第三百二十二話『繋がったもの』
――思えば、かなり迂遠で、長い戦いだったと思う。感慨に浸る間もなく訪れ戦いは、それまでの常識とはまた違ったものだった。新しい適応を強いられ、新しい勝ち方を強いられる。その中で自分たちが勝ち抜けたことは、今でもなんでか理由が分からないことの一つだ。
「……何で今更、そんなことを思いだすんだかな」
すでに分かり切っている事なのに、その疑問がなぜだか今日は強くちらつく。少しずつ慣れてきたものの、いまだに着慣れない装束を身にまといながら、坂宮黒乃は苦笑した。
「いつだって覚えておくべきことだからじゃないですか?……だから、ずっとずっと頭の中からその記憶はなくならない」
「そういうことだろうな。……ここまで俺たちが走りぬけてきた道のりは、間違いなく俺たちにとって必要なものだ」
隣を見やれば、同じような装束に身をまとうリヴィと、二人を見つめるロイドの姿があった。……あの戦いから誰も欠けずにここまで来られたのも、あるいは一つの奇跡かもしれない。
「過酷さで言えばあの時の戦いよりも上だったからな……。もう二度と、あんな役回りは御免だ」
すべての街を巡り、新しい治め方を提案する。それで素直に従ってくれればよかったのだが、特に魔族はその考えに賛同しない者も多かった。その時は、力づくでも聞いてもらうほかの行動はなかったのだが――
「……それでも、犠牲は本当に最小限だった。まるで、カヴォイ様の願いが今になってかなったみたいにな」
――誰も欠けずに、世界をボスから奪還する。カヴォイが描いたその未来は、魔王と神の消滅という形で崩壊した。……だが、それ以上の犠牲は少ない。……きっと、黒乃たちにできる最大限の働きがこの結果だ。それに関しては、胸を張って断言できた。
「そこから国づくりを始めて、ようやっと今に至る――この物語だって、きっと本にすれば大儲けだろうな」
カヴォイたちが紡いだような鮮烈さはない。あるのはただ、残された者たちの必死な思いだけだ。だが、それが世界を動かした。……神が最期に願った世界は、その意志によって引き継がれた。
「―—さて、そろそろ行かないとな。皆の前に出て語り掛けるのは、王としての一番の仕事だ」
「誰もが知ってる王になり、誰もが信じられる王になる。……それが、世界を一つにまとめるための極意ですもんね」
カヴォイが犯したミスは、自分の姿をとことん隠匿したことだった。それでは民の心は離れ、もっと身近にある希望へと傾倒してしまうだろう。……同じ轍を、踏むつもりはない。
「十年たってようやく慣れてきたんだ。……これから先も、きっともっと良くなる」
「そうですね。……俺も、それを信じてる」
「ああ、俺たちがそう信じればそうなるんだ。その伝説を支えたものとして、俺は後ろから見守ってるよ」
心を整えた二人を、ロイドが気楽な様子で送り出す。前に出ないからこそののんきさに苦笑しながらも、黒乃たちはしっかりと前を向いた。
「……それじゃあ、行きますか」
「……はい」
次回、最終回という形になるかと思います!カヴォイが望み、黒乃たちがつないだ世界の形をぜひ見届けていってください!
――では、また明日の午後五時にお会いしましょう!




