第三百二十一話『新たな世界で』
――この世界では、かつて大きな争いがあったらしい。
「そんなこと言われても、俺には信じられないけどなー……」
「本当だよ。この世界は大きな波を幾度となく乗り越えて、その結果として今があるんだって。そのお話がまとめられたものが、今でも本屋に売ってるんだ」
王都―—否、新都の一角で、二人の少年がそんな言葉を交わす。その和やかな雰囲気は、そのようなやり取りが日常であることの証明でもあった。
「いや、教科書でも語られることだし知ってはいるんだけどさ……お前の父ちゃんと俺の父ちゃんが争ってたかもしれないって、ちょっと考えたくないよな」
「……それは同感。だけど、それを止めたのが今の新王様たちだから。……だから、僕たちは感謝しなくちゃいけないんだよ」
そう言って目を瞑る少年の頭からは、小さな黒い角が伸びている。紛れもない魔族の証をその身に宿しながらも、もう一人―—人族の少年はそれを気にも留める様子はない。
「こうやって一緒に生きていけるなら、最初からそうできたらよかったのにな……。それが出来なかったせいで、たくさんの人が死んだんだろ?」
「……それは確かにそうだね。僕たちの今の生活はたくさんの人たちの犠牲の上にある。……だから、僕たちはそれに感謝して生きていかないといけないんじゃないかな」
「感謝?死んでくれたことにか?」
「そう言うと急に不謹慎だなあ……。そういうことじゃなくて、今の僕たちの生活は当たり前だけど、それは最初から当たり前じゃなかった。……こんな生き方もできるんだって、証明してくれた人たちに、それを実現してくれた人たちに感謝をしなくちゃいけないってこと」
「……結局、新王様に感謝すればいい話じゃね?」
「ま、それはそうなんだけどね。……新王様も、誰かの犠牲を乗り越えてここにいるんだって」
まるで噂話をするかのように、魔族の少年の声が急激にトーンダウンする。その秘密感に興味を引かれたのか、聞き手は思わず身を寄せていた。
「……あの、新王様がか?」
「そう。……大切な誰かを、先の戦いで失ってるって。……その人のことは、ずっと語り継がれなきゃいけないんだって。……だから、その大切な人たちの名前がこの街のもとになってるって話だよ」
「……なるほど……ややこしい街の名前だと思ってたけど、ちゃんと意味があったんだな」
「そうだよ。……ところで、一つ提案があるんだけど」
「お、どうした?」
すっかり会話の主導権は魔族の少年に移り、人族の少年はその言葉に引き込まれている。……二人の間にある絶対的な違いを理解しながらも、二人は対等な友人としてそこにあった。
「……今日、新王様が王城前でお話をなさるんだって。……難しい話かもしれないけど、聞きに行ってみない?」
「……いいな。俺も、新王様たちの話が聞きたい」
「オッケー、交渉成立だね。……それじゃあ、行こうか!」
「おい、あまり全力で走るなって!俺は手加減してるお前にも追いつけないんだから――!」
――昼下がりの新都に、二人の少年の声が響き渡る。そこにあるのは命の輝きであり、魔族と人族がともに手を取り合う世界だ。
――これが、カヴォイが望み、そして黒乃たちが守り抜いた世界の姿だった。
ここに来て投稿ミスをかましてしまいました……この話以降はしっかりいつもの時間に更新されますので、物語の結末を見届けていただけると嬉しいです!あともう少しだけ、カヴォイたちの物語にお付き合いください!
――では、また明日の午後五時にお会いしましょう!




