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【外伝】ティアンナ戦記〜ロード・トゥ・ザ・ウエディングベル〜  作者: wag


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2-4

「というか、まず聞きますが、

 貴女がウィリアム殿の恋人ですか?」


ティアンナとスポ根していたアレハンドロは急に我に返り聞く。


「そ…そんな、恋人、というわけでは…

 あの、デートは一度…」


「一度?!デートだけ?!

 ちょっと待ってください、情報違いだったかも」


ナチュラルに大変失礼なことを言うアレハンドロに、カイが笑って訂正を入れる。


「あはは、大丈夫。

 彼女がウィリアムの長年の想い人で間違いないよ」


「し、しかし、貴女はどうなのです?

 ウィリアム殿を愛しておられるのか」


「あ、愛…!?

 ちょっと待ってくださいまし、

 まだそこまでは・・・いえ、あの、その…!」


顔を赤くし、それを隠すようにドレスの袖を口元に添える嫋やかな仕草に、アレハンドロは眉を下げ詫びた。


「すみません、まだ引き返せます。 

 もし貴女が乗り気でないなら、僕は引きます」


「乗り気ですわ」


急にドスの効いた低音を繰り出すティアンナにヒッと喉を引きつらせるアレハンドロ。


「わたくしはティアンナ・オーブリー。

 わたくしを放っておいて他の女と踊ろうなんて!

 しかも婿入りですって?!

 わたくしに・・・一言もなしに・・・!

 

 ・・・目に物見せてくれますわぁぁ!!」


めざせ優勝!

と再び燃え上がり始めたスポ根コンビを横目に、



「あぁ・・・お兄ちゃんもう手に負えないよ・・・」


呆れかえるカイを、ケイナがたしなめる。


「まぁそう言わずに。

 ティアンナさん、

 ああ見えて相当無理していると思うから」


ケイナはティアンナの姿を見つめる。

ちょっと分かるのだ。

ティアンナが抱えているであろう寄る辺のない不安が。


「つらいよね、何も言ってくれないって」


「ケイナちゃん・・・」


「ま、発散するところができて何より」


アミーも心情を理解するように頷き、カイに向き合った。


「ところでカイ様、

 ティアンナ嬢はアレハンドロと踊るようですし、

 わたくしのパートナー貴方でいい?」


「あぁ、それは構わないよ。

 いいのかい?レイフォード君じゃなくて」


「一度手放した相手の手を取るなんて、

 私の信条に反しますわ。

 それにレイフォード様の得意は『流麗』でしょう?

 私今回、『情熱』で出ることにしますの」


「おお、いいねえ。

 アミー嬢なら『愛嬌の踊り』が似合いそうだ」


「いいですわね。

 よろしく、カイ様」


「ああ、よろしく」



手を握り合うアミー・カイ組。


そしてそれを眺めていたケイナ・レイフォード組は。


「良かったわね。

 私たちは大人しくお仕事しましょ」


「僕は君と話し合う必要がある・・・!」


一度売られた恨みはらさでおくべきか、と凄むのであった。




ーーーーー


そして出来た二組のペアは早速顔合わせ程度の練習を開始する。

運動着に着替えた4人は準備体操をしつつ雑談を始めた。


ちなみにケイナとレイフォードは一旦王宮事務局に向かうらしく、退席している。


「ところで、ジャンルはどうするんですの?

 皇女と一緒なジャンルじゃないと無意味ですわよ」


各ジャンルごとに女性・男性それぞれの優勝者が決まるため、皇女と張り合おうというのであれば、ジャンルを被せる必要がある。エントリージャンル数は自由なため、最悪全ジャンルエントリーすれば済む話ではあるが、恐らく敵はそのように力量を分散して勝てる相手ではない。


「得意ジャンルは『闘牛』と『跳躍』…

 でしたわよね?カイ様」


「ああ、そう聞いている。

 アレハンドロ殿、どうか」


仁王立ちした状態でしなやかな体躯を大きく反らし、上半身を伸ばしているのはアレハンドロだ。長身がボールルームの照明に映え、何とも美しい肉体である。


「ええ、その通りです」


「『闘牛』は男性の踊りではありませんこと?

