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酒場姫の秘め事  作者: あまがえる


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22/23

不貞しちゃって大団円【カリン】

 翌朝、私はテオにぐるぐる巻きにされて、パラガーデンまで連れ戻された。


「カリンお嬢様!!」


 悲鳴と共にパトリーが駆け寄ってくる。泣き腫らした瞼がパンパンに腫れていて、少しも休めていないのがすぐに分かった。


「パトリー!大丈夫?酷い顔色だよ?体は?体調はどう?」


「カリン様のお怪我に比べたら…私なんか…」


「本当にごめんね、ちゃんと確認せずに扉開けちゃって…。パトリーも大変だったね。無事で良かった…」


 パトリーの無事を確認した後、私は大事な後始末をしなければならなかった。

 ちゃんとお伝え出来ればいいけど…。

 不安でいっぱいのまま、私はセオドア様への面会をお願いしたのだった。


--------


 ベールを付けたまま、セオドア様の執務室へ通される。 

 相変わらず分厚いベールは足元しか見えず、注意しながら部屋の中をゆっくり進む。すると、目の前に靴先が見えた。


「来たか」


 肩がビクリと震える。直接会話をするのはあの夜以来初めてだ。


「はい、セオドア様。この度は大変なご心労をおかけしました。本当に申し訳ございません」


「いい、いい。妃が無事ならそれで」


「寛大なお言葉感謝いたします。…しかし、わたくしはセオドア様に、大変不義理な行いをしてしまいました。…どうか…!処分はわたくしだけにして頂きたいのです。グリフィルムの国は何も関係がありません」


「不義理、とは?」


「はい、まず身分を正しくお伝えせずに婚姻関係になる事を、黙認して嫁いで参りました」


「理由を訊いても?」


「はい、もちろんです。実はわたくしは第一王女のキャティ・グリフィルムではありません。妹姫のカリン・グリフィルムと申します」


「…続けて」


「はい。前々から姉がザッカーリ国のポメラ軍師に執着をされておりました。そして、そのザッカーリ国がわたくし達の国へ攻め入ろうという情報が入ったのです。我が国の軍事力は乏しく…このまま侵略を許せば国が弱り、姉姫も攫われてしまう可能性もございました」


「それで(セオドア)と婚姻を結ぼうとしたのか」


「はい、それがそもそも正しくありませんでした。セオドア様のご意向をきちんと確認してから婚姻を結ぶべきで、そして貴国からの軍事支援をお願いするべきだったのです。…しかし、婚儀の直前に姉が失踪をしてしまい、セオドア様もまた、周りからの色事でお困りだと聞き、更にザッカーリが攻め入るまで少しの猶予もなく……強行突破のように嫁いでしまったのです」


「…なるほどな」


 良かった、とりあえずは全てお伝えできた。最後まで話の腰を折らずに聞いてくださったセオドア様に感謝である。


「どれもこれもセオドア様のお気持ちを無視した大変に不敬な行動です。謝って済む問題ではないのですが、本当に申し訳ございません」


「……」


「しかし、わたくしが迂闊に動かなければ、このような不測の事態が重なる事にはならなかったのです。わたくしが短慮でした。…もし、御慈悲をいただけるのであれば、セオドア様のお怒りをわたくしだけに罰としてお与えください」


「………罰」


 そう呟いてから、セオドア様は黙り込む。こちらにばかり都合の良いお願いだ。このまま斬り捨てられてもしょうがないくらいの、不敬な願いなのだろう。


「妃よ」


「…は、はい」


「迂闊、と貴女は言うが、貴女が動いたおかげで、いつも武力で我が国に揺さぶりをかけるポメラ伯を捕まえる事ができた。王族を攫うとは、死罪に等しい極刑を与える事も出来る。…がしかし、生け捕りにできたお陰で、我が国は外交で使える強いカードを得た、と言っていい。それは貴女の功績だ」


