11匹目:猫又
いつもより長めに書きました。
つぐみから一通り話を聞いたソウマ達四人は、話を聞いた限り見た限りで分かったことをつぐみに話した。
ソウマ
「見た限り、つぐみさんの周りに“今は”何も居ません。どこかに隠れているんでしょうね。俺たちに見つからないように」
つぐみ
「じゃあやっぱり私は何かに取り憑かれているんですか?」
真っ青な顔でソウマを見る。
ソウマ
「………どちらかといえば、そうですね。ただ、まだ妖力が足りないんでしょう。とりあえずあなたの躰を器にして力を蓄えてるていった感じですね。猫が威嚇をしてくると言いましたね?たぶんそれはつぐみさん自身に、ではなく“つぐみさんの中にいる”モノに向けての威嚇でしょう。……………猫は普通の人には見えないものまで見えてしまうと昔から言います」
ソウマ達は、つぐみが店に来た時から気づいていた。
つぐみが何かに取り憑かれようとしているのを。
つぐみの周りに纏う禍々しいものを感じていた。
つぐみ
「このままだと私………どうなるんですか……?」恐る恐る尋ねるつぐみ。
ソウマ
「このままほっておけば、それは妖力をどんどん増してあなたを完全に乗っ取るでしょう。その後は……………………聞かない方がいいですよ」
つぐみ
「そ………んな………………っ!」
あまりの恐怖に、つぐみは震えが止まらなかった。
自分の中に、何か違うものがいる。
しかもそれが自分を乗っ取ろうとしている。
頭の中が真っ白になるつぐみ。
つぐみ
「何とか……………ならないんですか………?私………」
ソウマ
「何とかなります」
つぐみ
「そんな………………。……………えっ?」
あまりにもあっさりと答えたソウマの言葉に、思わずつぐみは聞き返した。
ソウマ
「何とかなりますよ。つぐみさん。あなたのその悩み、解決できます」
つぐみ
「ほ、本当ですか!?」
ナギサ
「なんたってウチは『黒猫』ですから」
ナギサはにっこりと笑った。
つぐみは、取り出したハンカチで涙を拭いて、
目の前にいる四人に深々と頭を下げた。
つぐみ
「よろしくお願いします」
夜中、つぐみと『黒猫』の四人は近所の広い公園に来ていた。
『ヤマト第二公園』と書かれた看板が置いてある。
本来の仕事着に着替えた『黒猫』の四人。夜の黒と服の黒が同化して、明かりがなかったら輪郭すらまったく分からないだろう。
ナギサ達が、公園の真ん中につぐみを立たせて、その周りを囲むように五つの丸い石を
3メートル位の間隔を開けて置いていく。
つぐみ
「あの………これから何が起こるんですか?」
ソウマ
「これから、つぐみさんの中にいる奴を外に追い出します」
ソウマは地面に手をかざした。
ソウマ
「正体を現してくれないとこちらも手の打ちようがありません。かといって、待っていても出てきませんからね。無理矢理、外に弾き出します。でもこれをすると、つぐみさん自身にも少なからず負担がかかります。耐えられますか?」
ソウマの瞳がつぐみを捕らえる。
つぐみは、ゆっくりと口を開いた。
つぐみ
「……………大丈夫です。やってください」
ソウマ
「分かりました」
そう言って、にこりとソウマは微笑んだ。
ソウマ
「『妖更戒候策尋厭怨嶺但…………』」
口元に右の人差し指と中指を当てて、何か呪文のようなものを唱えるソウマ。
まるで経を唱える坊主のように、単調に口ずさむ。
皆黙ってその様子を見ている。
ヒュォォォォ…………
少し強い風が吹き出した。それは、ソウマが呪文を唱えるごとに強くなっていく……。
ソウマ
「………『創価紋波、印結』!!」
ソウマがそう唱えると、円形に並べられた五つの石の一つ一つが光り出した。
石は光を発し続け、隣の石へと光の線が浮かび上がる。
