*不可抗力というやつです【セオドア】
「テオドア様…」
ふにゃふにゃと笑いながら、俺の名前をごちゃ混ぜに呼んでいるのは、どう見たってカリンだ。
いや、たまたまキャティ王女がカリンに似ている可能性もゼロではないだろうが…。
「カ……姫、大丈夫…か?」
一応そちらの可能性も考えてキャティ妃として声を掛ける。
昨日から碌に食事も摂っていない胃に、強い酒を流し込んだのだ。一気に回ってしまったのだろう。
「キャティ……お姉様は…悪くないのです。…だって、やりたい事がある姫なんて、志が高くて素敵ですもの…。私には何もなくて……あ…梟亭は気になります…けど…でも、私のように取り柄がない……者は…せめて、国の役に立ちたい…れす………」
カリンだな。
正しく確信してから、この状況を整理する。
いくらグリフィルムが庶民的な国であるとはいえ、一国の王女が、護衛も付けず働いているのは如何がなものかと思うが…まぁそれは一旦置いておこう。俺も他国に行く時は似たような感じで滞在している訳だし。
問題は。
「どうして第一王女のフリしてんだ?」
そこである。別に第二王女が来ても問題なさそうに思う…いや、何番目の王女でも騙し討ちみたいに来るのは勘弁願いたいが、問題はそこではない。
カリンの寝言を聞く限り、本物のキャティ妃は結婚したくなかった様子だから、無理やり結婚などしなくても良かったのではないだろうか。両国の関係は婚姻がなくても良好であるし、万が一グリフィルム側が婚約を破棄したとて、我が国は関係を悪くするような狭量な国ではない。
それとも、隠しながら婚姻を急ぐ理由があるのか。
「…わたし、が……ちゃんと初夜を…」
むにゃむにゃと喋るカリンの頭を撫でてやる。グリフィルムにいる時から意気込んでいた目的を、どうにかして遂行するつもりなのだろうな。完全に酒で潰れてしまっている彼女を見て、ふ、と笑いが漏れる。
相手が自分だから良かったものの、こんな穴だらけの作戦で挑む彼女の危うさたるや。変な性癖の男が相手だったらどうなっていたと思うのか。
彼女が尻拭いのような事をさせられているのも納得がいかない。
足にも酒が回ってきているのか、俺の腕の中でカリンはどんどん脱力していく。
そうして自力で立っているのも難しくなってきたカリンを、俺は抱えてベッドに運ぶ。羽のように軽い彼女をそっとベッドの上に乗せて、頭を撫でてやる。
頭を撫でている俺の手で冷を取っているその様子は、まるで小さい子どものようだ。
「はー…どうしたモンか」
過去、部屋に忍び込んできた女達と違って、馴染みのある娘にどう対応すべきか悩ましい。
しかも、顔も知らない初めて来た土地の男の部屋に放り込まれる事を、国の為だと最初から受け入れている人柱状態の娘だ。
どんな相手に嫁ぐかも分からないのに、事前に初夜の練習までしようとして、本当に危なっかしい。
「……へへ…ふふふ…」
のんきな顔で俺の手に顔を擦り付けている娘。酒が回り、彼女は顔も体も火照っていて、吐く息は熱い。
カリン、と呼んでも「違います、私はキャティお姉様、…れす」と言って譲らない。
考える事が面倒になった俺は、カリンの横に寝そべり、細い指が俺の手を弄っているのをぼんやり見ていた。
途中で『テオ』と俺の名を呼び、その名の人物が悪くならないよう必死に説明している様子が、何だかやたら愛おしく見えてしまうのは、俺もだいぶ疲れているせいだろう。
その時
はむ…と、ふいに彼女の柔らかで小さな唇が俺の指を喰む。無意識にしているのだろうが、驚いて力が入ってしまう。
やめろと言っても目を閉じたまま、いやいやと首を振って再び俺の手のひらに頬を擦り寄せてくる。
「ほんと、やめ…」
