9匹目:大原つぐみ
ソウマ
「まぁとりあえず、こちらの席へどうぞ」
女性をカウンターに近い席へと案内する。
その間にナギサが入り口の扉の窓にレースのカーテンを降ろして、いつものように看板を掛ける。
『CLOSE』
女性は促されるがままにテーブルについた。
同時に昴が、銀のトレーにカフェオレを運んできた。
昴
「糖分をとって落ち着いてください」
女性
「あ……ありがとうございます」
ソウマはその女性と向かい合って座った。
女性
「私、大原つぐみと言います。実はその…………ご相談があってここまで来たはいいのですが、なかなか話しかける勇気がでなくて、こんな時間までお店に………」
ソウマ
「つぐみさん………と読んでもよろしいですか?そのことなら気にしないでください。それでつぐみさん、相談というのは?」
大原つぐみ(以下つぐみ)はうつむいた。
つぐみ
「相談と言うよりは、悩みと言うか………………どうしたらいいか分からなくて………。なにが起こっているのか、私自身もはっきりとは分からないんですけど…………………声が聞こえるんです」
ソウマ
「声?」
つぐみは語り出した。
つぐみ
「最近頻繁に聞こえるんです………。『恨めしい、憎らしい』って。何かに見られているような感じもして…………」
つぐみはカタカタと小刻みに震えだした。
つぐみ
「でもどこにも私に話しかけてる人なんていなくて………。なにもない、誰もいないはずなのに声が聞こえてきて……………。私、怖くて…………怖くて…………!」
つぐみは涙目になっていた。
つぐみ
「だから私、怖くなって嶺岸神社に行ったんです。あそこは、有名な神主様がいらっしゃると聞いていたので、その方に助けてもらおうと………。お会いして、ありのままを伝えました………そしたら神主様が言ったんです………」
『あなたはとても厄介なものに目を付けられたようだ。このままだと、あなたはそいつに取り憑かれてしまうだろう。これは私の専門外だ………私にはどうすることもできない……。……………『黒猫』という喫茶店、そこのマスターに相談しなさい。彼ならあなたの力になってくれるだろうし、あなたのその悩みを解決できるから』
つぐみ
「そして神主様が“この手紙を彼に渡すように”と……」
つぐみはソウマに先ほどの封筒を渡した。
ソウマはそれを受け取ると、中身を取り出した。
丁寧に折り畳まれた紙に、筆で書かれた文面があった。
ソウマの後ろで、昴とナギサとリョウが手紙の内容を見ようと顔を近づける。
『拝啓、『黒猫』の皆々様、いかがお過ごしでしょうか。この頃めっきり寒くなって、お風邪など拗らせていないか心配です。嶺岸神社の紅葉もすっかり色が変わり、秋の訪れをひしひしとこの身に感じています。さて、この間の件はありがとうございました。お陰で私も…………』
ナギサ
「関係ないことばっか」
リョウ
「なぁーめんどいからその辺飛ばして本題のとこ読もうよ」
そうだな、とソウマは手紙の文字を目で追っていった。
『…………………だから毎年そうするようになったそうです。それでは、くれぐれもお体に気をつけて。また顔を見せに来てくださいね。』
リョウ
「………………終わり!?」
ソウマ
「いったい何の手紙だったんだ…………」
昴
「待ってください。裏面にまだ文字が続いてますよ」
昴は手紙を裏返した。
確かにそこには、筆で書かれた文字が続いていた。
『忘れてました。この手紙を渡した女性は、どうやら何かに狙われているようなのです。私もはっきり何とは分からないのですが、何か禍々しいものが彼女を狙っています。とても邪悪な、何かが。どうか、彼女の力になってあげてください。お礼は弾みます。詳しいことは彼女に直接聞いてください。』
ナギサ
「表一面無駄だね」
ソウマは丁寧に手紙を封筒に戻して、言った。
ソウマ
「つぐみさん。その声が聞こえてきたのはいつぐらい前からですか?」
つぐみ
「えーと……………一週間くらい前でしょうか…。初めの頃は、かすかに何か聞こえる程度だったんです。空耳かな?と思っていました。でも日に日にそれが大きく、はっきりと聞こえるようになってきて………」
ソウマ
「ふむ……」
昴
「この話、引き受けるんですか?」
ソウマ
「せっかくここまで来てくれたのに追い返せないだろ?枯館様の手紙にも“力になってあげてください”って書いてあるし……」
ナギサ
「何だかんだ言っても、枯館様は管理局の頭だからなー。一応正式な仕事の依頼になるから、俺たちの理には反していないし。断る理由はないよ」
昴は少し考えて
昴
「それもそうですね。お礼も弾むと仰ってますし」
納得した。
もちろんリョウも。
ソウマ
「じゃあこの件は、正式にこちらが引き受けましょう」
つぐみ
「あ……ありがとうございます!どうかよろしくお願いします」
深々とつぐみは頭を下げた。