やがてつぐみの周りに大きなの正五角形ができあがった。
つぐみ
「きゃあっ、何ですかこれ!?」
昴
「結界です。中にいる奴が、逃げ出さないようにするための。術で縛るための」
ソウマ
「『鬼天遷占解昂噂楽暁血』…」
ソウマは絶えず詠唱を続ける。
すると、つぐみに異変が起こった。
つぐみ
「っ!(なんだか……胸が……熱い……!………苦しい…………!!!)」
つぐみは胸を押さえて苦しみだした。
つぐみ
「うっ……………っ!」
ソウマ
「『喫風孫々萬辣』……………『解』!!」
そう言うやいなや、ソウマは口元に当てていた指を地面にかざした。
次の瞬間、正五角形の一角一角から光が伸びた。
伸びた光の線はやがて五角の星を地面に浮かび上がらせる。
ナギサ
「そろそろだな」
ソウマ
「『現』!」
つぐみ
「きゃああああああッ!!」
つぐみの悲鳴とともに、体から黒い霧のようなものが出てきた。
昴
「出てきた……」
つぐみの頭上に、大きな黒雲が浮かぶ。
徐々にそれが形を成していく。
リョウが、すばやくつぐみの許に駆け寄り、結界の外に連れ出した。
リョウ
「大丈夫ですか?」
リョウはグッタリとしたつぐみを座らせた。
つぐみ
「はい………大丈夫です……」
リョウ
「あそこにいるモノが視えますか?」
先ほどまでつぐみが立っていた場所を指さす。
つぐみは目を凝らした。
つぐみ
「何か…………ボヤーっとしたものが視えます………。うっすらとですけど……」
つぐみにはそれ位しか分からなかった。
だが、四人にははっきりと視えていた。
――――結界の中で、動けなくなった大きな化け猫が――――
尻尾が二股に分かれていて、目が三つある。真っ白い毛並みの大きな猫。
ナギサ
「猫又が犯人だったか」
つぐみ
「なんですか、ネコマタって………?」
昴
「でっかい化け猫です。死んだ動物たちの怨みなんかの集合体みたいなものでしょうか。でもよかった。まだ鬼になってなくて」
ナギサ
「でもこうして具現化できるまでに成長してたんだな。ちょっと危なかったかもね」
言ってることがよくわからないつぐみに、リョウが簡単に解説した。
リョウ
「成仏させられるってことです。鬼になったら、できなくなっちゃいますから、成仏」
ソウマ
「早いとこコイツを往かせてやってくれ」
ソウマは地面に手をかざしたまま、猫又の動き封じている結界を結んだ状態で動けなかった。
リョウが代表して、猫又に歩み寄る。
リョウは腰に差していた長い日本刀のような『神器』を鞘から抜いた。
真っ黒い鞘から抜かれた刃は、見事に磨き上げられた鏡のようだ。
両手で柄を持ち、峰を猫又に向ける。
人差し指と中指で、刃の表面をなぞる。
リョウ
「汝、積もり積もる怨みを忘れ、安らかに眠りたまえ」
ヒュオン
そう言って刀を横に振った。
次の瞬間、猫又の体が淡い光に包まれたかと思うと、
パアッと光の粒子になって宙を彷徨い、消えていった。
先ほどまでいた大きな化け猫は、リョウ達にも見えなくなってしまった。
ソウマが術を解いたらしく、石は全て光を失ってビクともしなくなった。
ナギサ
「?何だ、あれ……」
ナギサがさっきまで猫又がいた場所に近づき、しゃがみこんで何かを拾い上げた。
元々動物だったモノの骨格だった。
大きさからだと子猫だろう……。
ナギサ
「…………こんなに小さいのに………。早く死んで、猫又なんかになっちゃって………………。可哀想に……」
ナギサはポケットからハンカチを出して、骨を包んだ。
そしてそれをつぐみに渡した。
ナギサ
「この子がちゃんと成仏できるように、供養してやってください」
つぐみ
「はい………………」
つぐみは消えてしまった命の残骸をやさしく抱き締めた。