血行の良くなった彼女の唇はまるで熟れた小さな果実のようだ。
そのまま火照る体をこちらに巻き付けて、体をペタペタと触って来る。体温が違って触り心地が良いのかもしれないが、これは本当にいけない。
「こら、ほんとに襲うぞ、無防備な姫」
そう言って、彼女の金色の髪でクルクル遊んでいると、俺が抵抗しないのを怒っていないと捉えたのか、再びカリンが俺の指に唇を這わせた。
お返しに脇腹と背中をゆっくり手のひらでさすってやると、体温の差が気持ち良いのか、ふにゃふにゃと笑っていて、こちらもつられて笑ってしまう。
もう少しだけ触れたくなって指を絡めると、彼女の肌はしっとりとしていて、酒のせいか鼓動も早い。
首筋に軽く口付けたのは、あまりにも無防備なカリンが可愛らしかったからだ。あと正直、欲にも負けた。
自分の唇を彼女の肌に触れさせると、その首元から柔らかな石鹸の匂いがたつ。汗は驚くほど甘かった。
そこで止めるつもりが。
「気持ちいい…です。もっと触って…欲しい」
俺の頭を抱えながら、その言葉の意味を理解せずにカリンが熱い息で言う。
酒のせいだ、…と、分かってはいるが…。
前は煩悩を何とか止める事が出来た男が、再び試されているらしい。
こんなややこしい状況で、相手は覚醒もしていないというのに。
盛りのついた畜生じゃあるまいし…と思っていたのはどこの誰だったか。
どうにか耐えるために彼女の頭を撫でていると、知ってか知らずか「セオドア様に触られるのは気持ちいい」と頬を染めて言うカリンの破壊力に、気付けば唇を寄せてしまった。
そういえば、口付けが何かしらの合図ですよね!と、カリンは梟亭で言っていたな。確かにそうだ。
「…ん……んん。…っは…苦し…」
随分と長く口を塞いでしまっていたのか、カリンはハ…と息を吐く。
我に返って彼女から体を離そうとすると、カリンは細腕を俺の背中にキュと回して「もっと引っ付いていたい」と舌足らずに言った。
アルコールの混ざった息で、ふにゃふにゃなのに頑固な願い。もちろん、引っ付くの意味は分かっておらず、ただただ冷たい俺の体が気持ち良いのだ。
俺はスルリと彼女の寝着を解く。薄暗い部屋でも彼女の肌の白さが分かり、首筋から鎖骨へ、そのまま柔らかな胸の膨らみへ、ゆっくりと唇を滑らせる。
ほんの少しでも抵抗すればすぐ止める。そんな言い訳を自分にしながら俺は彼女の甘い肌を吸う。
「……ん、んん…くすぐったい…」
「嫌か?」
「嫌じゃないです…。触れ合いって気持ち良いの…ですね」
「…そうだな」
相手にもよる、だろうけど。
なんて俺は不粋な事を思いながら、彼女に唇を這わせ、胸の辺りにどんどん紅い花が散る。未経験の男でもあるまいし、所有印を付けるなんてどうかしてる。
俺の唇が胸の頂に触れた時、カリンの全身がビクリと震える。構わずに小さな蕾を口に含むと、明らかに彼女の吐息には色が混ざって、絡めていた指に力が入る。
「あ……あ…、テオドアさま………」
ハ…と息を吐いて、初めての感覚に抗っている彼女がとても可愛らしい。
酒だけではない火照りが、彼女の頬と体を染める。
「不快なら止める。言ってくれ」
「あッ…んんん…そんな…事ない…です。きもち…いい。…あっ…」
拒否権のない者に卑怯な問いをして、俺は胸の先端を舌先でコロコロと転がす。その度に吐息を漏らし、足に力を入れるカリンの腹をなぞる。
どこもかしこも柔らかくて甘い。最初は遠慮気味だった口付けもどんどん深くなる。
もう止めないと…そう思っているのに、体がサッパリ言う事をきかない。
俺は拙いながらも一生懸命応じようとするカリンを組み敷いたまま、彼女の下腹部にゆっくりと手を這わせた。




