第23話 魔法世界、再び
気が付くと室内にいた。
いや、例の廃屋だ。
ひょっとしたらアモスがいるかと思ったけど、さすがに誰もいない。
まぁ都合2日過ぎているから当然か。
時刻は昼らしい。
太陽がさんさんと降り注ぐ、今日も良い天気だ。
「ふーん、これが……」
俺に続いて外に出たイトナが、辺りを見渡しながらつぶやく。
そっけないように聞こえるけど、彼女にとってはこういった景色は初めてなのだろう。
周囲を興味深そうに見渡している。
「風が、気持ちいい」
そう言いながら、目を閉じ、全身で風を浴びるように両手を広げるイトナ。
その姿が、どこか絵画じみていて、それでいて神秘的なものを漂わせる。
思わず見とれてしまう、その姿。
だが、ぱちりと目を開けたイトナはこちらに険しい視線を送り、
「何? じっと見られて、キモいんだけど」
……この性格がなけりゃあなぁ!
「おい、てめぇら。遊びに来たんじゃねーんだぞ」
ぴょん吉が偉そうに先導するように言う。
「はいはい、分かってますよ」
「はいは一回!」
「はいはい」
「ぐぬぬ……おい、そっちの新入り。俺様に舐めた態度したらラピッドキックが炸裂するぜ!」
「え? あ、そう?」
イトナはまだぴょん吉という存在に慣れていないようだ。
動物なんてそう見たことがない上に、喋るんだから戸惑っても当然だろう。
「ちっ、ここは一発、俺様の凄さを分からせねーといけないみてーだな。おい、変身だ! アラーギーを使う!」
「なんでだよ、もったいない」
こいつ、変なところで使うなとか言っておきながら、それこそ無用づかいだろ。
「あ、いや。あたしは、その。ぴょん吉? さんの凄さは知ってます。その、彼との戦いで」
イトナが取り繕うように言う。
おいおい、そんな風に言うとこいつがつけあがるぞ。
「ふふん、なるほど。さっすがこの間抜け面とは違う。俺様の凄さをちゃんと分かってるんだからな」
誰が間抜け面だよ、誰が。
「よし、てめーら。俺様についてこい!」
気をよくしたらしいぴょん吉は我先に駆けだすわけだけど……。
「行くって、どこへ?」
「え?」
そう、今のところ俺たちにかくとした目的地というものはない。
一応、あのユノの村にあるオリハルコンが目的ではあるけど――
「村に行ったら、今度こそ殺されるんじゃないか?」
「うっ……」
はぁ、見切り発車かよ。
とはいうものの、俺としても良案があるわけじゃない。
「とりあえずその街の方に行くのがいいんじゃないの。聞いた感じだと、そこの八百屋のおじさんなら色々知ってるんじゃない? それにそのアモスって人もいるかもしれないわけだし」
なるほど。
あの村は何かがおかしかった。
そのための情報収集、ついでにアモスを探そうって魂胆は悪くない。
「おお、その通りだ。そしてついでにニンジンを買っていこう!」
「悪いけど金ならないぞ」
「なぜだ!? 500セロはあっただろ!」
「モイラにかっぱらわれたんだよ!」
「むむむ、モイラ様なら……仕方……あぁ、でもニンジンが食べたい!」
こいつの方がモイラの性格がよく分かってるのだろう。
強く言えない立場もあって、これ以上の追及は避けられた。
とりあえず街で情報収集。
それからアモスも探しながら、今後の方策を取るということで決定した。
「んじゃ、とりあえず行くとしますか」
あまり気張っても仕方ない。
道連れが増えた頼もしさもあって、俺は少し鷹揚にそう告げた。