第41話 望まぬ戦いの始まり
毅然と言い放ったものの、周囲の空気は良いなんてものじゃなく、特にシーラさんから来る冷ややかな空気はなんとも耐えがたいものだった。
「ちょっと待ったとはどういうことだ? それは何か? 我とユノの間に君が入るということか、少年?」
疑念の色が怒気の色に変わっていく。
ヤバい、超怖い。
けどここで退くわけにはいかない。
ユノの気持ち。
シーラさんの気持ち。
そして、俺の気持ち。
どれがいいとか悪いとかじゃなく。
そのどれをないがしろにしていいとかでもなく。
まだ出会ったばかりの俺たちは、答えを出すのは早すぎる気がしているから。
「ユノは今、色々あって疲れてます。今じゃなく、もう少し時間が必要なんじゃないかと」
「知っている」
「え?」
「だからこそ、ユノには我が必要だ。我ならばユノの心を癒せる。だからこの婚儀はユノのためでもあるのだ」
うわぉ。すごい自信。
ある意味羨ましい限りだ。
――そこまで自分を正当化できるのは。
けど、やっぱりそれはあまりいただけない。
俺の、何よりユノの気持ちを無視して我田引水もいいところ。
だからこそ、当事者の意見こそ聞くべきだろうに。
「ユノ、君はどうしたい?」
俺はユノに水を向けた。
丸投げのようだけど、結局はユノの気持ち次第。
それこそが大事なのだと思うから。
だからユノに向かって、その意志を促すように聞く。
「あの……えっと、その。色々言ってくれて、嬉しいんですけど、その……」
ユノは大いに迷った挙句、
「も、もう少し考えさせてください」
地面につきそうなほど頭を下げるユノ。
きっぱりと真正面からシーラさんの申し出を断ったのは、なかなかのものだ。
だからその覚悟を受けてか、シーラさんはふぅと大きく息を吐くと、
「そうか。分かった」
よかった。
安堵が体を満たす。
最悪の展開を考えていたけど、ここでシーラさんが退いてくれれば無駄な争いをしないで済む。
ユノもなんとか元気になって、シーラさんも落ち着いて、これにて一件落着――
「ならばもはや力づくで行くしかあるまい」
おいおいおいおい!
今、終わった感出してたのに、なんで燃料を投下するかな!
「いや、少年。もう御託はいい。実はな。少し嬉しいのだよ」
「嬉しい?」
「ああ。君が我の前に立ちはだかった。それはすなわち、我との戦いを望むということに他ならない」
「……なんで? いや、そんなわけじゃないんですけど……」
「よい、少年。我がここに来た理由は2つある。1つはユノ。彼女を伴侶に迎えること。そしてもう1つが――」
あ、なんか嫌な予感。
俺とシーラさんの対決が決定的になりそうな、そんな嫌な。
「少年、そしてあの女性。君らと手合わせすることなのだよ」
ほらね、やっぱり!
てかあの女性って?
「クワイデント・ウルフを退けたあの女性。実に面白いコンビだった」
あぁ、ぴょん吉か。
あのオオカミと戦ったところを見ていてくれたのか。
その後、初めてシーラさんと会ったんだ。
見てたなら助けてくれてもよかったんじゃないかって気もするけど。
「この世界は、退屈だった。誰もかれもが、魔法とかいう得体のしれない力に心酔し、それをもって強者と弱者を分けている。我は不思議でたまらないのだ。なぜ魔法などがこうも隆盛しているのか。あんなもの、発動する前に近づいて潰してしまえば終わりではないか」
いや、それができるのはあなただけだと思います。
「西の魔王とやらも弱かった。だから東にいる魔王と、それと戦っている勇士ならば我を満足させてくれる。そう思っての旅であったが、それがこうも早々に見つけられたとは」
「つまり、それが……俺たち?」
「その通りだ。では、し合おうじゃないか」
「し、し合おうって……?」
「我と君。どちらが強いかの勝負だ。我が勝てばユノはもらう。君が勝てば好きにするさ」
いやいやいやいや。
レベル差的に勝てるわけねーって!
てか俺をどれだけ過大評価しているのか。
その評価は嬉しいけど、この展開は全然嬉しくない。
だがシーラさんは高揚しているのか、こちらに構った様子もなく、
「武器は使わないでおいてやる。さぁ、し合おうか」
そう言って左半身に構える。
あー、もう! 喧嘩なんてしたことないってのに!
やるしかないのか!
「イトナ、ユノを頼む!」
「大丈夫なの?」
「やるしかない、いや、為せば成る! ドレッドノート!」
メモリバインバインからのドレッドノート。
これまでとっておいた甲斐があった。
さらにそこへ、
「あーくそ! モイラ様に叱られた。てめぇのせいだぞ!」
「ぴょん吉!」
ナイスタイミングで来てくれた。
モイラが遠隔で叱ってくれたおかげだ。
「手伝ってくれ、アラーギーだ!」
「は? 何言って……おい!」
俺の言葉にぴょん吉が変身し、それを合図に望まぬ戦いが始まった。




