最終話『理想郷でなくとも』
「……皆、聞こえているか?拡声魔道具の出来はまだ悪くてな、聞こえなくなってしまったら申し訳ない」
「その分俺たちも声張って話すから、最後まで聞いていっていただけると嬉しいです」
王城のテラスにでて、そのおひざ元に集まった民衆に向けて黒乃たちは語り掛ける。それだけで、観衆は大きく沸いた。
「……この新都が出来てから、もうすぐ十年くらいになる。……どうだ?楽しんで生きて居られているか?……共存は、叶っているか?」
夢見た景色を実現するまで、人々には多くの負担を強いてきた。犠牲を減らしたとは言っても、その道のりに屍がなかったわけではない。それから目を背けてはいけないし、背けなかったから今があると思うのだ。
「……こうやって定期的に話ができるのも、きっと俺たちが努力して未来を掴もうとしてきた証なんだろう。……これは、皆がつかんだ勝利、皆がつかんだ平和だ」
カヴォイが権能をすべて持って消えていったことは、今にして思えば間違いなく正解だったと言えるだろう。黒乃に残っていた絶対の権能を使って得た平和では、今の形にはきっとなりえないからだ。
「この世界にもう英雄はいない。魔王もいなければ、神もいない。……ここは、俺たちが自分で選び取って、進んだ先にある現在だ。……それを、お前たちには噛みしめてほしい」
ボスの思想は許せるものではなかった。……なかったが、あの時の人類が間違えていたのもまた事実だ。自分で未来を選べない世界は間違っている。……アレは、その正し方を間違えただけなのだ。
「この世界の主権は俺たちじゃない。……お前たちは、自分の人生を選び取る権利がある。俺たちのことが憎いなら、力づくで俺たちの統治を奪いに来るのもいいだろうさ」
それだって一つの意思の表明だ。黒乃たちはそれを尊重する。……もっとも、黒乃たちも自分の意志を引っ込める気はないが。
「……まあ、そんなことをする人はここに来てないのも分かっていますけどね。皆さんの色、とても穏やかですもん」
それは、ずっとリヴィが心穏やかでいられる光景だった。―—カヴォイが最期に見せてくれた色にも、よく似ていた。
「毎度毎度そんなに話すことがないのは、俺たちの街が平和であることの証だと思う。……皆、それぞれの望む人生を生きてくれ。……それが、アイツの望みだから」
その声に交じった感傷に、観衆は少し疑問を覚える。それは何度も語られてきた物語でありながら、誰もその真相を知ることはない物語だった。
――それは、かつてこの世界にいた神。神を捨てることで、この世界に初めて名前を残した神。
――それは、かつてこの世界を統べた魔王。最強であることを望みながら、しかし柔軟にこの世界を見ていた存在。……その選択は、確かにこの世界を正して見せた。
その記録は語られど、その記憶が語られることは無い。……だが、この世界に二人の名前は確かに生きている。きっと、この先も生き続ける。―—黒乃たちの意志が、途切れない限り――
「……それでは、今日はこれくらいで引っ込むとするよ。……こんな短い話のために集まってくれて、ありがとうな」
その言葉を合図にして、観衆はワイワイと言葉を交わしながら解散していく。そうしてみんなの日常に戻っていくのが、この街の日常だった。
リベルが託し、カヴォイが背負い、それを黒乃たちが引き継いだことで守った世界、その完成が、きっとそこにはある。理想郷ではないけれど、誰もが理想を探せる世界がそこにある。
「……だから、悪くないんじゃねえかな」
「……ですね」
ゼロから作り上げたこの街―—『カヴォリベルズ』の光景に、二人は目を見合わせて頷いた。
ということで、長かったこの物語もついに完結を迎えました!ここまで見守ってくださった皆さんには感謝しかありません!
初めての連載ということで苦戦することも多々あったのですが、最後の方でようやく形になってきたのかなという感じはしています。いずれ機会があったら前半戦も書き直してみたいですね……
一年ないくらいの連載期間でしたが、得るものも多かった時間でした。モチベーションを保てたのもひとえに読んでくれる皆様のおかげですし、本当に感謝が絶えません。カヴォイたちの物語を最後まで見届けていただき、本当にありがとうございました!
明日か明後日からかは新しい連載作品が始まると思います。そちらも魔術ものではありますがテイストをがらりと変えていこうと思いますので、良ければそちらも見ていただけると嬉しいです!
――では、また別の作品で、あるいはいつかあるかもしれない番外編でお会いしましょう!ご愛読、ありがとうございました!




