第6話 ガチャ
アプリを起動する。
すると画面が真っ暗になり、一瞬バグか、と思った。
そして次に表示されたのは、これまた簡素な画面だ。
黒背景をメインにした画面に、学生服を着た男の3Dモデルの立ち絵と、その横には枠で囲われた文字と数字の並びがある。
この文字と数字の並び、見たことがある。
ゲームにある、ステータスウインドウだ。
ただ内容はひどいもの。
「うわ、レベル1って。てか弱ぇ。ステータス全部1桁とか。レベル1だからしょうがないけど弱ぇ。てかHPは分かるけどSPってのはスキルポイントか? あと攻撃力とか防御力、素早さもひどいもんだ」
これが陽明とかだったら、レベル1でもオール2桁は当たり前だろう。
本当に何もしてこなかった自分が恨めしい。
それよりなにより、この3Dモデル。
もしかして、俺?
似てない。
というか、やけにカクカクしている。
一昔前の3Dポリゴンみたいだ。
もっと予算かけろよ。
なんてツッコミを入れると、画面に急に派手なエフェクトと文字列が飛び出してきた。
『ログインボーナスゲット! スキルガチャチケット! 初回はなんとSR以上確定!』
ソシャゲかよ。
けどガチャっていいよな。
なんか、こう、ドキドキ感がさ。
というわけでせっかくもらったなら、ガチャを引いてみようという気になった。
それというのも、スキルガチャという単語。
これってもしかして、俺が異能を使えるってことじゃね?
それはそれでちょっとドキドキする。
異世界転生なのか、あるいは異世界転移なのか知らないけど、なんの取り柄も生きがいもなかった俺が、人にはないものをできるようになるのは、やはり嬉しいもので。
「えっと、チケットを受け取って、ガチャはここか。うわぁ、まじソシャゲのガチャ画面……ま、いっか。じゃあはい、チケットで回しますっと!」
初めてのものだから、確定演出も分からないし、とりあえずドキドキしながらガチャの演出を楽しむしかない。
「よーし、どうだ。お、回った。ぎゅるぎゅるー……あれ、色変わった!? 虹!? 虹確!? 確変来た!? 来い、来い、来い、来たーーー! SSRゲットー!」
などともう現状を忘れてガチャを全力で楽しむ男、俺。悪いかよ。
けどやっぱりこういうのは脳汁が出て止まらないわけで。
一時期、陽明と一緒に超嵌ってた頃、美月に全力で説教されてデータを消されて以来やってないけど、やっぱいいな。
「っと、何を手に入れたんだ?」
SSRという言葉に踊らされて何が手に入ったか分からないかった。
「えっとSSRスキル『ドレッドノート』? それだけじゃ分からないな」
そう思って画面をタップしたが、反応しない。
よく見れば左上のバックキーっぽいのを指アイコンが示している。
なるほど、チュートリアルか。
けど手に入れたものくらい見せてくれよ。ここ、ユーザビリティ悪いぞ。
『手に入れたスキルをセットしてみよう!』
ホーム画面に戻ると、そんなダイアログが表示された。
「えっと、俺のモデルをタップして、か? これもユーザビリティ悪くね? 装備のメニューアイコンくらい作れよ。あ、装備画面になった。スキルを装備と。えっと……スキルには容量があるぞ、と。容量に収めるようにセットしよう、か」
ふん、まぁありきたりというか。よくあるパターン。
コスト制だ。
とはいえそれが効果的だからこそ、ありきたりなわけで。
「えっと、容量は? 1ギガ? 対するコストは50メガバイト? 超余裕じゃん。はい、セットセット……あれ、できなくね? だってこれをこうして? は? なんで? え、だって1ギガだろ、1…………M?」
Mという文字に、目が点になった。
Mってことは、ギガじゃなくて、もしかしてその1024倍してようやくギガになるM? メガ?
え? 馬鹿なの?
きょうび1メガなんて、画像1枚にもならないだろ。
てか1メガしかないのに、セットできないスキルを当てさせるんじゃない!
こんなの、課金ゲーだったら返金問題だぞ! 消費者庁コラボだぞ! 金返せ! 金かけてないけど!
といっても、そもそもこのアプリが何なのか分からないし、別に課金してないし、てか結局ここどこなのに戻るし、で諦めた。
結局ガチャを回して興奮して終わっただけの無駄な時間。
「くそ、なんかつながりあるんじゃないのかよ。地図とか出口とか、そういうのをさ!」
改めてアプリを色々操作しようとしたその時、
ピロリン
プッシュ通知、じゃない。今開いてるこのアプリからだ。
演出が画面に入り、エフェクトの上に乗った文字はこう書いてあった。
『スタートダッシュログインボーナス! 次元の扉を検知しました。今ここに“星間の扉”が開かれる……』
いや、意味が分からない。
そんなちょっと厨二ちっくに言われても。
てか何も起きないじゃないか。
そう思っていると、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
不意に鳴り響く、女の子の悲鳴。
左右を見る。違う。なら――
「上!?」
見上げる。
そこには――黒があった。