2匹目:夕暮れの出勤
「ありがとうございましたー」
喫茶店『黒猫』の、本日最後の客が店を出ていった。
午後六時、今日はこれで閉店だ。
「あぁぁぁぁー、よく働いた」
大きくのびをして肩を叩くリョウ。
そこにさりげない一言が突き刺さる。
「何かしましたっけ?(ニコッ)」
胸を押さえてしゃがみ込むリョウ。
断っておくが、彼に悪気はこれっぽっちもないのだ。
ただ…………ちょっと言葉を知らない。
優しい言葉を。
「昴の発言はもう暗殺向けだな」
ケラケラ笑ってナギサは昴の頭に手をおいた。
「いっそ祓い屋をやめて暗殺集団にでも転職しようか?笑」
「言葉で人って死ぬんですか?」
言い忘れたが
彼は“天然”記念物だ。
ジリリリリリリン
突然、空気を割って大きな音が響いた。
カウンターの隅に置いてある、アンティークな作りの黒い電話からだった。
一番近くにいたソウマが歩み寄って受話器をとった。
「はい、喫茶『黒猫』です」
店の電話をとったらまず言わなければならない台詞がコレだ。
「はい…………、………………!」
ソウマの声が少しだけ低くなったのを、他の三人は聞き逃さなかった。
そして、それぞれがやっていた作業の手を止め、じっとソウマを見つめた。
「………………はい、分かりました。すぐに向かいます………………では」
ガチャン
受話器を電話に戻した。
しんと静まりかえった店内
先に口を開いたのは電話をとったソウマだった。
「管理局からだ。三丁目エルム街エリアBで鬼が出没。早急に現場に向かい、ターゲットを討伐せよだと」
「バイトが終わったら本業ですか」
やれやれ………とは言っているが、さっきまでとは目の輝きが明らかに違っていた。
それぞれがそれぞれの支度をしだす。
エプロンを脱ぎ、祓い屋の仕事着に着替える。
黒で統一された戦闘服に、いつのまにかみんな着替え終わっていた。
黒いシャツに黒いズボン
銀の装飾のついた膝下までのブーツを履いて、手には黒の手袋。銀の肩当てを両肩につけて、黒いコートを羽織るソウマ。
短パンに銀のブーツ、黒のシャツに手袋。片方だけ肩当てのついたフードつきマントで体をグルリと覆っているのは昴だ。
銀の籠手を着け、銀のブーツを履き、黒の長い襟巻きをたなびかせるナギサ。
リョウはナギサの服装と似ているが、襟巻きの代わりに黒のマントを着けている。
これが四人の仕事着。
そして四人は床下に隠してあった『あるモノ』を手に取った。
ソウマの手にはソウマの身長と対して変わらない巨大なバスターソードが、
昴の両手には銃口が四つある銀色の銃が、
ナギサの手には三本の、角のようにとがった先端がついた槍が、
リョウには真っ黒に鞘に収められた長い刀がそれぞれ握られていた。
これは祓い屋なら誰しもが持っている、祓い屋にとって命より大事な、この世で唯一“鬼を祓うことのできる道具”………………『神器』。
神器を鍛える鍛冶師のことを《神氏》と呼ぶが、神氏はもう数えられる程しかこの世にはいない。
破邪の力を練り込んで造られる『神器』には、普通なら触れることもできない鬼たちを葬り去ることができるのだ。
かつて鬼を退治していた陰陽師や法師たちの子孫が今の神氏にあたる。
それぞれの『神器』を装備して、店を出る。
ソウマが店の扉の窓ガラスに、レースのカーテンで室内が見えないようにし
仕上げに[CLOSE]と刻まれた木板を、取り付けられたフックから吊した。
『黒猫』の前には三台の専用バイクがすでにエンジン音をたてて、出発の時を待ち望んでいた。
ナギサとリョウはそれぞれのバイクに跨っていた。
昴が乗っているバイクは、二人乗りのできる“座って乗るタイプ”だが二人のそれは、“しゃがみ込むような体勢で乗るタイプ”だった。
ソウマは昴を乗せたバイクの前方に乗り込んでエンジンの“かかり”を確かめた。
ナギサの
「じゃあ、本業に行きますか!」を合図に、
三台のバイクは夕暮れの通りを走り抜けていった。




