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酒場姫の秘め事  作者: あまがえる


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17/23

ここだよ、ここ!【カリン】

 どうやら血は止まっているらしい。

 太腿はズキズキと痛むが、どう頑張っても体を動かす事が出来ない。

 麻袋ごと担いでどこかへ運ばれた私は、ドサリ、と硬い床に下ろされた。

 声も微かに呻く程度にしか出せない。


「旦那ぁ、お待ちの商品ですよぉ」


 布越しに私を攫った男の声がする。どうやら依頼主に私を引き渡すようだ。

 ゴソゴソと麻袋の口が開けられ、依頼主と思しき人物が私を見ているが、逆光とベールのせいでその顔が見えない。


 胸ぐらをグイッと乱暴に引っ張られ、薄い寝着が(はだ)ける。


「おやおや…これはお盛んな(こと)だ。儂が手をつける前に傷物とは。所詮はあの若造も男か」


 クックッと喉を鳴らしながら笑う男の声に、力の入らない体で身構える。


「…ん?僅かに力を入れておるな。安心しろ、儂は()()()()には興味はない」


 そう言いつつ、男は寝着の隙間から私の胸を鷲掴む。


「…ッ!!」


 体は痺れているが痛覚は残っていて、乱暴に触られた胸が痛い。


「ま、さして興味は無いがな…お前を汚した時、あの若造がどんな顔をするのかは興味深い」


 そう言って男が私の胸元を噛む。不意に与えられた勢いと痛みは強く、僅かに動いたせいで羽織っていたガウンが落ちた。


「…ウ……ウ…ゥ…!!!」


 男は容赦なく力を入れて噛んでいて、肉を引きちぎられるような痛みがある。助けて、と叫んでいるつもりの声は小さな呻き声にしかならない。

 男は口を離すと、噛んでいた部分をベロリと大きく舐めた。歯型からはうっすらと血が滲み、舐められた皮膚はテラテラと光っている。


 気持ち悪い気持ち悪い!!!私はウーウー唸りながら訴えた。


「おお、おお、嬉しいか?そうかそうか。今は時間が無いからここまでだな。まぁ全部終わったら一度くらいは抱いてやろう。それまでいい子にしていなさい」


 クッと笑い、男は再び麻袋の口を閉じた。


--------


 大きく揺れる振動から、自分が荷馬車に積み込まれているのが分かった。外からと思しき音には活気があり、まだ市街地にいるのだという事も分かる。

 このままどこへ連れて行かれるのか、皆目検討がつかない。


「…ん?ようやく伝令を聞いて帰ってきおったか。間抜けな王子が急いでおるわ。どれ、ちょっと声をかけてやろう」


 横から私を噛んだ男の声がする。王子?セオドア様だとしたら大変な迷惑をかけてしまっている。考えてみれば初夜の次の日に花嫁が失踪しているのだ、大きな騒ぎになっていても不思議ではない。


「…うぅ……う……」


「うるさい荷物が」


 何とか声を出そうとするも、麻袋の外から蹴られてしまう。私は痛みで呻く。


 声の主はセオドア様に声を掛ける。何とか気付いてもらおうと動くも、やはり動きはとても微かで声も出せない。それでも何とか…と動いているうちに、再び麻袋ごと蹴られてしまう。


 痛みはあるが焦りが勝つ。私はここです、気付いてくださいセオドア様…!そう思ってどうにか動こうとするが、無情にも彼は去ってしまった。再び荷台の帆が閉められ、麻袋越しにも暗くなったのが分かる。

 それはまるで絶望を表す暗さだった。


--------


 ゴトゴトと荷馬車に揺られる。随分と長い時間のような、それとも私が思うよりも短いのか、視界に制限があるせいで時間の感覚が分からない。途中、どこかに移動されたが、その時もまだ体の自由はきかなかった。

 やがて外の喧騒は聞こえなくなり、静けさの中に馬の蹄の音と車体の軋む音だけになる。


 荷馬車の動きが止まる。どこか静かな場所へ着いたようだ。

 体は少しずつ動かせるようになってはいるが、この袋から出て逃げ出すにはまだ不十分だ。


 しばらくすると、私を攫った男たちが何やら会話をしていて、途中で別の声が聞こえてくる。内容は薄らとしか聞こえないので、現れたその人物が敵が味方か分からない。


 指先に力を入れると、パラパラと動かせるようになってきている。あと少し、味方なら気付いてもらわねばならない。


 その時『ぐぅ』とお腹が鳴った。何という緊張感の無い腹だ。そういえば昨日から殆ど何も食べていない。静かな場所に、その音は良く響き、それに応えるように私に向かって声が掛けられる。


「カリン、迎えに来た。すぐ片付けるから待っていてくれ」


 確かに()()()と言った!私の事を知っている誰かが来たのだ。


 すぐ後、男たちの声が激しくなり、何やらドサドサと激しく動く音もする。


 足音がゆっくり近付き、麻袋の口が開けられた。私の感覚は膝あたりまで戻っている。誰が麻袋を開けているのか分からないが、万が一には相手に抵抗せねばならない。

 ベールをフワリと解かれて、その相手を警戒する。


 月の光が仄かに届く薄暗い森の中で、私は梟亭で会っていたよく知る人の顔を見つける。


「……テ……オ…?」


 月明かりの下で濃い茶色の優しい瞳が、私を見つめて安堵の表情を浮かべていた。

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