなら、いわゆる及第点を教えてくれると確信した私は食い下がる。
「大丈夫です!テオは何だか安全な感じしますし!とにかく、テオの好みで大丈夫なので教えてください!ちゃんと参考にしますし!頑張って練習しますから!」
「はー…勘弁してくれ…」
「一般的なものでいいんですってば!その、最初に…くっ…口付けをしてもらってから、どうすればいいんでしょう?あ!やっぱりこちらから先に口付けをしたほうが、男性側はこう、アガる感じになるんでしょうか?」
「カーリーン。いいか、とりあえずちょっと落ち着け。な?」
唇を尖らせていると、再びおでこを弾かれる。おかしい、私の浅い知識だと口付けが開戦の合図のハズなのに。
「…お前の父親に掛け合って…いや、いくら何でもそれは駄目か…」
「ねぇ、テオ!お願いしますってば!」
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本日の梟亭はお客様も少なく、のんびりとした時間が流れていた。忙しないやり取りをしているのは私とテオだけである。
「何でそんなに初回にこだわるんだよ。別日でいいじゃねぇか」
「だから駄目なんですって。次の日にまた出立…お出かけされるので、とりあえず結婚の及第点は当日中にいただかないと…」
「何だよ及第点って…」
めんどくさそうに返事をしながら料理を食べ直すテオに、私が横からああだこうだと言っていると、落ち着いた声が横から入る。
「カリンちゃん、僕が教えてあげましょうか?」
「リーリさん!………いいですね、リーリさんも何だか色々とお詳しい感じしますもんね!あ、紅茶のおかわり淹れましょうか?」
「リーリ、やめてやれ」
テオとはまた違った落ち着いた色気のあるリーリさん。年齢はリーリさんの方がテオより少し上で、同じお仕事?でいつも一緒に行動していると言っていた。
二人ともがっしりした体格じゃないのに、意外にも軍のお仕事に携わっているらしい。
「ありがとう、いただきます。こんな可愛い娘さんが直々にお願いしているのだから、テオが教えてあげればいいのにね。ホラ、彼ちょっと奥手だから」
「そうなんですか?こないだの感じだと、とっても慣れてらっしゃるのかと…」
「………おやおや。これは聞き捨てならないな。テオの父君に詳しくお伝えしないと。カリンちゃん、もう少し詳しく教えてもらえますか?」
「おい、揶揄ってんじゃねぇよ。カリンも余計な事言わねぇの。リーリが喜ぶだけだ」
料理をグサグサとフォークで刺しながら、ぶつぶつとテオが文句を言っている。
軽口を叩く二人を見ていると、問題は解決しないのに心が少し軽くなる。
「そういえば、お二人は今回いつまでこちらに?いつもフラ〜っと現れて、フラ〜っと居なくなりますけど…」
「いつも期間は決めてないけどな。あ、花の月には一度国に帰るぞ。お前の結婚式もその辺だっけ?」
「そうなんです。もしお二人の時間が合えば、その前にお会いしたかったですね」
「さすがに当日にグリフィルムを発つと間に合わねぇからな。例のソレが上手くいくかどうかはともかく、カリンの花嫁姿は見てみたかったよ」
「あ、私、国外へ嫁ぐんです。言ってませんでしたね」
そういえばそんな細かい話もせずに変なご教授を願っているのだった。よくテオも付き合ってくれているものだ。
「おおそうか。もし俺の国の近く通るんだったら寄ってけよ。陛……国王が祭事するらしいからな」
「そうなんですね!どういう時間の運びになるか、またパトリーに聞いて、行けそうなら…」
「パトリーってお前の友達の?何で?」
「そりゃ侍女……あ、違…と…ともだち!だから!です!」
「ふーん。まぁ何かしっかりしてそうな感じだったもんな」
「そ、そうでしょ!?いつも私より私の事は分かってくれているので……。あ、テオとリーリさんみたいな関係ですね、きっと」
私たちのやり取りを聞きながら「僕とテオはすごく特殊な関係だけどね」と笑っていた。
考えてみれば、テオにとって何もメリットのない事に付き合わせてしまっていて、私は今更ながら申し訳ない気持ちになる。
そんな私の様子を分かってか、リーリさんが私を覗き込む。
「カリンちゃん、どうかしましたか?まさかテオに申し訳ないなんて思っているとか?」
図星を当てられ、私はソウデス…と語尾が小さくなる。
「今更ながら、変なお願いしちゃったと思って。私、あまり外の世界を知らないといいますか、世間知らずといいますか…」
「ホントに今更だな。まぁカリンの作る魚の団子は旨いから、そこは自信もって大丈夫だぞ」
妙な励ましをテオにされ、私は更に縮こまる。
「だから、お前はお前らしく居るだけでいいんだよ。変に気負うなって。それに、相手が危ないヤツだったら死ぬ気で逃げてこい。お前匿うくらいの城……家なら用意してやるよ」
まさか王女がこんな困り事してるとは、テオやリーリさんは夢にも思っていないだろう。
私は全てを打ち明ける事が出来ない申し訳なさともどかしさを抱えて笑った。
「ありがとうございます。テオやリーリさんも…私の作戦が達成したあかつきには、お礼をさせてくださいね」
いつものように拳を作って振り上げると、リーリさんも笑う。
「そうだね。放蕩王子もカリンちゃんに助けてもらう日が、案外早く来るかもね」
「そんな日来ねぇよ」
「だと、いいけどね」
リーリさんはニコニコと私とテオを見比べて笑った。




