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5匹目:『黒猫』の晩餐

ソウマと昴を乗せたバイクが『黒猫』に到着すると、食欲をそそる香りが辺りに満ちていた。


「今日は…………カレーか」


「ん……………?」


カレーの香りで昴は目を覚ました。


「あっあれ!?『黒猫』!?すみません寝てたんですね僕……!」


今いる場所に気づいた昴は自分がずっと寝ていたことに気がついた。


「爆睡だったよ(笑)」


クックック…と笑いを堪えるソウマ。

昴は恥ずかしさのあまり顔を赤らめた。


「まぁ今日は寒いからな。11月だし、冬も近いしな」


『黒猫』のドアにはレースのカーテンがされ、閉店を示す看板もかけてあったが明かりが点いていた。

ソウマがドアノブに手をかける。


カランカラン


キーの高いベルが鳴り響く。


「おかえりなさい二人とも」


店内のテーブルは一つを除いて、全て椅子が逆さまに上に乗せられていた。


カウンターの奥でエプロンを着けたナギサとリョウが調理をしている。


「今日はリョウ特製のチキンカレー」


「今日のはちょっと自信あるんだよなー」


そういって大きな鍋をぐるぐるかき回す。


「そんなに回したらジャガイモが崩れるだろう!」


「ダーイジョウブだって!!」


ギャーギャー騒ぐ二人。

いつものことなので、ソウマと昴は冷静だ。


「俺先にシャワー浴びてくるわ」


「僕も着替えてきます。二人はどうぞごゆっくり」


リョウとナギサを横目に、二人はカウンターを通り過ぎて階段を登っていった。




ここ喫茶『黒猫』がある建物は地上二階地下一階の大きな家で、地上一階は喫茶店、二階はそれぞれの部屋と洗面所、それに大浴場(リョウはそう呼んでいる)などがある。

地下一階は食料庫だ。地下一階と言っても、階段を降りたら縦長の部屋一面の棚と冷蔵庫が置いてあるだけで、部屋と言うより倉庫に近い。




「いっただきまーす!」


リョウが代表して音頭をとる。

それに続いてそれぞれが今日の食べ物に感謝の気持ちを込めた“いただきます”をする。



――――――――――――――――――――今日の晩ご飯のメニュー:

1、リョウシェフ作チキンカレー

2、ナギサ作シーフードサラダ


デザート:アップルシナモンパイ

―――――――――――――――――――


「でさー、今日の仕事(オニ)の報酬はいくらだったんです?」


食後のデザートのアップルシナモンパイのリンゴをフォークで差すリョウ。


「10だ。まぁあんなもんだろうな。あれくらいなら」


ソウマは入れ立てのダージリンを口に運ぶ。


「でも最近ちょっと鬼がよく出るね。気のせいか若干強くなった気もするし」


「満月が近いからな……。満月まであと何日くらいかな?」


「十五日くらいですね」


鬼は月の満ち欠けによってその強さが左右されているらしく、月が完全な円形で空に現れる満月の夜は鬼たちの妖力(鬼たちのもつ力のこと)が上がり、鬼が活発になり出没回数もぐんと増える。祓い屋にとってもっとも忙しい、且つもっとも稼げる時なのだ。反対に、月のない新月の夜は鬼は滅多に現れることはなく、力もかなり弱まってしまう。


「やっと稼ぎ時がくるな」


「前の満月の晩はこの辺はあんまり出なかったからな〜」


「他の部隊は相当稼げたという話を聞きました」


「まぁ今回は忙しくなるってたぶん」


そう言ってリョウはパイの最後の一口を放り込む。


「そういえば、リョウ。今日はパスタが食べたいと言ってませんでしたっけ?」


「あ……………あーいやそれがね……パスタ茹ですぎてね」


「お湯全部干上がらせちゃったんだよこいつ。だからあれほど料理中は集中しろって言ったのに」


「パスタ茹でててお湯を枯らす人なんて聞いたことないぞ……」


驚きを隠せないソウマ。さらに昴がトドメをさす。


「ただでさえ今月は大変なのに………。無駄にした水道代、ガス代、パスタ五人分の代金はバイト代からきっちり請求しますから」


懐から取り出した黒革の手帳に何かを書き込む。

『黒猫』のお金関係は全て昴が管理している。

このブラックノートにはありとあらゆる情報が書かれてあるらしい。黒猫の月々収支やナギサとリョウに払われるバイト料なんかまで・・・。

以前リョウはこの手帳の中身を覗こうとして昴に酷い目にあったことがある。


「え!?」


「当然です」


いつの間にかかけていた眼鏡を左手の指で

クイッ

とする。



「まぁ自業自得だな」


ケラケラ笑いながらナギサはリョウを見た。


「……………ナギサもね」


パタン

静かになった部屋に、手帳を閉じる音が虚しく木霊する・・・・。

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