「いえ、それはわたくしを救い出してくれた、テ…優れた兵が行った功績です。わたくしは何もしておりません」


「救い出してくれた兵、とは?」


「セオドア様が通達を出してくださったお陰で、テオという兵がわたくしを助けてくれました。彼には感謝してもしきれません」


「…テオ、とはどんな男か?」


「そうですね、態度はあまり良くありません。それに口もちょっとだけ悪いです。だけど、とても頼りになる優しい人です。それに…」


「それに?」


「…いえ、あの……」


「どうした?私に言えないような男か?」


「いえ…!テオはとても良い人です。信頼できますし、側にいるならああいう人がいいです。あ、あと、いつも困った時に助けてくれます。あの…実は、グリフィルムでは私の良き友人でした。あ…わたくしが勝手にそう思っているだけかもしれませんが」


「………友人、か」


「……あの…後でお耳に入ってはいけないので、お伝えしますが、今回の件で、私の体に回る毒を防いでくれたのも彼です。……あの、その方法が…少し距離の近い方法ではあったのですが。……彼は、大変嫌な役目をかって出てくれたのです。嫌だったと思います、ただの知り合いに…その、ああいう事をするのは」


「そうか、テオという男は私以外に唯一妃を汚した男、という訳だな?」


「ち、違います!テオは汚れておりません!わたくしが汚いのはあったかもしれませんが。テオは…テオは!とても美しい体で、良く鍛えられて触り心地も素敵でしたし、それに何だか良い匂いがしておりました!!セオドア様でもそんな言い方はおやめください!」


「……………」


「あ、大変失礼いたしました。とにかく、テオはとても素敵な男性です。強いですし、その、触り方も含めて色々と優しいですし…」


「…妃よ」


「はい」


「貴女は、夫である私の前で…別の男を話をしているのを理解しているのか?」


 そう言われて、はたと気付く。本当だ。いつの間にかテオの良さをお伝えしてしまっていた。


「も、申し訳ございません!セオドア様の不興を買うつもりは毛頭ないのです。ただ、テ…友人を誤解していただきたくなくて…」


「そうか、では、妃に今後の事を伝えよう。罰、が欲しいのだな?」


 審判だ。どうか、私だけの懲罰で済みますように。はい、と告げて、ベールの下でギュ、と目を瞑る。


「私は縁を大事にしている。此度の婚約は外堀から仕組まれた事だという事も分かった。妃は少しそそっかしいからな、そのまま私の妻でいる事を一つ目の罰とする。ああそうだ、あと、テオという男は死んだと思いなさい」


 …え?何て?……どうして、テオが死ぬ事になるの?


「というより、テオについて勘違いし…」


「お待ちください!どうして!?セオドア殿下!!!どうしてテオが死んでしまう事になるの?!私に触れたからですか?!大丈夫です、最後までしておりません!………そんな………罰なら私に与えてください!!!!」


 ボタボタと涙が溢れる。王族の妃に手をつけた、とでも思われたのだろうか。


「テオが私に触れたのは不可抗力です!テオは嫌々私を触っておりました!絶対です!」


「妃よ、ちゃんと聞きなさい。嫌々触る訳など絶対にない。何だったら他の誰にも触らせたくなくて、あの役をかって出たのだ。本当なら貴女を見た全ての男の目を潰してやりたい、と思っているだろうな」


「…え?」


「最後までちゃんと聞いて。貴女は私の妻になり、魚のすり身の入った美味しいスープを時々私に作りなさい。それが二つ目の罰。いいね?」


 ベールの隙間から従者の人の足が動くのが見える。お付きの従者さんが、クスクスと笑いながらセオドア様の横に行ったようだ。


「セオドア殿下、その辺で許してあげてください。意地悪が過ぎます」


 はぁ、と大きなため息をついて、セオドア様は続ける。


「カリン、ベールを取って話をしよう。貴女が最初にすべき事は、私の顔を見て、何と呼ぶかきちんと決める事だな」


 ふ、と笑ってセオドア様の足が私の前までやってくる。彼はゆっくりとベールに触れた。


「あと、これだけ声を聞いて分からないっていうのは、ちょっと傷付くぞ」


 ベールを外されて最初に見えたのは、美しく濃い茶色の、私がよく知る瞳だった。

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