第5話 死の世界
はじめは青だった。
そしてすぐに茶色系統の色と混色し、茶色一色となる。
「いだっ!」
全身を駆け巡る衝撃。
痛みと重力の方向から、落下して体の前面から着地したのだと知る。
幸いそこまでの高さじゃなかったらしく、痛みはそこまででもない。
辛いのは痛みよりも――
「ぺっ、ぺっ……なんだよ、これ」
口に入った砂を吐き出し、顔面をぬぐう。
あーくそ、汚い。
……砂?
そこで気づく。
元居た場所。そこの地面はアスファルトだ。
こんな茶系の砂が舞うような場所じゃない。
周囲を見渡す。
そこは最初に見た通り、青と茶色の世界だった。
空は雲1つなく澄み渡っており、青く染め抜かれたキャンバスは壮大。
地面は茶色一色で塗りたくられており、遠くに山か何かがあるかぐらいで地平線が見渡せるほど広大。
「……は?」
意味が分からなかった。
「え? ここどこ? テキサス? それとも月? いや、月なわけあるか。死んでるわ」
慣れないノリツッコミをするほどに頭が混乱している。
というかここまで圧倒的に荒野で人っ子一人いないとなると、それはもう不安になる。
「待て待て、落ち着け。俺は高杉凛雄。ピチピチの高校2年生で、帰宅部所属。彼女はいない。今日は暇つぶしに陽明の噂話を検証に……」
『実はな……その測量鋲の中には異世界に通じるゲートがあるんだと。で、だ。その中で当たりを引いたら、異世界に飛ばされるっていう噂だぜ』
昼の陽明の言葉がフラッシュバックする。
……おいおいおいおいおいおいおいおい!
「まさか!? まさかなのか!? これ、そういうオチ!? いや、だって……なぁ! おいそうだろ!?」
盛大に騒いでみるも、誰も答えてくれなかった。
あぁ、さっき冷たい目で反応を返してくれたおばちゃんが懐かしい。
え? てゆうかマジ?
異世界転生ならぬ、異世界転移?
俺、まさか死んだの?
「いやいや、生きてるだろ。トラックにひかれてもないし、事故にあってもいない。ただ測量鋲を踏んだだけ。なのに……」
なのに、これだ。
このざまだ。
混乱する頭。蝕まれる精神。
さらにそこへ、1つの災厄が俺を見舞う。
――――ぐぅぅぅぅ。
お腹が鳴った。
しかも盛大に。
そりゃそうだ。昼はそばとミニカレー。
その後は何も食べてなくて5時間だ。
お腹が減る生理現象は止められない。
だがそのことに、派手に血の気が引いた想いだ。
鞄を探るも何もない。
辺りを見回しても何もない。
「えっと、これってヤバいやつ?」
空腹でしかも飲み物もない。
さらに辺りには人っ子一人どころか、町もコンビニも何もない。
最後の希望とばかりに、周辺を探る。
だがない。
測量鋲がどこにも。
この世界に来たのは測量鋲を踏んだから。
だからもう一度それを踏めば元の世界に戻れる。
そう思ったのだったが甘かった。
脳裏に2つの文字が浮かび上がる。
絶と望。
食べ物も飲み物も休める場所もなく、こんな荒野で野垂れ死ぬ未来が見えた。
「まさか、もう戻れないとか?」
急に胸が締め付けられるような痛みが走る。
もう戻れない。
もう元の生活ができない。
学校はつまらなくても、少ないながらもそれなりに交友関係は楽しかった。
陽明と一緒にふざけることもできないし、美月の毒舌をちゃかすこともできない。
お気に入りの漫画の最終巻も読むことができないし、何より父さん母さんともう会えない。
そう思うと涙が出てきた。
まさかこんな形で人生の終わりが来るとは思わず、膝をつく。
あるいは探せば何かが見つかるのかもしれないが、それすらも気力が沸かない。
お腹が空いているのもそうだが、見渡す限りの荒野。そこで何が見つかるというのか。
もうこのまま倒れてしまおうか。
そう考えて、倒れこもうとしたその時――
ピロリン
電子音。
スマホの音だ。
そうだ、スマホが生きてるなら……って駄目か。圏外だ。
だったら今の音は……?
1つの可能性にたどり着き、スマホを操作する。
プッシュ通知だ。
圏外なのにプッシュ通知が来る謎は取りあえず置いておく。
だって実際に来ているのだから、そこを議論してもしょうがないだろう。
もしかしたら、何か手がかりになるのでは、と思いそのプッシュ通知を見てみると、
『女神デバイス 死の世界1日目ログインボーナス!』
「…………は?」
女神デバイス? 死の世界? ログインボーナス?
意味が分からなかった。
いや、それぞれの単語の意味は分かる。
いや、やっぱ分からない。全然謎だ。
てか女神デバイスって……。
そう思って探してみると、アプリ一覧の一番最後に、それらしいアプリがあった。
天使みたいな白い装束を着た女性のバストアップアイコン。
なんだ、これ?
こんなものをインストールした覚えはない。
だから君が悪くなって削除しようとして、
「この世界のこと、か?」
プッシュ通知に書いてあった、死の世界、という単語。
それがまさにこの世界にマッチする。
見渡す限りの荒涼とした世界。
人どころか、緑さえも見えない、まさに死の世界。
そういうことなのか?
だとしたら、この女神デバイスというものは、この世界のことを知っていることになる。
とすればあるいは、ワンチャン帰り方も分かるのではないか?
そう考えて、俺は思い切ってアプリを起動した。




