14匹目:学内にて
転校生が来た。
俺のクラスに、男子生徒が一人。
(黒田諒………)
初めて会った時から……担任が紹介した時から俺は気づいてた。
―――――アイツは他の連中と違う、と。
霊やアヤカシの類の力をはっきりと感じることができる奴は、この学園には俺しかいない。
微弱ながらも、そういう力を持っている奴は多少いるが
その力もたかがしれている。
時々視ることがあっても、祓う力も、ましてや鬼を視たり祓うなんて不可能なレベル…………
俺には分かる。
だって俺はその力を持っているから。
だからこの学園にいる。
だから感じる
アイツ(黒田諒)が持っている強い力を。
一般人であの力量は有り得ない……………。
おそらく、同業者……………。
だとすれば、俺と同じ獲物を狙っていることになる。
いずれ、本来の姿で会うことになるだろう……。
担任
「席は………そうだなぁ………。おっ碧桐の隣が空いてるな。じゃあ今日からあそこがお前の席だ」
担任に示された席に、俺の隣の空いた席に、黒田諒が近づいていく。
丁度いい。授業の暇つぶしになるじゃないか。
高校二年生の授業なんて簡単すぎてつまらなかったからな………。
やはり高3のクラスにしておくべきだったか……………
リョウ
「今日からよろしく」
ニコッと笑って手を伸ばしてきた。
「あ……………あぁ」
とりあえず握手に応じる。
随分と馴れ馴れしい奴だな……。
でもどうやら俺のことは気づいていないらしい。
好都合だ。
担任の話では三人兄弟揃って転校してきたとか。
おそらく他の二人も同じ……………
(この事を〈あの方〉に一応報告しておくか…………)
隣に目をやると、転校生はまるで入りたての小学一年生のように、教室にあるものをキョロキョロと物珍しそうに見渡していた。
(なんなんだ、コイツは………。これだけ近くに同業者がいるのに、少しも力の気配に気づかないのか?それはそれでめんどくさいことにならなくて済むからいいんだが……。所詮対した奴じゃない、ということか)
中指で眼鏡の位置を直す。
(ま、いずれ分かる。この学園に来たということは、近いうちに、コイツらと戦うことになるんだろうからな)
キーンコーンカーンコーン
学園の敷地内にある、礼拝堂のてっぺんにある巨大な金の鐘が、授業終了の合図を知らせる。
午前の授業はすべて終わり、今から一時間お昼休憩となっている。
ナギサは教科書を机の中に入れ、ペンを筆箱に戻して鞄から包みを取り出した。
今朝、ソウマさんが作ってくれた弁当だった。
リョウや昴と食べるために、そそくさと教室を出て行こうと席を立とうとした時、ナギサの前に二人の女子生徒が現れた。
「黒田薙砂さんですよね?」
「私たち、新聞部の者なんですが、新入生や転入生にいろんな話を聞かせてもらったりしてるんですけど、少しお時間いただけますか?」
「は、はぁ………」
突然話しかけられて驚くナギサ。
(でもまぁいいか。何か鬼の話が聞けるかもしれないし)
「えーと、じゃあまずですねぇ……」
女子生徒の一人は制服のポケットからメモ帳とシャーペンを取り出した。
(遅いな……ナギサと昴の奴)
リョウは待ち合わせ場所の屋上の入り口にいた。
(『お昼に昼食がてら、状況を詳しく聞くために屋上で待ち合わせしよう』
って言ったのナギサなのに、言い出しっぺが遅れてどうすんだよ…。仕方ない。迎えに行くか。一人で食べるのも寂しいし)
リョウはとりあえず、高1のクラスにいるはずの昴のところへ行くことにした。
(そういえばアイツ何組だっけ…………)
二階にある教室は全部で七つ。
そのどれかに昴はいるはずなのだが……。
(いちいち探すの、めんどくさいなぁ。……………ん?何だあの人だかりは?)
