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第40話 シーラ再来

 陽が傾き始めた時間。


 周囲に人影のない草原の中、シーラさんが堂々とした姿で仁王立ちしている。


 尊大なほどに見えるその姿。

 思わず見とれてしまうほどの雄姿。


 けどそれが逆に不気味な威圧感として、俺の心に影を落とす。


 さーて、めんどくさくなってまいりました!


「やぁ少年。着替えてしまったんだね。残念だ。先ほどの姿もキュートだったのに」


「はぁ……」


「だがちゃんと役目は果たしてくれたようだ。ユノくん。彼女の奪還、そして出迎える準備というものを」


「あー、そのことなんですけど」


 とりあえず誤解を解く、というか落ち着かせなきゃ。


「うむ。では式の日取りはいつにしようか。こうなったらなるべく早い方がいい。なに、心配はいらない。我に任せればすべて済む」


 聞いてないし。


「あのー、リオさん。この人は――」


 ユノが困惑した様子で聞いてくる。


「あぁ突然ですまない。我はシーラ。西の魔王だ。君を花嫁として迎えに来た」


 俺が返事をするより早くシーラさんがそう答えた。


「え……ま、魔王? で、え? は、花……嫁?」


 まぁそうなるよなぁ。

 俺もまだ意味が分かってないもん。


「えっと。その、聞いても、いいですか?」


 ユノが果敢に質問に入る。


「うむ。将来の花嫁としてその心意気や、よし。なんでも答えよう!」


「はぁ……ありがとう、ございます」


 まだ戸惑った様子のユノ。

 頑張れ!


「えっと、シーラ、さん?」


「シーラと呼んでくれ。花嫁として遠慮はいらない」


「えと、その……まださんづけ、で」


「ふむ。まぁいい。それはおいおい取れよう」


 ユノが俺に視線を移す。

 俺は力強くうなずき、ユノは小さく小刻みに首を縦に振りながらも、再びシーラさんに視線を戻した。


「えと、シーラさんは、魔王……さん、なんですか?」


「うむ。まぁ我がそう言いだしたわけではないがな。旅の途中で西の魔王とやらが領民を虐げているという話を聞いてな。領民を虐げるなど王として言語道断。魔王とやらを叩きのめしたら、どうも我もそう呼ばれるようになった。安心してくれたまえ。西にはもう危険はない。領民もよく収まっているし、モンスターも我が配下だ」


 ……ガチもんの魔王じゃんか!


 なに、軽々しく魔王を叩きのめしたとか。

 チートもここまで行けばとんでもだぞ。


「はぁ……えと、それでは花嫁、というのは何でしょうか?」


 ユノはあまり深く突っ込まないことに決めたようだ。

 多分それが正解。


「うむ、我の嫁だ」


「えっと……その、シーラさんは、女性、ですよね?」


 おお、切り込んだ!


「うむ、それがどうした?」


 おお、普通に返された……。


「性別など、この世にはどうでもいいことだ。我は美しい女性が好きだ。可愛らしい少女が好みだ。だから嫁として迎える。至極当然のことではないか?」


「ふぇ……あの……えっと、か、か、か、可愛らしい、ですか!?」


 あまり言われ慣れていないのだろう。

 ユノが顔を真っ赤にしてうろたえて可愛かった。


 今度、俺も言ってみようかな。


 勇気があれば。


 しかし、これは参ったぞ。

 至極真っ当ではないことを、至極当然と語るシーラさん。

 ある意味、すごいな。


 いや、別に俺はその、反対ではないよ?

 可愛い女の子がイチャイチャするのは嫌いじゃないし?


 けど、なぁ……。


 まがりなりにも告白してしまった相手と、まがりなりにもドキッとしてしまった相手。

 その2人が結ばれるというのは、とても複雑。


 前にも思ったことだけど、恋人でありシーラさんの妻って構図はなんともヤバい。


「ねぇ、リオ。あのシーラ、さん? 本気?」


 イトナが後ろからそっと耳打ちしてくる。


「あぁ、本気、だろうなぁ」


「ふーん……色んな人がいるのね」


 部外者らしく、それだけで済ませるお前はいいよなぁ。

 もちろん口には出さないけど。


「他に質問はないか、ユノ?」


 シーラさんとユノの方は、


「えーと、えーと……」


「うむ、ではさっそく式の日取りを決めよう。君のご両親……はいないんだったな。ならばちょうどいい。これを期に我が城に住むが良い。なに、暮らし向きは心配しなくていい」


 ユノが困惑しているところに、強引に迫るシーラさん。

 ここらが潮時か。


「異議あり!」


 俺は暴走気味のシーラさんに対し、そう声を放った。


「? なんだ、少年」


 不審な視線がこちらに向く。


 この状況。

 このシチュエーション。


 なら、俺が言うべき言葉は――


「その結婚、ちょっと待った!」

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