 女性はひらめくケープのように身を任せるのだと」


ティアンナも立った状態で大きく身を回し、己の柔軟さと体幹を確かめている。


アミーは足首を回しながら、


「じゃ、『跳躍』かしら」


「あれは女性も男性並みの動きをするからね。

 手足の長い皇女はよく映えるだろう」


カイも賛同する。しかしアレハンドロは首を横に振った。


「『跳躍』もかなりの使い手ですが。

 メアリーローズ皇女が最も得意とするのは、

 『闘牛』です」


「へえ、そうなの」


「まぁ、俺と組んでいた頃は、ですが。

 彼女の演じるケープの躍動感は一級品です。

 本当に牛がそこにいるように、

 しなやかな身体の動きをするのですよ」


「じゃあ、『闘牛』だけに絞る?」


「いえ、保険で『跳躍』もエントリーしておいたほうがいい。

 というかティアンナ嬢、『情熱』カテゴリは踊れますか?」


「正直あまり経験がないわ」


準備を終えたアレハンドロはティアンナに近づき、恭しく頭を下げ手を差し伸べた。


「なるほど、承知しました。

 それでは軽くお手合わせから願います。

 あなた様の国でしたら…

 『流麗』カテゴリから『輪の踊り』。

 いかがでしょうか」


「いいわ、それなら踊り慣れてる」


差し出された手を躊躇うことなく取ったティアンナは、彼に導かれて滑らかにホールの中央に移動する。


「へえ、意外に絵になってるじゃないか」


ひゅう、とカイが口笛を吹く。


長身でエキゾチックな美しさのアレハンドロと、スレンダーで抜けるように色の白いティアンナ。


ホールドしてみると身長も意外とマッチし、情熱的な男性と貞淑な女性の組み合わせはどこか許されない恋の香りがしそうで扇情的でもある。


ゆったりとワルツのリズムが流れると、二人はホール中の床を確かめるように大きく動いた。

物憂げな深窓の令嬢に迫る情熱的な異国の男。

そんなストーリーを思わせる、奥ゆかしさと大胆さの駆け引き。

最後に取ったオーバースウェイのポーズで彼に身を任せる令嬢。今後のふたりの行く末を暗示するかのように見事だった。


「…えーと。

 お前達、『流麗』カテゴリで出たほうがいいんじゃないか」


チョウさん(姉)が己の主の素晴らしさにむせび泣く中、冷静なカイがそう呟いた。


「確かに、初回でこの息の合い方はそうあるもんじゃありませんわ」


同じく感嘆するアミーに肩を竦め、アレハンドロはおどけて言う。


「おや、僕も運命のパートナーに出会ったということかな」


「お止めなさいな、思ってもいないことを言うのは」


「半分は本気なのになぁ」


とティアンナと軽い応酬の中、ひとつの疑問が沸く。


「そういえば、パートナーのウィリアム殿の得意ジャンルは?

 ウィリアム殿に合わせて『流麗』で来ることはないか?」


「お兄様は…、あ、わたくしアミー・マクライネン、

 ウィリアムの実妹なんですけれど。

 お兄様は実はああ見えて全ジャンルいける化け物なんですわ。

 ほんと、無駄にハイスペックなんだから」


「ああ。

 特に我が国で最も一般的な『輪の踊り』の評価は高いし、

 あとあいつ軍人経験もあることもあって、

 国内では『闘牛』も敵ナシの腕前だ」


「じゃあやっぱり『闘牛』で来るんだろうか。

 というかアミー嬢、実妹なら直接聞けたりしませんか?」


「そうでしたわね。

 家に帰ってくるかはともかく、

 書簡で聞くことはできるでしょうね」


「じゃあ頼まれてくださいますか」


「ガッテン承知ですわ」



その後それぞれ軽く手合わせをし、各ジャンルのおさらいをしたところで、その日の練習は解散となった。



ーーーーーーーーーーー


「どうしたの、すごい気合いの入り方」


一曲踊り終わり、額の汗を拭うウィリアムにメアリーローズが朗らかに笑いかける。彼女も大きなガラスのグラスで供された。ふんだんに氷を入れた冷たいレモン水を飲み干し、豪快にその長い髪をかき上げた。


「まさに鬼気迫る、って感じだったわ。

 素晴らしい」


「お褒めにあずかり光栄です」


自国に入って拠点に荷を落ち着けるなり、メアリーローズはすぐにダンスの練習を所望した。ウィリアムは一度自分も実家に帰りたいと申し出たが、「あなたは大会期間中私の傍から離れることを許しません」と却下されてしまった。


ぎり、と奥歯を噛んで怒りを堪え、その鬱憤をダンスにぶつけ発散する。



ガリン、と鋭い音が鳴った。


音の出所はメアリーローズの口元で、彼女が氷を奥歯でかみ砕いた音だった。


「見て、この贅沢な氷の量」


「ええ」


「…劇団にいるときには、どんな炎天下で踊っても、

 氷なんて食べたことはなかったわ」


「…そうですか」


「その代わり、

 ステージが終わったらみんなで川に走るの。

 衣装のまま飛び込むこともあったわ。

 怒られたこともあったけど…楽しかった」


カラリカラリと、氷のぶつかる涼やかな音と光の反射を楽しむようにグラスを掲げ回し、メアリーローズは言った。


「ああ、この氷水を頭から被りたい。

 劇団の子たちもどんなに喜ぶかしら」


「駄目ですよ、衣装が濡れます」


横から口を挟んだのはメアリーローズの侍女だ。


「分かってるわよ、やらないわ。

 今の私は食べたいだけ氷を食べられるんだから」


「それに、あなた様の劇団はもう、

 炎天下で踊る必要はございません」


平坦な口調の侍女はそう続けた。


「それもそうね。

 私の劇団が皇室お抱えなんて…信じられる?」


さあ、もう一度踊りましょ、


と差し伸べられる皇女のしなやかな手を、ウィリアムは下からすくい上げた。






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