4匹目:夕闇
「おりゃあ!」
ナギサがまず、7メートルはあろう鬼に向かって高く飛び上がり、右手に槍を振った。
バシュっと音をたてて右腕が肘らしき部分から落とされた。
落ちた右腕は切り口から小さな粒子となって消えていく。
「ナギサばっかりにいい役はやらせないぜ!!」
目にも止まらぬ早さで抜刀をするリョウ。
今度は左腕が切り落とされた。
腕のない、いびつな姿をした真っ黒な鬼が雄叫びをあげる。
「うるさいから…………ちょっと黙っててくれる?」
そういって不機嫌そうに銃口をまっすぐ鬼の額に向ける。引き金を引いた瞬間、鬼の胸に大きな穴がぽっかりと空いた。
ぴくりとも動かなくなった大きな鬼。
「動きを止めました。パーツが再生しちゃうまえにさっさと祓いましょう」
「そうだな」
そう言って懐から一枚の真っ白な紙きれを出すソウマ。
そのまま動かなくなった鬼に近づき、額にその紙を貼った。
「滅せよ、邪なるもの」
そして、剣の先端を紙に突き立てた。
するとその紙が怪しく光り出し、鬼の体のあちこちから黒い煙のようなものが現れて、額の紙きれに引き寄せられるかのように吸い込まれていった。
そしてついに、鬼の体はすべて黒い煙になって
紙はそれをすべて飲み込んだ。
地面に落ちたその紙を拾い上げてみると、白紙のはずだった紙の面にグネグネ曲がった線やら絵やらが描かれていた。
「案外早く終わったなー」
「まあ一匹だけだったしね。そろそろ新月だし」
「さて、こいつに対していったいどれくらいの給金が出るのか…………」
やれやれ……
と紙を再び懐に戻すソウマ。
これからこの紙を役所まで持って行かなければならないのだ。
そしてそれをそこで鑑定してもらい、その祓った鬼の強さに見合った給料が出される
というシステムになっている。
「さて、お上のところに行きますか。昴、一緒に来る?それとも先に店に帰ってる?」
「一緒に行きます!」
きらきらした笑顔でうなづく昴。
「じゃあ俺たち先に帰っとくわ」
「んじゃあ、店の後かたづけよろしくな」
「了解です」
「ええっ!?んじゃぁ俺も二人と一緒に行くよ」
だが、リョウの提案はナギサが服の裾を握るというさりげない妨害と昴の明らかに嫌そうな顔で却下された。
「昴は本当にソウマさん大好きだよな」
『黒猫』へ向かって歩を進めるリョウとナギサ。
「俺あいつがあんなにうれしそうな顔するの見たことないよ?」
「まぁ確かに昴はソウマさんに懐いてるけど、さっきのあれはただ単にお前に来て欲しくなかっただけなんじゃあ……」
「どうしてお前はそんなに軽々とそんなにトゲトゲしい言葉のナイフを俺に向かって投げかけてくるんだよ…………昴かお前は」
「じょーだんだって!(笑)……………そいえば結局晩ご飯ってどーなったんだ?」
リョウも、はっとする。
「そーいや後で決めるって言ってソウマさん決めないまま行っちゃったよ?後かたづけ頼むとは言ってたけど」
「そうか…………そういうことか」
なぜか一人でうんうん頷いているナギサ。
何一人で納得してるんだよ?とリョウが訪ねると、ナギサは言った。
「去り際のソウマさんのセリフ……………アレには『晩ご飯もよろしく』という意味も含まれていたんだよ」
つまり、『店の中の掃除』と『晩ご飯の支度』をひっくるめて『後かたづけ』にしたのだ!!
「つまり俺たちはまんまとソウマさんの策略にハマっちゃったわけだな…」
ハァ(´ヘ`;)とため息を漏らすしかない二人だった。
一方その頃、役所に向かっていたナギサと昴は役所に到着していた。
受付のカウンターに立っていたのはメイド服の女性だった(忠告するが、ここの役所ではこれが制服なのだ。決して彼女の趣味ではないということを分かってあげていただきたい)。
「鬼退治の報酬を貰いにきた」
ソウマはカウンターに先ほど祓ったばかりの鬼が吸い込まれた紙を置いた。
受付嬢はそれを受け取ると、にっこり笑って 「少々お待ち下さい」と言って、奥に消えていった。
「お待たせしました」
そう言って再び姿を現した受付嬢は持っていた大きなファイルから一枚の紙を引き抜いた。
「こちらにサインと、身分証明書をお願いします」
ここで言う身分証明書とは、祓い屋なら誰もが持っている一枚のカードのことである。
祓い屋は政府からこのカードが支給される。このカードは、一枚で財布にもなるという優れものなのだ
祓った鬼に見合った報酬は、このカードにポイントとしてチャージされる。
カード一枚でお買い物ができてしまう、祓い屋専用のお財布である。ポケット探り、小さな黒い手帳を取り出すとそこから顔写真付きカードを引き抜いた。
生年月日、性別、血液型、その人の個人情報がすべて掲載されている。
これが、祓い屋の身分証明書。
所属部隊名は『黒猫』となっていた。
ソウマの手からそれを受け取ると、受付嬢は奥に引っ込んだ。
渡された紙を一通り読み終わると言われたとおりにサインを書く。
再び奥から現れた受付嬢は、ソウマがサインした紙を回収し元のファイルの中に引っ込めた。
証明書をソウマに返し
「今回の鬼は10点となります。またのご活躍を期待しています」
と言ってお辞儀をした。ソウマは役所を後にした。
玄関を出ると、日はすっかり落ちて月が出ていた。
「昴、お待たせ」
役所の玄関の前にあるステップを降りると後部座席に黒い塊を乗せたバイクが、ライトをつけたまんまで駐車してあった。
塊の正体は、黒のマントで体を毛布のようにぐるぐる巻きにした昴だった。
「?…………寝てるのか。やれやれ、こんなとこで寝たら風邪を引くっていつも言ってるのに……」
そう言ってバイクに跨る。
「おい、起きろー?帰るぞー」
昴の頭をポンポン叩くがびくともしない。
(…………まったく、手間のかかる奴だよ)
ソウマは昴が目を覚まさないように、振り落とされないように、少しゆっくりめのスピードで役所を後にした。