二階に降りてみると、あるクラスの前にたくさん女子生徒が集っていた。男子もいる。
(そーでもなかった)
リョウは躊躇うことなくそのクラスに進んでいく。
「あ〜ちょっとごめん、通してくださいね〜」
スルスルと人混みを抜け、教室の入り口にたどり着く。
「あ、やっぱりいた。昴ー!」
リョウの声に、教室は静まり返った。
教室の中の窓際の席に人だかりができていた。
その中心に昴がいた。
ここは高1のクラスなので、リョウの身長はこの中ではかなり大きい。
いくら人だらけとはいえ、どこに誰がいるかなんてすぐに分かるのだった。
リョウの声に気づいた昴はすぐに返事をする。
「リョ…………兄さん!」
「あんまり来るのが遅いから迎えにきてやったぞ。弁当食おう」
昴は自分の周りに群がる人々をなんとかかわしてリョウのもとにたどり着いた。
「ナギサんとこに行くぞ」
リョウに手を引かれながら、昴は静かになった教室を後にした。
「今の、黒田君のお兄さん…?」
「やだぁ、超カッコいい!」
「『迎えにきてやったぞ!』なんて………キャーーー!!」
「可愛い弟の手を引いて歩くカッコいい兄…………すばらしいわ……!」
「あんな強そうな兄貴いるのかよ!」
「黒田に手ぇ出したらあの人に目ぇ付けられるぜ……」
「くそー!これじゃあアイツと仲良くなるのも難しいじゃないか!」
「人気者だなぁ、昴は」
ニヤニヤしながらリョウは昴の肩をつつく。
「何言ってるんですか。僕は人だかりは好きじゃありません。勝手に来ちゃったんです」
若干機嫌が悪そうな昴は片手で、さっきの人だかりで乱れた髪を直す。
あちこちに髪が跳ねている。
「なんであんなに集まってきたんだ?」
「知りませんよ……。休み時間になったとたんに皆来ていろいろ質問をしてくるんです。なんで引っ越してきたのとか、家は何してるのとか、お兄さんはどんな人とか」
「答えにくいことばっかり……。変なこと言わなかっただろうな!?」
「言うわけないじゃないですか。リョウじゃないんですから……。それよりリョウの方こそどうだったんですか?」
「いや、それが…………」
時間が少しさかのぼる。
今からおよそ三時間くらい前……………
一限目が終わったくらいの時間帯だった。
何を言っているか、やっているかも分からない数学が終わり、ハァ一息付いていた。
(選択ミスだ。…………高2の数学ってあんなに難しかったか……?)
開かれたノートには、所々にシャーペンがこすれた時についた薄い線が点々とついているだけだった。
そんな時、不意にリョウは声をかけられた。
「なぁ、お前何かスポーツをやっていたか?」
声の聞こえる方に振り向くと、生徒が十人くらい、リョウの周りを囲っていた。
「いや……特にはやってないけど………。苦手なスポーツはないかな」
そういった瞬間、周りにいた生徒たちは一斉に口を開いた。
「だったらサッカーやらないか!?」
「おいテメェ!こいつは俺が先に見つけた人材だぞ!?」
「サッカーよりバスケた゛!」
「陸上部は今なら無料お試し期間中だぞ!」
「しょっ少林寺に入りませんか!?」
「馬鹿を言え!こいつの手をみてみろ!!これは卓球の手だ!」
「水泳部に入ればこの俺のように見事な胸筋が…………」
「お前なら我がアメフト部で即レギュラーだ!」
「バレーは楽しいぞぉ〜!」
「相撲部なんてのもあるぞ!」
「え……………いや………………え!?」
どんどん壁際に追い込まれていくリョウ。
「さぁ!」
「あなたはどっち!?」
「えと………俺は………………わ、分かりませーん!!」
リョウは人だかりを突っ切って逃げ出した。
「あっ逃げたぞ!」
「皆の者、逃がすな!追えー!」
「うむ………やはりあの足は長距離向けだ!」
「それが休憩時間ごとに起こるんだよ……。おかげで教室じゃ落ち着いて休めやしない………」
「リョウは頭は悪いけど、運動に関しては四人のなかでずば抜けてますからね……」
「そういうことは口に出さずに心に留めといてくれよ………」
そうこう言ってる間に、四階に着いた。
「ナギサはどこにいるんでしょうか?」
「早くしないと休憩時間なくなっちゃうな………。あ、いた!」
あるクラスから、ナギサと二人の女子がこちらに向かってきた。
「遅いです、兄さん」
「そーだよ!」
「ごめんごめん。ちょっとこの二人に話をしてて」
「こんにちわ!新聞部です!」
「もしかして黒田君の兄弟の人ですか!?」
「もしよかったらいろいろと聞きたいことがあるんですけど!」
ジリジリと言い寄ってくる二人に、たじろぐリョウと昴。
その時
「あっいたぞ!」
やたらガタいのいい男子生徒4、5人が廊下の先で、こちらを指さしていた。
「こんな所にいたのか、黒田諒!」
「さぁ、我がサッカー部に入りたまえ!」
どうやらサッカー部らしい。
「げぇっ!逃げるぞ!!」
「えっ!?」
「ち、ちょっと!」
リョウはナギサと昴の腕を掴んで走り出した。
「待って!私たちのインタビューを!」
新聞部の二人はリョウの後を追いかけようと走り出した。
ちなみに、この二人の女子生徒は新聞部と陸上部を掛け持ちしていた。
しかもインターハイに出場経験もある。
『新聞部の赤兎馬』の異名を持つ彼女たちから逃げられる生徒は今までいなかった。
だが、曲がり角を曲がったところで、彼女たちも、後から追いついてきたサッカー部員たちも
三人を見失ってしまった。
「嘘………私たちが、追いつけないなんて………!」
「ただ者じゃないわ、あの転校生……!」
この事が原因で、リョウたちの名前が学園中に知れ渡るということを、この時の三人はまだ知らなかった…………。
センターとか入試とかで間が空いちゃいました。すみません




