第三百二十話『決意』
カヴォイの体から、力以外にも大切な何かが抜け落ちたことが分かる。……カヴォイはすべてを終わらせて、この世界と別れを告げたのだ。
「……勝手な奴だよ、本当に」
力なくへたり込みながら、黒乃はそうつぶやく。それは、身勝手な大将に対する恨み節でもあった。
「……もしかしたら、カヴォイ様も救える道があったかもしれないのに。……それを選ぶことを、カヴォイ様は許してくれないですもんね」
魂を削り切り、消えていくだけのはずのカヴォイの表情はひどく穏やかだった。それを見て、誰がこの運命を覆す選択をできるだろうか。……喪失があったとしても、これがカヴォイの選択した運命なのだ。
この世界は、神を失っても回り続ける。神が退屈に思えるほどに、この世界は安定して回っているのだから。……あとは、内側からそれを守る者が居れば十分だ。
「カヴォイが守ったこの世界を、俺たちは守り抜かなくちゃならない。……それも権能や異能なしで、俺たちの力だけで」
「……できるん、ですかね。人間はまた、魔族に追い詰められるかもしれない」
黒乃たちをはじめとしたカヴォイの軍勢は、魔族と人間が共存したとても珍しい例の一つだ。しかしそれはあくまで異例の共同戦線、それが浸透していくかと言えば話は別だ。
「……守らなきゃいけないだろ。……それに、俺たち二人だけでやらなくちゃいけないってわけじゃない」
苦笑して、黒乃は視線を遠くに投げる。その向こう側から、一人の魔族が、勝利の立役者が駆けてくるのが見えた。
「……終わったのか」
「ああ。……犠牲は、免れなかったけどな」
ボスの光魔術をその仕掛けですべて完封するべく、王都全体を駆けまわったロイドが久々に合流する。姿は見えなくても、その行動が勝利に導いたのが疑いようはなかった。
「……まあ、そんな都合のいい話はないよな。誰も欠けずに、相手の殲滅だけを行うなんて」
力なく崩れて落ちているカヴォイの抜け殻を見て、ロイドは目を伏せる。軍師は現実を見なくてはならない役職だが、今だけはそうもいかなかった。
「……危うさは、あったんだよ。それを止められなかったのは、その危うさを出さなくていい選択肢を見つけられなかった俺のミスだ」
カヴォイの力を借りなければ、ボスに対して勝利を収めることはできなかっただろう。それがロイドの見た限界で、現実となった懸念だった。
「……カヴォイは、俺たちに託すってさ。わざわざ権能をぶんどって、俺たちの力だけでこの世界をもう一度回してみろって」
「……そりゃ、中々に難題だな」
ボスを倒すというものよりは難しくないのかもしれないが、混沌を極めるこの世界を正しい形に収めるのはきっと困難を極めるだろう。長い時間もかかるし、いくつもの戦いを越えなければならない。……きっと、師匠ですら歩んだことのない困難な道のりだ。
「……上等じゃないか」
それを歩んで見せるのは、ロイドの自己証明に他ならない。世界の黄昏に現れた大きな難題を超えて見せることで、世界は新たな夜明けを迎えるのだ。
「……お前なら、そう言うと思ってたよ」
「そうですね。……思うところはあるけれど、俺たちがやらなきゃいけない事なんだ」
それを達成して初めて、この戦いは真に終わりを迎えられる。……そうしたら、きっとカヴォイも笑ってくれるだろう。
「……さあ、帰ろう。ここからどうするべきか、作戦会議をしないとだしな」
「そうだな。……カヴォイも、どこかから見ていてくれるさ」
魂はいつか巡り、どこかへと流れつく。……黒乃の魂が、退屈を持て余したカヴォイのもとへたどり着いたように。ならば、どこかでカヴォイの魂と再会することだってあっていいと、思う。
――それを願える世界に、きっとしてみせるのだ。
次回からエピローグ部分となります!残された彼らが描く未来、ぜひ見届けていただければと思います!
――では、また明日の午後五時にお会いしましょう!




